入院時の入院から退院までの入院日数が短くなってきています。専門的には「在院日数」という言葉が使われますが、ここでは「入院日数」と呼ぶことにします。
なぜ入院日数が短期化しているのでしょうか。
入院日数の実態
1|入院日数の推移
厚生労働省の資料によれば、1984年に54.6日だった入院日数は、15年後の1999年には39.8日に、さらに15年後の2014年には29.9日に縮小しました。2014年の29.9日は1984年の54.6日の半分強(55%)にあたります。その後も入院日数は減少を続け、2016年には28.5日となりました。
入院日数が長くなりがちな「療養」、「精神」、「結核」等の病床を除いた「一般病床」だけに限ると、1984年の39.7日が、2014年にはその半分未満(42%)の16.8日に、2016年には16.2日になりました。
2|病気別に見た入院日数の変化
下の表は、病気の種類別に見た入院日数の変化です。病気ごとに治療に要する日数の大小はさまざまですが、いずれの病気でも入院日数は減少してきています。
2002年から2014年にかけての減少率(表の右端)で見ると、虚血性心疾患(▲59.8%)、白内障(▲58.8%)、悪性新生物(がん)(▲44.3%)、胃潰瘍・十二指腸潰瘍(▲34.8%)、結核(▲31.7%)の入院日数の減少率が30%を超えています。
3|それでも長い日本の入院日数
グラフ2は、OECD(経済協力開発機構)の調査結果ですが、日本の入院日数が他国に比べ突出して長いことがわかります。もちろん国毎に入院の定義が違っていたり、文化的な背景が違っていたりしますから単純に比較することはできませんが、国際的に見て日本が入院日数の長い国であることは確かなようです。入院日数の短期化が続いていますが、それでも国際的にみると、わが国の入院日数は、目立って長いのです。
4|地域ごとの差が大きい入院日数
地域ごとの入院日数の差が大きいこともわが国の特徴と言われています。次の表では最も入院日数の短い神奈川県(22.3日)と最も入院日数の長い高知県(46.4日)では倍以上の開きがあります。
なぜ、入院期間が短くなったのでしょう
1|医療技術が進歩し長い入院を必要としなくなったから
医療技術が進歩したことが入院日数短期化の第一の理由です。内視鏡手術や腹腔鏡手術など、開腹手術よりも体への負担が少ない新しい手術技法が確立されました。「日帰り手術」や「一泊手術」も珍しいものではなくなりました。
これにより、術後の体力が回復するまでの期間が短縮され、長く入院病棟にとどまっている必要はなくなりました。退院後の通院で治せるようになったのです。
2|政府の政策が、入院日数を短期化する方向にあるから
政府による医療費適正化政策が入院日数の短期化を目指していることが第2の理由です。
若者よりも高齢者の方が入院治療を必要とする機会が多いですから、高齢化が進行する中、成り行きに任せておくと全体としての入院者数が増加していくことは避けられません。そこで政府が2000年代に入って導入した医療費適正化計画では、成人病の予防とともに入院日数の短期化が計画の柱とされてきました。
最初は都道府県間の入院日数の差が大きいことに着目して、最も入院日数の短い県に入院日数を近づける施策が採られました。
また、急性期の入院治療を受け持つ大病院と、入院前や退院後のケアを受け持つ地域の診療所や中小病院という、医療機関の機能分化を進め、入院前後の地域や家庭で受けられる医療を充実させることで、患者が短い入院から安心して帰れる体制作りも進められました。
この間、病院が医療保険から受ける診療報酬の制度においては、看護師の配置を手厚くし、質の高いケアを提供して、入院日数を少なくする方が病院にとって有利になる体系が導入されました。さらに入院日数を長くしてしまいがちであると指摘されてきた従来型の、入院日数や治療行為が多く積み上がるほど病院が報酬を多く受け取れる出来高払いの診療報酬体系とは別途、「傷病名」、「診療行為」、「入院日数(3区分)」に応じて定額の診療報酬を病院が受け取る体系の導入も進められています。こちらの体系では入院日数が短い区分に入るほど、病院が受け取る診療報酬の計算が病院にとって有利になります。
さいごに
入院日数の短期化はこれからもトレンドとして続いていきそうです。しかし何が何でも入院期間が短い方が優れていると言うわけでもなさそうです。たとえば入院日数が6.1日と短い米国では、患者が負担しなければならない医療費が高額であるため患者が早めに退院して、病院の向かいにあるホテルに宿泊して通院しているといったような事例もあると言われます。患者の立場で考えれば、完全に治ったと思えない段階で退院するのは不安なもの。退院者を受け入れる家族にとっても、短期間で患者が退院してくることは、うれしい反面、不安でもあり、負担が増えることでもあるでしょう。
日頃から、家族に入院者が出た場合にどのような看護体制を取ればいいのか、地域の協力医療機関との連携をどう取ればいいのかなど、具体的に考えておき、いざという時に慌てないでいいようにしておきたいものです。
また政府や都道府県には、入院者や家族が安心していられるよう、しっかりと連携が機能する地域の医療・介護体制の整備を期待したいですね。
松岡博司(まつおか ひろし)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任
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