要旨

ブラジル経済,見通し
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ブラジルの2018年1-3月期の実質GDP成長率は前期比0.4%増(季節調整値)と、前期の同0.2%から若干加速し、5四半期連続のプラス成長となった。しかし、その内容を見ると、需要項目別では誤差・残差等の寄与度が高く、停滞感が見られる。

足元のファンダメンタルズに弱含みの兆しがある他、5月下旬から続いているトラック業界のストライキによる経済損失を踏まえると、今後はより緩やかな成長に留まるだろう。18年通年の実質GDP成長率の予想は前年比1.5%と、17年12月時点での見通し(同2.4%)から下方修正する。

また、ブラジルの構造的課題となっている年金制度の改革実現は困難となっており、中長期的に年金制度に係る財政負担が景気の重石となるだろう。

経済概況・今後のポイント

◆(経済概況) 1-3月期の実質GDP成長率は5四半期連続のプラス成長も、停滞感が見られる

5月30日、ブラジル地理統計院(IBGE)は、2018年1-3月期のGDP統計を公表した。1-3月期の実質GDP成長率は前期比0.4%増(季節調整値)と、前期の同0.2%から若干加速し、5四半期連続のプラス成長となった。しかし、需要項目別では誤差・残差等の寄与度が高く、停滞感が見られる。

需要項目別に見ると、引き続き外需寄与度はマイナスとなった。内需は民間消費が牽引役となったが、全体的に力強さを欠いている(図表1)。

ブラジル経済,見通し
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GDPの約3分の2を占める民間消費は前期比0.5%増と5四半期連続のプラス成長となった。

政府消費は同0.4%減と前期の同0.1%増からマイナス成長に転じた。

総固定資本形成は同0.6%増と4四半期連続のプラス成長となったが、前期の同2.1%増から減速した。

純輸出は輸出が同1.3%増、輸入が同2.5%増となった結果、成長率寄与度が▲0.2%ポイントと前期(同▲0.3%ポイント)に続き、成長率を押し下げた。

供給項目別に見ると、農牧業・鉱工業・サービス業の3部門全てでプラス成長となったが、いずれも力強さを欠いている(図表2)。

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農牧業は前期比1.4%増と前期の同0.1%減からプラスに転じた。

鉱工業は同0.1%増と3四半期連続のプラス成長となったが、前期の同0.7%増から減速した。鉱業が同0.6%増(前期:同1.0%減)、電気・ガス・水道が同2.1%増(前期:同0.1%増)と前期に比べて改善した一方で、製造業が同0.4%減(前期:同1.9%増)、建設業が0.6%減(前期:同0.1%増)と前期から悪化した。

GDPの約6割を占めるサービス業は同0.1%増と前期の同0.1%増から横ばいで、5四半期連続のプラス成長となった。金融・保険業が同0.1%減(前期:同0.2%減)、その他サービス業が同0.6%増(前期:同0.5%減)と前期に比べて改善した以外は、小売業が同0.2%増(前期:同0.3%増)、運輸・倉庫・郵便が同0.7%増(前期:同1.3%増)、情報通信業が同1.2%減(前期:同0.5%増)、不動産業が同0.5%増(前期:同0.8%増)、保健衛生・教育が同0.1%増(前期:同0.4%増)と前期から悪化した。

◆(今後のポイント)足元の情勢が18年の成長率を下押し。年金制度が中長期的に景気の重石に

ブラジル経済は2017年に3年ぶりのプラス成長に転じ、18年もプラス成長が続く見込みである。しかし、足元では消費者信頼感指数や雇用統計など一部のファンダメンタルズに弱含みの兆しがある他、トラック業界のストライキが経済に打撃を与えることから、今後はより緩やかな成長に留まるだろう。さらに、通貨防衛の観点から緩和的な金融政策が転換される可能性を踏まえると、18年通年の実質GDP成長率の予想は前年比1.5%と、17年12月時点での見通し(同2.4%)から下方修正する。

