高級機械式腕時計の市場は「パテック フィリップ」や「ロレックス」といったスイスメーカーの牙城である。そこへ日本メーカーが挑戦状をたたきつける。

戦いの舞台は、世界中の目利きバイヤーが集まるバーゼル時計見本市。参戦するのは老舗メーカーばかりではない。創業40年に満たない「ウブロ」は見本市でも高い注目を浴びている。

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(画像=VladaKela/Shutterstock.com)

他と同じ腕時計は創らない

「これまで見たこともない時計を創る」そんな想いを標ぼうするイタリア人のカルロ・クロッコ氏は1980年、スイスのレマン湖畔の小さな町ニヨンに「ウブロ(HUBLOT)」を立ち上げた。ブランド名はフランス語で「舷窓」を意味し、その名の通りビス止めベゼルがプロダクトの特徴になっている。

2018年のバーゼル見本市でも、ウブロはフラッグシップモデル・ビッグバンの新型を披露した。スケルトンモデルは今や珍しくはないが、透明性・耐衝撃性で圧倒的に優れるサファイアクリスタルを採用したモデルは他にない。

ウブロのクラフトマンシップは、スイス伝統の手作業、マジックゴールドを始めとした独自開発の新素材、そして革新的なデザインの「融合」をコンセプトとする。こうしたウブロのスタンスは、パテック フィリップを始めとするスイスの伝統的メーカーにも影響を及ぼした。

強みは斬新なプロダクトだけではない。派手なプロモーションも世間の注目を浴びている。アスリートを始めとした様々な分野とのコラボレーションに積極的なのは有名な話だ。

良く知られたところでは「世界最速の男」ウサイン・ボルトがウブロの公式アンバサダーを務めている。日本でも、サッカー協会とプロバイダー契約を結び、代表チームに「ビッグ・バン ブルー ヴィクトリー」を提供したこともある。ウブロにとって、アスリートはかけがえのない広告塔なのだ。

時計市場を席巻したスイスメーカー

スイス製腕時計の生産数量は3000万本に満たず、7億本に迫る中国の1/20以下だ。世界シェアの2.5%に過ぎない。一方で生産金額は224億ドルとダントツでトップ、シェアは5割以上に達する。高級腕時計市場はスイスの独壇場なのだ。

1970年代のクオーツショック(低コストで精度の高いクオーツの誕生)で機械式腕時計は大打撃を受けるものの、2000年代に入って新興国における高級腕時計人気の追い風に乗って盛り返した。今ではアジア市場が輸出の半分を占める。

高級機市場に挑戦する日本メーカー

東京から東北新幹線で3時間、標高1000mの岩手山を始めとして大半を標高300m以上の高原が占める。そんな「雫石高級時計工房」でグランドセイコーは作られている。職人の数は20人、盛岡セイコー工業の中でも特に技術力の高い社員が担っている。機械作業では困難なマイクロメーターの誤差を「マイスター」たちはやってのける。

機械式時計は200〜300もの細かい部品で構成される。しかも、ただ組み上げただけでは完成しない。部品一つひとつの磨き上げが欠かせないのだ。

グランドセイコーはコストパフォーマンス、つまり「お手頃価格なのに造りが良い」点が海外でも高い評価を得ている。具体的にはダイヤカットされた時計針、アウトパーツの仕上がり、そして内製された精度の高いムーブメントだ。高いクオリティーを産み出しているのが雫石工房というわけだ。

日本メーカーの高級腕時計戦略

ジャン・マルク・ヴァシュロンがジュネーブのサン・ジュベル地区に時計工房を設けたのは1755年だ。歴史の重みが持つブランド力という面ではスイスメーカーに敵わない。しかし歴史が全てでないことは、ウブロの成功が証明している。

現在、グランドセイコーの販売数量は年間10万本、IWC(International Watch Company)とほぼ同数だが、80万本を誇るロレックスの背中は見えない。それでも業界関係者は「グランドセイコーがスイスの顧客を奪いつつある」と指摘する。

シチズンもスイスのメーカーを相次ぎ買収している。日本メーカーの高級腕時計戦略、今後の動向に目が離せない。(ZUU online 編集部)