中国の客船クルーズ市場は繁栄の一途である。世界最大のクルーズ船運航会社、カーニバル・コーポレーション傘下のプリンセス・クルーズ社が、中国に進出して5年になる。この間、市場はどのように成長したのだろうか。経済サイト「界面」が特集した。日本でも中国発クルーズ船の寄港は、馴染みの光景となった。果たして更なる発展は約束されているのだろうか。

上海、天津、厦門の三母港体制

中国経済,観光業,旅客業界
(画像=PIXTA、サファイア・プリンセス)

プリンセス・クルーズは2013年、中国市場に進出した。当時の中国客船市場に、風穴を開ける大事件だった。2014年、サファイヤ・プリンセス号(11万5875トン、三菱重工製)は、上海を母港とするため、初めて中国へ回航された。以後クルーズを何度も催行し、延べ7万名の賓客を運んだ。

2015年、プリンセス・クルーズは設立50周年パーティの席上、上海に加え天津を母港にすると発表した。その後2016年には、ゴールデン・プリンセス号(10万8865トン)が天津へ回航されると、サファイヤ・プリンセス号は、厦門に“転戦”した。そして同社は“三年三母港”体制を目標とした。

2017年には新造船、マジェスティック・プリンセス(14万2229トン)を中国市場に投入した。この船の中国名を“盛世公主”と命名したのは、姚明(中国バスケットボール協会主席)夫妻である。同船はフルに回転し、すでに56回の航海を行い、23万人を運んだ。

2018年の新戦略

これまで5年間の成績は疑いなく成功と言える。これまで中国発着の主力は、日本・韓国など近海路線であった。2018年は、中国発着ではない遠方の海外路線への誘致を強化する。富裕層の要望が集まっている、アラスカ、北欧、東南アジア、オーストラリア・ニュージーランド、アメリカ、世界一周の6路線である。中でもアラスカ線と北欧線は、顧客サービスを大幅にグレードアップする予定だ。

アラスカの場合、まず飛行機でアラスカに飛ぶ。そこから8泊9日くらいのゆったりしたクルーズに出発するパターンだ。中国富裕層は、南極やアラスカ、北欧など極地を好む傾向が強い。

新鋭船マジェスティック・プリンセス号は、7月中旬「サッカーワールドカップ」クルーズを催行する。4泊5日で上海-福岡を往復しつつ、顧客にワールドカップの新しい楽しみ方を提案するという。

競合の厳しい中で

しかし、先行者利益を享受するプリンセス・クルーズといえども、将来は決して安泰ではない。新しい戦略を打ち出しているのは、競合が激化しているからだ。上海を母港とするものだけで、すでに6つのクルーズ船会社が進出した。これまで通りの利益を出すのは簡単なことではない。

しかし客船クルーズ業界にとって、中国をスルーするわけにはいかない。こんなに成長の早い市場は世界中どこにもないからだ。

プリンセス・クルーズのアジア・太平洋地区の責任者は、「界面」記者に対し、次のように自信を見せた。

「これまでの研究から、我々は中国消費者の嗜好を十分に理解している。それらを取り入れてマジェスティック・プリンセス号を建造したのだ。これからも中国市場向けの商品をたくさん提案していく。そして実際に、夏期を中心として、毎年10~15%の伸びを示している」

「中国人の年間海外旅行者は、2億人前後に達している。それに比べればプリンセス・クルーズ社の年間客数は250~300万人である。まさに大海の一滴にすぎない。市場空間は非常に大きい」

競合の激化は市場を活性化し、新しい顧客の開拓に直結する。日本の各港湾による、中国クルーズ船の誘致合戦は、今後も熱を帯びるばかりとなりそうだ。また世界各地のクルーズ船で、中国人客とバッティングすることになるのも間違いない。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)