ストライキは、トラック業界がディーゼル油の価格引下げを求めて5月下旬から行っており、物流に大きな支障が出ている。その結果、幅広い業界の生産や販売がストップしており、経済への影響が懸念されている。現地報道によると、5月末時点での経済損失は約250億レアルから約500億レアルにも及ぶとの試算もあり、これは17年の名目GDPの約0.4%から約0.8%に相当する。このストライキは現時点で収束しておらず、また国営石油会社ペトロブラスの組合員がストライキを決行するなど、他業界にもストライキが波及しており、経済損失がさらに拡大することも懸念される。

このように、足元では暗雲が立ち込める中、18年の年間成長率を、17年の年間成長率や18年の各四半期の成長率に比べて高く予想しているのは、プラスのゲタによる影響を踏まえたためである(1)。特に、民間消費と総固定資本形成については、その影響が大きい。

また、中長期的には、改革の実現が極めて難しくなっている年金制度が景気の重石となるだろう。

ブラジルが15年・16年と2年連続の景気後退に陥った一因は、ルセフ前政権(2011年-2016年)における財政の悪化にあった。同政権はボルサ・ファミリア(2)の拡大など拡張的な財政運営によって財政を大きく悪化させた(図表3)。特に、2014年以降は基礎的財政収支が赤字に転じ、大幅なレアル安の進行とインフレ率の急騰を招いた。インフレ率の急騰によって、景況感は大きく悪化し、緊縮的な財政政策と金融引き締めもあいまって、ブラジルは2015年・16年と2年連続のマイナス成長に陥った。また、ルセフ前大統領自身も財政の悪化を隠すために国家会計の不正に関わったとして、2016年8月末に罷免に追い込まれた。

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ルセフ前大統領の後任となったテメル大統領は財政再建と構造改革に着手し、市場の信任を回復した結果、為替はレアル高へと反転した。そして、インフレ率の鈍化と金融緩和によって景気は底打ちし、2017年はプラス成長に転じた。テメル政権は、歳出上限法(3)を整備したり、国営企業の民営化を推進するなど財政再建に努めてきたが、根本的な改善には至っていない。その原因は、社会保障院の赤字の規模が大きく、年々拡大しているためである。2017年の一般政府の基礎的財政収支対名目GDP比は、連邦政府の歳出削減等によって、前年から改善したものの、社会保障院の赤字拡大には歯止めがかかっていない。さらに、中央政府の歳出のうち年金等支出の占める割合については2015年以降上昇傾向が続いている。

社会保障院の赤字は、ブラジルの社会保障制度における給付が負担に比べて手厚く、国庫負担が大きくなっていることに起因している。特に、年金制度は受給開始年齢や受給水準の観点から世界的にも手厚いと言われており(4)、今後は高齢化の進展によって益々財政負担が重くなる見込みである。テメル政権は社会保障院の赤字の縮小に向けて、受給年齢の引上げや納付期間の拡大など受給開始要件を厳しくする改革法案を議会に提出したものの、テメル大統領自身の汚職疑惑の浮上や改革法案の度重なる修正などによって採決は遅々として進まなかった。そして、いまや年金改革法案の採決は次期政権に先送りされる見通しとなっている(5)。

さらに、次期政権における年金改革の実現もあまり期待できない。2018年10月の大統領選挙に関する最近の世論調査では、最も支持率が高いのは依然として改革路線とは対極的なルーラ元大統領であり、次点が「ブラジルのトランプ」の異名をもつボルソナロ下院議員となっている。また、ルーラ氏の出馬が事実上難しい中で(6)、具体的に誰に投票するかという調査に対しては「白紙で投票する」もしくは「決めていない」という意見が約3分の2を占めるなど選挙の行方は混迷を極めている(図表4)。このように、有力候補者がいない中、各候補者は国民に痛みを強いる年金改革を掲げづらくなっており、次期大統領が改革路線を引継ぐかは、極めて不透明である。また、仮に次期政権が改革路線を引継いだとしても、憲法改正のハードルの高さから実効的な改革案を成立させるのは困難と見られる(7)。

