シンカー: 雇用・賃金状況が改善し、米国の家計にも支出の力が回復してきている。一方で、自動車や教育などへの負債の拡大が、家計の支出の力を抑制するのではないかと懸念されている。雇用・賃金状況が改善されれば、家計の貯蓄率が低下していく。リーマンショックの前には、家計の貯蓄率はマイナスとなり、明らかに行きすぎがみられた。しかし、現在は、雇用・賃金状況が改善していても高止まっていた家計貯蓄率がようやく低下を始めたばかりである。5%程度であったものが、ようやく2%程度まで落ち、需要不足も過多も生まない、巡航速度になってきた。家計の負債の拡大の問題より、需要過多がインフレ圧力を強くし、FEDの金融引き締めの加速が、景気回復を止める方が先だろう。しかし、そのような動きが出るまで、まだかなりの時間があると考える。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

米国経済(5/24):販売台数はピークを過ぎたが、景気動向を示す存在として重要

米国ではドライブに適したシーズンが間近に迫っているが、自動車販売台数がピークを過ぎたのかどうかを 確認する時期も来ている。

自動車産業…景気の転換点を示す、という面で優れている:自動車産業は、それ自体が景気をけん引するわけではないが、実績には景気動向が明確に表れる。米国の自動車販売は2017年に1,750万台でピークをつけており、2019年中頃にかけて徐々に減速すると弊社は見込んでいる。弊社は、2019年遅くから2020年初めに米国がリセッション入りすると見込んでいる。フィードバック・ループとして自動車業界のトレンドに注視することが、現在はより重要となっている。

自動車産業…現在の景気拡大局面で、米国実質GDP成長率を年平均0.2%ポイント押上げる:自動車セクターの米国経済への寄与は、弱まっているとは見えないかも知れない。だが、ハリケーン「ハービー」「イルマ」襲来の前に寄与度は低下しており、2017年遅くに再び上昇したのは買替え需要が背景だった。自動車セクターは今後、米国のGDP成長率を少し押下げる要因になると見込まれる。

自動車ローンの条件緩和が販売を下支え、だが延滞率は上昇している:ディーラーとメーカーが消費者の月次債務返済額を下げようとしており、金利安定、支払い期限長期化、「自動車の資産価値に対する融資額の比率」の上昇、が目立つようになった。だがこれにもかかわらず、あるいはこれを理由に、自動車ローンの延滞率は上昇している。これは金融全体としては大きな問題ではないが、自動車購買力の低下やファイナンス付きの自動車販売が難しくなっていることを示している。最近の減税が助けにはなったが、そうした効果は2019年初めがピークとみられる。我々は基調的なトレンドを注目する必要がある。

人口動態を基にすると、自動車販売は年間1,600万-1,700万台で安定する見込み:米国自動車販売は2017年が1,720万台で、2018年は平均する年率1,710万台のペースで推移している。弊社は販売トレンドを見る上で、比較的若い年代(15-44歳)に注目している。総じて言うと、年間販売台数は長期的に1,600万台を上回ると弊社は見込んでいる。

自動車販売は2016年がピークだったと見込まれるが、2017年末にはハリケーン「ハービー」「イルマ」の影響で景気サイクル終盤での急増がみられた。だが、消費者の嗜好変化、人口動態、債務への懸念、そしておそらく通商問題への懸念もあり、自動車購入は軟調となる可能性が高くなっている。

自動車産業は通常、景気拡大や後退を主導することはない。しかし、景気サイクルの状態との関連性は強く、それを示す要因になっている。本レポートの目的は、自動車の販売、消費者債務、貿易、そしてメーカーの収益性について、それぞれのトレンドに注目したい。弊社は、米国景気は拡大局面後半に入っているとみている。景気見通しも今後12カ月は明るいが、懸念要因が今後明らかになるとも見込んでいる。これらは、今月(2018年5月)発行した弊社の米国景気見通しで述べている。

欧州経済(5/24):6月利上げの他にも調整が近い

5月FOMCの議事要旨で、6月の25BP追加利上げに向け引続き進んでいると示された。フォワードガイダンスと超過準備預金金利(IOER)の変更が近いことも明らかになった。

FRB高官は、中期的にインフレ目標を達成できるという自信が強まっていることを示していたが、最近のインフレ加速の持続性も引続き議論されていた。ただし全体的には、景気見通しは前回(3月)FOMCからほとんど変わっていないとFRB高官たちは感じており、FOMCが政策正常化に向かっていることは変わらない。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司