トヨタ自動車 <7203> は2009~2010年にかけて、アメリカで大規模なリコールを余儀なくされた。運転中に車が急加速したために事故が発生したとして、多数の集団訴訟、民事訴訟に加え、カリフォルニア州オレンジ郡検事局からも起訴された。議会公聴会での豊田社長の発言の様子はマスメディアで繰り返し放送され、その低姿勢な説明の様子は印象的だった。

アメリカ運輸省高速道路交通安全局は2011年2月、最終報告を発表したが、電子制御装置に欠陥はなく、急発進事故のほとんどが運転ミスであると結論付けた。それでもトヨタ自動車は民事訴訟に対して和解に応じており、訴訟費用を含め30億ドル程度を支払っている。さらに、アメリカ司法省とも和解しており、12億ドルの和解金を支払っている。

当時、GMが経営不振に陥っていたこと、トヨタ自動車の販売台数が初めてGMを抜いたことなどからアメリカ自動車メーカーが危機感を強め、政治的な圧力をかけた。それがこの“トヨタ叩き”に繋がったといった見方もある。この時のトヨタの対応は極めて冷静で、低姿勢、「顧客第一主義」を貫いた。それがうまくいき、アメリカでのビジネス基盤を失うことなく、現在に至っている。果たして中国企業に同じことができるだろうか?

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(画像=zhu difeng/Shutterstock.com)

中興通訊、輸出管理規制で危機

アメリカ商務省は4月16日、中興通訊(00763)が輸出管理規制に違反、アメリカ製の通信機器をイランや北朝鮮に違法に輸出していたとして、アメリカ企業による輸出管理規制対象となる製品、技術、ソフトウエア輸出を7年間禁止すると発表した。

ちなみに、中興通訊は、グローバルで通信キャリア向けに通信機器、システムなどを、消費者向けにスマホなどを製造・販売する、華為技術と並び中国を代表する通信設備メーカーである。売上高の10%以上を研究開発に充てるなど、技術志向の強い企業で、5G分野では世界のトップグループの仲間入りが果たせるのではないかと期待されている優良企業である。

この問題に関して、中興通訊は20日午後、説明会を開いており、1.アメリカの制裁によって同社はショック状態に陥っている、2.不公平、不合理な処罰に断固として反対する、3.真摯に過去を振り返り研究開発投資を拡大し、人のせいにしたりせずにすべてを受け入れて責任を持つと答えている。

2.について中興通訊は「アメリカ商務部が行ったこのような決定に対して断固として反対する。不公平、不合理な処理、さらに貿易問題を政治問題化することに断固として反対する。アメリカ側は些細な問題を無限に拡大し、一企業に対して極めて大きな影響を与えている。この点について同社は高度に関心を注いでおり、法律を通じて、許されるあらゆる手段を用いて、問題の解決に当たる」と答えている。

今回問題になった違法取引であるが、2017年3月に総額11億9200万ドルの罰金(8億9200万ドル、さらに違反があれば3億ドルの追加)を支払うことで同意している。8億9200万ドルについては2016年12月期決算で費用処理が済んでいる。

今回新たに違法な輸出が見つかったというわけではない。幹部社員4人を解雇し、他の社員35人についても処分を行うという約束を、一部守らなかったことが要因である。同社にとって、イランや北朝鮮との取引は収益的にはごく小さな取引である。残念ながら、同社にとって些細な問題であっても、アメリカ政府にとってはそうではない。また、ルールや約束に対する米中の考え方の差が出たともいえよう。

中国の弱点、半導体自給率の低さ

この問題には言うまでもなく、米中貿易紛争といった大きな背景がある。

アメリカ通商代表部は現地時間4月3日午後、ホームページ上で、301条調査に基づき、中国からの輸入品に対する追加関税の建議を発表している。約1300件の関税項目、金額は約500億ドル相当で、対象製品は航空・衛星、情報・通信技術、ロボット・機械など。25%の追加関税をかけるとしている。

また、トランプ大統領は4月5日、「中国による不公正な報復措置を踏まえて、私はアメリカ通商代表部に対し、通商法301条に基づいた1000億ドルの追加関税が適切であるかどうか考慮し、そうであるとすれば、この関税を課す製品を特定するよう指示した」とする声明を発表している。

中国ハイテク産業の最大の弱点は中核部品である半導体を海外、特にアメリカに大きく依存していることである。例えば、サーバー、パソコンのMPUは100%海外から供給を受けており、工業用MCUについても国内シェアは数%である。メモリーでは、DRAM、NAND FLASHは100%輸入である。テレビ用半導体の自給率もほぼゼロに近い。スマホ用の半導体では、Application Processor、Communication Processorなどでは一部、国内生産があるといった程度ある(参考.2017年中国集積電路産業現状分析、天風証券研究所)。

現段階では、個別企業の違法行為に対する制裁といった形ではあるが、追加関税措置に繋がる話である。それ以上に、広範な中国企業に対して半導体を売らないという制裁を行うとすれば、中国のハイテク産業は大きな打撃を受けることになるだろう。

もちろん、中国側にも、アメリカ経済に対して大きなダメージを与えられる方法は複数ある。ハイテクの面では、レアアースの供給を制限するといった対抗策がある。ただ、それをすれば、全面的な貿易戦争に突入することになるだろう。各国の経済活動は国境を越えて、複雑に絡み合っている。それは米中だけでなく、日本も含め、グローバルに絡み合っている。米中貿易戦争は世界全体のサプライチェーンを分断させ、世界経済にとって大きなマイナスとなる。それは株式市場にも大きな影響を与えることになる。

当面は、中国サイドがどう対応するのか注目される。冷静な対処を期待したい。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ株式会社 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。
HP:http://china-research.co.jp/