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そして、実効的な年金改革を実施できない場合は、政府は大幅な歳出の削減を迫られるだろう。さもなくば、財政悪化に伴い、インフレ率の上昇や借り入れコストの上昇を招くと考えられる。いずれにせよ、年金制度に係る財政負担が中長期的に景気の重石となっていくだろう。

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(1)プラスのゲタとは、前年の最終四半期のGDPの水準が同年平均水準より高い場合、当年の各四半期の成長率が低くても、当年平均で見ると高く見えることを指す。2017年の民間消費と総固定資本形成は各四半期の成長率が比較的高く、17年第4四半期の水準が高くなっている。
(2)貧困層向けに生活扶助金を支給する制度。
(3)2017年から20年間の連邦政府の支出の対前年増加率を前年のインフレ率以下に抑制する法。
(4)ブラジルの公的年金制度は、公務員向けの公務員社会保障制度と公務員以外向けの一般社会保障制度が存在するが、前者の方がより優遇されている。しかし、後者についても受給年齢は男性が60歳以上、女性が55歳以上、受給額は退職前の5年間のうちの最も所得水準が高かった36ヵ月の平均値の8割にも及ぶなど手厚くなっている。
(5)18年2月にリオデジャネイロ州の治安悪化を受けて、連邦政府は12月末まで同州の治安部門を軍の指揮下に置くこととした。憲法の規定上、この間は年金制度改革に必要な憲法の改正ができないため、18年12月に任期が切れるテメル政権での採決は実質的に不可能となった。
(6)ルーラ氏は18年4月の再審でも有罪判決を受け、現在は収監されているため、出馬の可能性が低くなっている。
(7)憲法の改正には、下院と上院それぞれで5分の3以上の賛成が必要である。ブラジルは政権が乱立し、与党の議席でさえ50%を大きく下回っているため、5分の3以上の賛成を得るためには様々な政党に配慮した改革案の修正が必要となると見られる。テメル政権においても、様々な修正によって実効性の低下が懸念されていた。

実体経済の動向

◆(民間消費) 実質賃金の伸びが鈍化し、消費マインドが悪化の懸念

1-3月期の民間消費は前期比0.5%増となった。インフレ率の鈍化に伴う消費マインドの改善を背景に、17年以降回復基調が続いているが、消費マインドには弱含みの兆しが見られる。今後は実質賃金の伸びの鈍化が継続すると予想されることから、消費マインドの悪化を通じて、民間消費の伸びも鈍化していくだろう。

2016年以降、インフレ率の鈍化に伴い、消費者信頼感指数は改善傾向が続いた(図表6)。消費者の購買意欲は底を打ち、小売売上高と国内新車販売台数も堅調に推移してきた(図表7)。しかし、足元ではインフレ率が目標下限である3.0%を下回り続けているにもかかわらず、消費者信頼感指数は2ヵ月連続で悪化するなど弱含みの兆しが見られる。小売売上高と国内新車販売台数は、前年比増加が継続しているが、消費マインドの悪化によって伸びが鈍化していくと考えられる。

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消費者信頼感指数に弱含みの兆しが見られる原因として考えられるのが、労働市場の悪化である。労働市場では、2018年以降、就業者数の伸びが鈍化し、失業率が上昇している(図表8)。また、インフレ率が低い水準で推移しているにもかかわらず、実質賃金の伸びは大きく鈍化している。この背景にあるのは労働者の非正規化である。15・16年の景気後退を受けて、企業は労働者の非正規化の拡大によって雇用調整を行ってきたが、景気回復局面に入ってもその流れは継続している。

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今後は、足元の正規雇用者の減少幅が縮小していることから、失業率は低下していくだろう。失業率の18年平均は12.5%と予想する。しかし、実質賃金の伸びの鈍化は当面の間継続すると考えられ、消費マインドの悪化を通じて、民間消費の伸びも鈍化するだろう。

