中国で新たな経済成長分野が勃興中だ。それは“男性経済”である。女性に圧倒されていた男性たちの消費が、ようやく“自我”に目覚めたということだろうか。女性目線不足の指摘されることの多い日本社会とは、かなり違いがあるようだ。ニュースサイト「今日頭条」が取り上げた。内容を精査してみよう。

男性消費者は低価値?

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(画像=PIXTA)

民間調査機関iiMedia Researchの発表した「2017-2018中国移動電商行業研究報告」 によれば、ネット通販の利用者は、女性に偏っている。男性42%、女性58%である。天猫(アリババのB2Cサイト)淘宝(アリババのC2Cサイト)唯品会(ネット通販4位)は、とくに女性が多い。唯品会の女性比率は76%に上る。

女性主導の消費経済が浸透している中、男性の消費は伝統的な観念に縛られたままに思えた。女性の消費に比べ、その価値は一段低いものとみなされた。粗略に扱われ、だれもその変化に目を向けることなどなかった。どうでもよい存在だったのである。

しかし国民の可処分所得が上がるにつれ、観念は自由に解き放たれ、社会生活の内容は豊富となった。そして男性たちは、自我意識に目覚めつつある。

目覚める“男性経済”

各種データはそれを証明している。

2018年1月、銀聯(銀聯カード)は「2017移動互聯網支付安全調査報告」を発表した。それによれば、男性は2017年、月平均5000元をネット通販に費やし、女性を0.8%上回った。これは初めての事態である。

またInteractive Advertising Bureau(IAB)の調査データでは、PC上におけるネット通販消費者の男女比は、57対43だった。またスマホでは、53対47である。

さらにBoston Consulting Groupの研究でも、男性の消費は多様性、金額とも増加している。そして伸び率は女性を上回る。

男性の消費意識は覚醒し、多くの新市場が発掘されるのを待っているのである。

男性化粧品、スキンケア伸びる

これまで男性たちが伝統的に愛好してきた市場は、PC、車、アウトドア、家具家電、ゲームなどであった。

4月中旬、iiMedia Researchと唯品会は連合で「種草一代95后消費報告」を発表した。95后(1995年以降の生まれ)たちの消費動向をまとめている。それによると彼らは、他の年代とはっきり区別できるという。

2015~17年にかけて、唯品会では男性化粧品が毎年60%ペースで伸びた。スキンケア市場も傾向は同じである。全体の伸びは11%なのに対し、男性用は24%の伸びだった。けん引したのは95后である。

また一線級都市(北京、上海、深セン、広州)の男性は、73%が、顔やファッションなどの見た目は、就職、デートのため非常に重要と考えている。18~35歳では83%に上昇する。

AI関連とハイエンド

さらに調査の示す顕著な傾向として、スマートスピーカーなどAI搭載製品の男女比がある。これは男性85%、女性15%と大差がついている。女性消費者の大部分は、こうした製品にも外観のおしゃれさを要求している。男性は性能を重視し、見た目はあまり気にしない。草創期の製品とはつまり、男性向けの段階ということだ。

もう一つは高級品である。男性は、車やデジタル製品だけでなく、宝飾品やワインまで一流品を好む。そしてブランドロイヤリティが高い。バーバリーやコーチなどのブランドでも、メンズ商品は高い伸びを示している。

消費の主力に

金融関係のレポートでは、男性顧客は今後、消費の“絶対主力”になると表現している。昨年の双11(11月11日)セールの日、借金して買い物をした人の男女比は、65対35であった。数々のデータが男性経済の勃興を示している。

中国のオフィスにおいて、男女は同等に働いている。大学卒業者比率もまったく互角だ。そして家庭では女性がしっかり主導権を握っている。中国では、夫婦喧嘩は非公開ではない。これまでたくさん観戦したが、夫側の勝利する姿を見たことはない。男性にとってはとても厳しい環境だ。

新しい消費分野の成長とともに、男性たちは、母親や妻のくびきから、スマートに脱出を図っているようにも見える。ここは素直にエールを送っておきたい。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)