今年1月末、セブン-イレブンは国内店舗2万店を達成した。ファミリーマート・ローソンといったコンビニ主要3社の国内総店舗数は、いまや5万店を超える。
コンビニの嚆矢は、東京江東区豊洲に1974年にオープンしたセブン-イレブンだといわれる。以降、セブンを先頭にして、国内では数多のコンビニが出店。覇権を争ってきた。一時期、群雄割拠を呈していたコンビニ業界も人口減少を目の前にして統合・再編が進んだ。
1980年にアメリカ資本によって設立されたサークルKと、百貨店の長崎屋の出資で設立されたサンクスとが2001年に統合。新たにサークルKサンクスとなった。
統合して競争力を強化したサークルKサンクスだったが、2016年にはファミリーマートと統合する。ファミリーマートがサークルKサンクスの取り込みを図った目的は、コンビニ最大手であり小売業界最強とも謳われるセブンに対抗するためだ。
同様の動きは、主要3社の一画を占めるローソンにも見られる。ローソンは地方で地盤を固めていたコンビニチェーンを取り込みつつ勢力を拡大させてきたが、2007年には生鮮コンビニとして急成長していたSHOP99を統合。ローソンストア100に組み込んだ。
その後も、ローソンはスリーエフやセーブオンといった中堅コンビニを統合するなど、店舗の拡大を進めている。
コンビニ各社の台頭により、ほかの小売・流通は売上を落とした。例えば高級路線を貫いていた百貨店は危険水域にまで追い込まれている。町の個人経営に至っては、瀕死の状態。それほどまでに、コンビニの急成長は目覚ましい。
『セブン-イレブン 金の法則 ヒット商品は「ど真ん中」をねらえ)』
著者:吉岡秀子
出版社:朝日新書
発売日:2018/1/12
セブンの革命 100円コーヒー
そんな快進撃を続けるコンビニ業界だが、ここにきて成長に鈍化が見られる。さすがに、国内総店舗が約7万店にもなると、業界は飽和状態。コンビニ業界は戦略の見直しが迫られている。
飽和状態になりつつあるコンビニ業界だが、セブンだけは別格だった。セブンは、弁当・パンといった日配食品がほかのコンビニに比べて飛び抜けて美味しいと言われる。その日配食品を武器にして、ファミマやローソンが追いつけないほどの差を広げてきた。
本書は、そのセブンの商品開発に迫った一冊だ。コンビニ業界のみならず日本全体・国民のライフスタイルをも変えた革命的な商品はたくさん生み出した。
セブンが起こした革命的商品といえば、真っ先に思いつくのがセブンカフェだろう。それまで、コンビニで買って飲むコーヒーといえば缶コーヒーが主流だった。
1993年に森永乳業が発売を開始したチルドカップコーヒー「マウントレーニア カフェラッテ」が大ヒット。これを機にチルドカップコーヒーのシェアが増えたが、缶コーヒーの売上は揺るがなかった。
それが、いまやコンビニ各店が100円コーヒーを導入。コンビニ商品として、100円コーヒーは定着。缶コーヒーは苦しい立場に追いやられた。
実はコンビニコーヒーはセブンが最初ではなく、むしろ後発。当初、コンビニの100円コーヒーは美味しくなかった。その概念をセブンが参入したことで覆した。
セブンが変えたPB
消費者の意識を変えたセブンの商品は、ほかにもある。例えば、大規模小売店が販売する自社PB商品は“安かろう、悪かろう”の代名詞でもあった。セブンのPB“セブンプレミアム”“セブンプレミアムゴールド”は、それらの常識を覆して“高いけど、美味しい”といった評判を確立した。
2007年に誕生したセブンのPBは、いまや年間1兆円を超えるが、リリース当初はセブンアンドアイグループでも、とりわけスーパーと目されるイトーヨーカドー・ヨークベニマル・ヨークマートを中心に販売された。
当初、セブンのPBは他社と同様に低価格路線を目指すと周囲からは見られていた。発売から3カ月後にセブンで取り扱いが始まめ、瞬く間に消費者が殺到する。
セブンのPBは、その後も品数を拡大させた。サラダチキンや食パンといったメガヒット商品も生む。ここまで、セブンが消費者から支持を得られたのはなぜなのか? それは、単に24時間営業をしていて便利、品数が多いといったことが理由ではない。
「マーチャンダイジング」がセブンの強さを支える
本書を読めばわかるように、セブンでは常に社内そして取引会社と商品開発に取り組んでいる。セブンでは、ヒット商品といえども常に消費者の声を汲み取り、それを踏まえて改良することに余念がない。
それは、まさにセブンが持つマーチャンダイジングの力だろう。マーチャンダイジングとは消費者が求める味や品質、価格、数量などを適切なタイミングで実施するマネジメントコントローを指す。
かつて、百貨店はマーチャンダイジングをもっともと必要とする小売業とされてきた。しかし、最近の百貨店は都心にある大型小売店でしかなく、マーチャンダイジングを発揮しているとは言い難い。
一方、セブンはマーチャンダイジングを常に発揮して、消費者の望むモノばかりではなく、セブン側から消費者に新しいスタイルを提案する商品も発売していくようになった。突出したマーチャンダイジング力こそが、セブンの強い武器になっている。
人口減少社会に入り、コンビニはこれまでのような右肩上がりの成長は見込めないだろう。また、コンビニを脅かすドラッグストアといった勢力も現れている。
それでも、コンビニ業界の盟主でもあるセブンは消費者、そしてライバル企業からも「セブンがやるからには――」といった大きな期待を背負う。セブンは、どんな次の一手を繰り出してくるだろうか?
小川裕夫(おがわ ひろお) フリーランスライター・カメラマン。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者などを経てフリーランスに。2009年には、これまで内閣記者会にしか門戸が開かれていなかった総理大臣官邸で開催される内閣総理大臣会見に、史上初のフリーランスカメラマンとして出席。主に総務省・東京都・旧内務省・旧鉄道省が所管する分野を取材・執筆。