日本政策金融公庫総合研究所が2015年に実施した「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」では、自分の代で廃業する予定の企業は約半数にのぼる。また、廃業するか決めていない企業の中には、親族外への継承や企業の売却などの選択肢を視野に入れて、後継問題を検討しているようだ。少子高齢化社会で、経営者にのしかかる事業承継問題。悩み多き経営者は、誰に相談すべきなのだろうか。
「相談相手はいない」が3割超、孤独な経営者の姿が浮き彫りに
2016年に中小企業庁が発表した「事業承継に関する現状と課題について」によると、後継者問題の相談相手として「相談相手はいない」と回答した経営者は36.5%にのぼる。(2014年時)また、2013年に株式会社帝国データバンクが行った「中小企業・小規模事業者の廃業に関するアンケート調査」で廃業時に誰にも相談をしなかった理由を質問した。
その結果、「解決するとは思えなかった」「何とかできると思った」「誰にも相談しないと決めていた」という回答が合計で約80%を占めた。こうした回答からは、「経営者」という立場ゆえに、なかなか周囲に悩みを打ち明けられない姿が浮き彫りになっている。
一方、「後継者問題の相談相手は誰か」というアンケートへの回答で多かったのは、「顧問税理士・公認会計士」(28.1%)、「社内役員」(26.7%)、「親族」(23.9%)などである。(2014年時)経営者の右腕となって会社をもり立ててきた「仲間」に相談するケースが多いようだ。一方、「経営者仲間」(18.0%)「銀行等の金融機関」(8.0%)、「コンサルタント会社」(4.1%)といった第三者への相談は、少ないことが分かる。
「商工会議所等の公的機関」に相談したという回答者に関しては、わずか0.4%だった。その背景には、「気軽に相談できる反面、情報漏えいが心配」「承継実務は広範かつ専門的で対応できないのではないか」という懸念があるようだ。後継者問題はセンシティブな話題であるだけに、外部への相談はためらう経営者が多いのだろう。
70代、80代になっても後継問題が決まらない経営者も
高齢化社会の中で、経営者の年齢層もつり上がっている。先の日本政策金融公庫総合研究所経営者の調査では、廃業予定年齢は平均 71.1歳。70代、80代の経営者でも、事業承継の準備が終わっている企業は少なく、後継者の決定や株や事業用資産の整理などが終わっていない企業が多い。一方、自分の代で廃業を決めている経営者の企業には、後継者がいない事業環境の見通しが暗いなどのネガティブ要因もある。
しかし、金融機関からの借り入れといった負債が少なく身軽だというデータもある。後継者がいたとしても、事業承継時には自社株式や事業用資産の買い取り、相続税の納付など、多額の資金が必要になる場合がある。事業承継をスムーズに進めるためにも、できるだけ早く事業用資産や負債の整理を進め、身軽でいることが重要といえるだろう。
M&Aでの事業承継も増加、早めに専門家へ相談を
職業選択の自由が重視される時代になり、後継者となり得る親族がいても、事業の継続をためらう経営者は多い。少子高齢化で人口減社会に突入する中、国内市場は縮小傾向だ。厳しい事業環境が予測されるだけに、子供や親族への承継に二の足を踏んでしまうのだろう。一方、事業譲渡や企業買収といったいわゆるM&Aを活用しての事業承継を検討する中小企業も増えている。
ただ、メガバンクや証券会社、M&Aの専門業者が手掛ける案件は、中規模から大企業向けが多く、中小企業の後継問題という小規模のものになると、民間の担い手が不足しているという指摘もある。中小企業庁は先に、こうした事業承継問題に悩む中小企業の事業譲渡を円滑に進めるため、事業引継ぎ支援センターの全国展開を始めた。そして、2016年度は430件の事業引継ぎを実現したという。
先の後継者問題の相談相手に関するアンケート調査では、情報漏えいなどへの懸念から、第三者機関に相談をためらう経営者が多いことが分かった。ただ、事業譲渡や企業買収といった手法で事業承継をするとなると、事前にさまざまな準備が必要で、どうしても専門家の手を借りざるをえない。
また、事業・企業譲渡を決めてからマッチング相手を探すとしても、年単位での時間がかかることもあり得るのだ。できるだけ好条件で会社の未来を託すためにも、事業承継問題で悩んだら、経営者は早めに然るべき相手へ相談すべきだろう。(提供:百計オンライン)
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