富裕層(HNWI:High Net Worth Individuals)に関する調査から、40代以下の若いミリオネアやビリオネアの投資に対する関心や対象、生活面での懸念は、親の世代とは全く異なることが分かった。

若いHNWIはリスクを恐れることなく財を築いた成功者が多く、親の世代のように株式に投資するよりも、オルタナティブやスタートアップへの投資を好む傾向が強い。

資産運用に関しても、ウェルス・マネージャーとの信頼関係よりも、デジタル化による利便性や透明性を重視するという。

若いHNWIはリスクを賭けて財をなす?

お金持ち,投資,世代交代
(画像= GaudiLab/Shutterstock.com)

キャップジェミニはHNWIを、投資可能な資産を100万ドル以上保有している層と定義している。米国のHNWIは過去8年で2倍以上増えており、2015年には米全人口の2%だったが、2016年には7.8%に達した。

そんなHNWIにも世代交代の時期が訪れている。米ウェルス・アドバイザリー会社イントレピッド・ウェルス・パートナーズの設立者兼CEOデレック・ノーマン氏は、キャップジェミニとRBSが2014〜15年に実施した調査を分析し、30代、40代のミリオネア、ビリオネアは計算されたリスクに賭けることで財を成したケースが多いと指摘している 。

起業家=リスクテイカー(冒険心旺盛な人)という図式が出来上がっているが、これらのリスクテイカーは財を築き上げると、リスクを負うのを若干嫌がる傾向に転じるという点が興味深い。銀行口座にたくさんお金が入っていると、リスクへの見方やアプローチも変わるということだろうか。

米株には興味なし?スタートアップやオルタナ投資に積極的

若いHNWIは何に投資しているのだろう。ノーマン氏いわく、若いHNWIは親の世代が好む米株への投資には消極的で、代わりに「現金」「不動産」「スタートアップ」「オルタナティブ」「節税効果のある投資」に投資する傾向が強い。

世界的な低金利が続く中、リスクにオープンな若い世代のHNWIがリターン率の低い「現金」を貯蓄しているのは意外に思える。しかし若い世代のHNWIは、現金を安全で流動性のある投資商品や、新たな機会に投資する資金だとみなしている。

不動産や地方債、キャッシュバリュー保険、Roth IRA(米個人年金制度)は、若い世代のHNWIにとっても、節税対策にもってこいの投資商品だ。

親の世代に比べ、若い世代のHNWIは不動産投資に関心を示していないものの、キャッシュフローや減価償却資産としての価値はあるとみているようだ。

若いHNWIがスタートアップへの投資に熱心なのは納得できる。自ら起業した成功者が多く、成功までの道のりの険しさを知っているがゆえに、新たな才能と可能性を支援したいという気持ちが強いのだろう。

キャップジェミニの調査では、資産配分に関して30歳以下のHNWIの51%が「国際投資」と答えているが、同じ回答をした高齢層(60歳以上)のHNWIはわずか13%。高齢層で最も多かったのは37%の「エクイティ」だった。

8割以上が資産運用のデジタル化を希望

資産を守る・増やすという観点では、若いHNWIは親の世代よりも積極的だ。高齢層のHNWIでウェルスアドバイザーなど専門家のアドバイスを利用しているのは16%だが、30歳以下は27%だ。

若い世代は洗練されたファイナンシャル・プラニング・サービスを求めており、自分の要望を本当に理解してくれるウェルス・マネージャーを必要としている。親の世代のように、「長年の付き合いだから」「ほかのマネージャーを探すのが面倒くさいから」というだけの理由で同じウェルス・マネージャーを利用することなく、必要に応じて自分の要望を満たしてくれるマネージャーに乗り換える合理性も備えている。その証拠に、複数のマネージャーに相談している30代以下の割合は67%だが、60歳以上は3%しかいない。

若いHNWIは財政や投資をより複雑で国際的な視点からみているため、同じ視点を持ったウェルス・マネージャーを好むようだ。マネージャーを選ぶ重要事項として、それぞれ80%が「利便性が高く、価値のあるミーティングを通した時間の効果的な使い方」「好調な投資実績」「報酬の透明性」を挙げている。60歳以上は「自分の需要に対する理解」「リスクへの耐久性に対する理解力」「好調な投資実績」を、それぞれ90%が重要事項としている。

若い世代のHNWIはサービスのデジタル化にも非常に興味が強く、ウェルス・マネージャーに対する要望についてのアンケートでは、30代以下の85%が「(サービスの)デジタル化がどれほど進んでいるか」、89%が「将来デジタル化がどれほど進むか」を重視している。また77%がそれを理由に「マネージャーを変えるかもしれない」と答えた。60歳以上で同様の回答をしたのは40%以下だ。

高齢層の最大の懸念は「健康」、若年層は「子どもの教育」

お金があるからといって、心配ごとがひとつもないというわけではない。人生のステージを考慮すると当然の結果ではあるものの、ここでも世代によって心配ごとの対象は異なる。

若いHNWIは83%が「(自分の子どものために)高水準な教育」、80%が「子どもの健康」、73%が「教育費の値上がり」を挙げているが、高齢層のHNWIは68%が「家族と自分の健康」「医療費の値があり」、62%が「一生暮らせる資産」と答えた。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)