◆(政府消費) 2018年以降、さらなる歳出削減を求められる見通し

1-3月期の政府消費は前期比0.4%減となった。年金改革法案の採決は次期政権に先送りされることになった結果、今後、政府はさらなる歳出削減を余儀なくされており、景気に水を差すだろう。

政府は2014年の財政悪化に伴い、緊縮的な財政政策によって歳出を抑制してきたが、政府消費のGDPに占める割合が2割にも満たないことに加えて、ここ数年の政府消費は横ばいもしくは微減で推移してきたことから、GDPの押し下げ幅は限定的であった。しかし、2018年中の年金改革法案の採決が先送りされたため、政府は2018年からさらなる歳出削減を余儀なくされることになった。社会保障院を含めた中央政府の2018年の財政赤字目標を達成するためには、1000億レアル近い財源確保が必要と見られており、これは2017年の名目政府消費の約6~7%にも相当する。政府は、歳入の増加に向けて国営企業の民営化やコンセッション方式の入札により臨時歳入を拡大しており、必ずしもこの規模の歳出削減が必要となるわけではないが、これまで以上の歳出削減が必要となるのは間違いないだろう。

◆(総固定資本形成)インフラ投資プログラムの効果が徐々に顕在化する見通し

1-3月期の総固定資本形成(8)は前期比0.6%増と前期の同2.1%増から減速したが、これは前期と前々期(同2.0%増)の伸び率が高かったことによる反動であり、依然として回復基調は継続している。今後は、金融緩和の打ち止めによって、貸出金利が下げ止まることが予想されるため、民間部門の投資に水を差すことも考えられる。しかし、コンセッション方式のインフラ投資プログラムの効果が徐々に顕在化すると考えられ、総固定資本形成全体としては堅調に推移するだろう。ただし、前述のストの影響で4-6月期の総固定資本形成は一時的に大きく落ち込むことが予想される。

中央銀行が政策金利の引下げを継続してきた結果、銀行の貸出金利は、17年初から低下傾向が続いていたが、足元では家計向けを中心に下げ止まりの兆しが見られる(図表9)。住宅市場では、景気後退による住宅価格の下落と、貸出金利の低下によって、住宅需要が堅調に推移してきたが(図表10)、貸出金利の下げ止まりによって、需要が縮小することも考えられる。

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企業の設備投資については、17年以降、製造業PMI(企業経営者の景況感)は景気判断の目安である50を上回っており、また資本財の輸入も17年7月以降、前年比増加が続いている。鉱工業生産指数は、足元で弱含みの兆しも見られるが、前年比で増加傾向が続いており、今後も堅調に推移すると見られる(図表11)。

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また、政府はコンセッション方式のインフラ投資プログラムによって、国内外の民間資金を活用したインフラ投資の拡大を目指している。17年11月に連邦政府が再発表したAvancarプログラムによると、2018年末までに総額1309億7000万レアル規模のインフラ投資を予定している。これまでに既に入札が実施された事業もあり、今後徐々にコンセッション方式のインフラ投資プログラムによる総固定資本形成の押上げ効果が顕在化していくだろう。

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(8)総固定資本形成の内訳は公表されていない。

◆(純輸出) トランプ政権の保護主義的な貿易政策が懸念材料

純輸出の寄与度は前期比▲0.2%ポイントと3四半期連続のマイナスとなった。今後はトランプ政権による保護主義的な貿易政策が懸念材料となるが、それ以外は大きなプラス要因もマイナス要因もないため、純輸出の寄与度は0.0%ポイント前後で推移すると見られる。

通関ベースで見ると、18年1-4月の輸出総額は完成品を中心に前年を上回った(図表12)。地域別ではEUや中南米向けが好調であった(図表13)。また、同期間の輸入総額は資本財や消費財が牽引役となり、前年を上回った。貿易収支は、統計開始以来最大の黒字水準に達した2017年の同時期を下回っているが、黒字幅は依然として大きい。

