最近の貿易問題を巡る米中の互角の応酬を見ていると、中国がいかに強大になったかを感じさせられる。GDPの規模では米国に次ぎ、今やどの国も経済的には中国を無視できない。しかし一方で、その特異な政治体制や様々な規制などから、中国の証券市場は世界の機関投資家にとっては敬遠されがちだった。それが今、大きく変わろうとしている。

中国A株が6月1日よりグローバル株式指数に組み入れスタート

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(画像=bluedog studio/Shutterstock.com)

あと1週間足らずで、MSCI新興国株指数に中国本土市場上場の人民元建て株式(A株)が組み入れられる。MSCIが集計・発表する株価指数は世界中の運用者が参照しており、その新興国株指数についても1.6兆ドルもの運用資金がベンチマークとしている。

MSCIは2014年から中国A株の組み入れを検討しながらも、3年連続不採用としてきた。しかし、中国市場の一定の改革を評価し、2016年6月にやっと採用を決定した。そして今月15日には、実際に組み入れられる234銘柄についても発表を行った。

組み入れは6月と9月の2段階に分けて行われ、同指数にA株が占める比率は6月当初に0.39%、9月で0.78%となる。比率はかなり限定的だが、組み入れられること自体の意味は大きい。MSCI新興国株指数に忠実に追随する海外のファンドにとっては、中国株は「買わなくてはいけない」投資対象となったのだ。異質な国、或いは市場として見られがちだったところからの大転換となる。

4月にストック・コネクトという制度(香港と上海・深センの間で相互に上場株式の取引ができる制度)を通じて海外投資家が購入した上海株の金額は、ネットで275億元(44億ドル)と、1年前よりも4倍以上増加した。深セン市場でも、同3倍以上の112億元が海外投資家によって購入された。この流れは来月以降加速することが見込まれ、組み入れ後には約180億ドル程度の海外資金が中国株式市場に流入するだろうとする見方(バンクオブシンガポールのストラテジスト)をウォール・ストリート・ジャーナルなどは紹介している。

ちなみに、年内にはロンドン株式市場との間でもコネクトの制度が始まり、中国の上場株式が預託証券の形でロンドンでも取引できるようになる見通しだ。これも中国株式市場の国際化をさらに促すことになるだろう。

中国の債券もグローバル債券指数に組み入れられる方向

株式だけではない。人民元建ての一定の中国国内債についても、ブルームバーグ・バークレイズ・グローバル総合インデックスに採用されることが4月に発表された。いくつかの更なる市場の改善が条件として挙げられてはいるものの、2019年4月より20ヶ月かけて、段階的に3兆ドル弱相当の中国国内債が同インデックスに組み入れられる予定だ。指数全体に占める中国国内債の比率は5.49%となり、通貨別では米ドル、ユーロ、円に次いで4番目の大きさとなる。

世界で3番目に大きい市場である中国の国内債残高は11兆ドル以上と見られており、今回の指数組み入れ額はそれに比べれば小さく感じられなくもない。しかし、中国の債券市場も、その株式市場同様、グローバルな投資家にとって「マスト」な投資対象になろうとしていることに大きな意味がある。またバークレイズ以外にも、シティバンクやJPモルガンが算出するその他の代表的な債券指数でも、同様に組み入れが検討されているとみられている。

中国の国内債市場にも、既に海外投資家が活発に資金を投入している。4月には、海外投資家が保有する中国国内債は過去最高の1.15兆人民元(約1800億米ドル)となった。債券市場でも香港と中国国内をつなぐボンド・コネクトという制度が2017年7月より始まっており、海外の投資家が中国国内債に投資しやすい環境がさらに整ったことも背景にある。海外投資家の中国国内債保有率はまだ2%程度にとどまるものの、今後この比率も急速に高まりそうだ。

中国にリスクはあっても、分散投資の観点では必要な投資先

もちろん中国の経済や市場には、投資家にとって心配な問題が様々存在する。朝令暮改の中国当局の姿勢を除いても、米国との貿易戦争の行方は株式市場にとって大きなリスクだ。また債券市場でも、今後デフォルト(債務不履行)が大幅に増える見通しとなっている。昨年は18の発行体がデフォルトしたが、今年は既に10の発行体がデフォルトしており、その中には上場企業も含まれる。中国政府が以前のように安易に企業を救済せず、民間の債務縮小に向けて厳しい姿勢で臨んでいることも影響しているとみられている。

大手格付け機関フィッチ社によると、2015年から2016年の資金調達が容易だった時に発行された多くの債券が、今年から来年にかけて借換えの時期を迎えるという。債務比率が高い企業や、財務内容の良くない企業では借換えができず、デフォルトするものも少なくないだろうとの見方を示している。

しかし、問題を抱えるのは中国だけではない。予測不能な大統領を抱える米国や、域内の経済格差に対応しきれないユーロ圏、膨大な財政赤字に打つ手のない日本、米国の利上げに自国通貨が揺さぶられている新興国など、結局どこを見ても投資家にとってリスクは存在する。中国市場に大きなリスクがあったとしても、リスク分散の観点からは中国は投資対象として必要だという流れはもはや変わらない公算が高い。むしろ、投資家は痛い目を見ながらも、中国市場への投資を増やしていく可能性が高いだろう。

北垣愛
国内外の金融機関で、グローバルマーケットに関わる仕事に長らく従事。証券アナリストとしてマーケットの動向を追う一方、ファイナンシャルプランニング1級技能士として身近なお金の話も発信中。ブログでも情報発信中。http://marketoinfo.fun