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懸念材料としては、米国のトランプ政権が3月下旬に発動した鉄鋼とアルミニウムの輸入制限による影響が挙げられる。ブラジルはEUなどと同様に輸入制限の即時適用が猶予され、その後も交渉が続けられた。米国側は4月下旬にブラジルに対して関税の賦課か輸入割当(米国への輸出量の実質的な制限)の採用のいずれかを選択するように要求したが、ブラジル国内では意見が分かれており、現時点で最終的な合意には至っていないようである。これらの輸入制限による影響度合いについては不明であるが、貿易収支の悪化以上に、関連業界の生産や投資への悪影響が懸念される。とりわけ、鉄鋼業界においては、2017年のブラジルの鉄鋼の輸出相手国(重量ベース)で米国は1位、全体に占める割合も3分の1に及ぶことから、影響度合いは大きいと予想される。4月の貿易統計では、対米国の輸出額は小幅ながら前年比で増加しており、輸入制限による影響は特段見られないが、引き続き注視したい。

物価・金融政策等の動向

◆(為替) 米国の金利上昇に伴い、大幅にレアル安が進行

為替は14年半ばから15年にかけて財政赤字の拡大や国営石油公社ペトロブラスを巡る汚職発覚等の内部要因と米国の利上げ観測の高まりや資源価格の下落といった外部要因によって、大きくレアル安が進行した。16年にはテメル新政権への期待や、米国の利上げ観測の後退と資源価格の上昇によってレアル高に転じ、17年には3.1レアル/米ドルから3.3レアル/米ドル周辺で安定的に推移した。しかし、米国の金利上昇に伴い、大幅なレアル安が進行しており、18年5月の平均為替レートは3.6レアル/米ドルと18年年初から15%近くも下落した (図表14)。これに対して、中央銀行は通貨スワップの規模を拡大し、為替介入を行った結果、レアルは反発している。

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しかし、今後は、米国の利上げが続く(9)と予想されることに加えて、大統領選挙の情勢において改革路線後退の見通しが強まることも考えられ、レアル安はさらに進行するだろう。18年平均は3.6レアル/米ドルと予想する。

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(9)当研究所では、18年は年4回ペースの追加利上げを予想している。

◆(物価・金融政策・長期金利)インフレ圧力は依然として弱いが、金融緩和は打ち止めと予想

インフレ率(IPCA)は、15年にレアル安による輸入物価の上昇や天候不良による食料品の価格高騰、公共料金の値上げ等によって大きく上昇したが、16年以降はこれらの要因が徐々に解消されたため、大きく鈍化した。特に、17年7月から足元の18年4月にかけて、インフレ率は、目標下限である3.0%を下回っている。

中央銀行は、インフレ率の鈍化を背景に16年10月から18年3月にかけて12会合連続の利下げを行い、政策金利(Selic)は14.25%から過去最低の6.5%となった。しかし、5月のCopom(金融政策決定会合)では、市場の予想に反して利下げを見送り、政策金利を据え置いた。これは、先述の米国金利の上昇に伴うレアル安の進行を警戒しての判断と見られる。新興国の中には、隣国のアルゼンチンやトルコなど通貨防衛のために利上げを実施する国が見られることや、2014年半ばからのレアル安に伴うインフレ率の急上昇が15年・16年の景気後退を招いたこともあって、中央銀行は据え置きを選択せざるを得なかったと見られる。

今後は、米国の利上げ観測を踏まえると、追加緩和には踏み切れず、当面は金利を据え置くことが予想される。そして、先の為替レートと物価次第では今年中に利上げへと転換することも考えられる。18年末の政策金利は6.75%と1段階の利上げを予想する。

なお、利上げとなった場合は、景気に水を指すことが予想されるが、14年当時と比較すると、足元のインフレ圧力が弱いことや利上げの余地が残されていることから、15年・16年のような景気後退にまで陥る可能性は低いだろう。

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神戸雄堂(かんべ ゆうどう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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