2018年も1%台半ばの潜在成長率を超える2%台の成長が期待されていたユーロ圏の経済指標が低調だ。1~3月期の実質GDP(速報値)は、寒波による投資や消費の押し下げ圧力が働き、前期比0.4%、前期比年率1.6%と6四半期振りに年率2%を割込んだ。
寒波などの影響が剥落するはずの4月以降のサーベイ調査にも力強い反発は見られない。実質GDPと連動性が高い総合PMI(購買担当者指数)は1月をピークに4月まで3カ月連続で低下、ドイツの代表的な指標として注目度が高いIfo企業景況感指数は昨年11月をピークに4月まで5カ月連続で低下している。Ifo企業景況感指数の低下幅は、ユーロ圏内の債務危機拡大が止まらず、ユーロ圏経済が二番底に向かった2011~2012年や、デフレ・リスクの高まりに対応して欧州中央銀行(ECB)がマイナス金利政策や国債等の買い入れへと向かった2014年に匹敵する(図表1)。
これまでのところ、1~3月期の低調な滑り出しや、代表的なサーベイ調査の悪化は、ユーロ圏経済の失速の兆候ではないとの見方が支配的だ。EUの欧州委員会は、5月3日に公表した「春季経済見通し」の実質GDPの見通しを、2018年前年比2.3%、2019年同2.0%と前回2月と同様の水準に維持した。ECBも、4月26日に開催した政策理事会の声明文で、景気の現状について、「3月初の前回理事会以降の情報は鈍化傾向を示している」としながらも、「ユーロ圏経済の底堅く裾野の広い拡大と整合的」として、景気に対する強気の判断を維持した。
年初来のサーベイ調査の大幅な悪化でも景気の先行きに強気な見方が維持されている背景には、生産活動の水準が歴史的に見ても高いことがある。4月の総合PMIは、55.1。11年半ぶりの高水準だった今年1月の58.8から大きく低下したが、生産活動の拡大と縮小の分かれ目の50を遥かに上回る。Ifo企業景況感指数も、同様に、5カ月連続の低下後も、歴史的な高い水準を保っている。
先行きも内需の拡大は続く見通しだ。圏内の債務危機で打撃を受けた設備投資の回復に弾みがついている。4月27日公表の欧州委員会のサーベイでも、歴史的な高稼働率を背景に2018年の設備投資計画は、昨年10~11月調査の実質前年比4%増から今年3~4月調査では同7%に上方修正されている(図表2)。また、企業の採用意欲も、幅広い業種で高まっており、雇用・所得環境の改善を伴う個人消費の堅調も期待される。
著しく緩和的な金融環境も、やや拡張的な財政政策運営とともに内需を支える見通しだ。生産・雇用の拡大にも関わらず、内生的なインフレ圧力の高まりは見られない。ECBは、2018年末までに、国債等の新規の資産買入れを停止する見通しだが、金融緩和縮小に動き出すのは早くても2019年以降だろう。
ユーロ圏の経済の下振れリスクとしては、域内要因よりも域外要因、とりわけ米国の保護主義政策が出発点となることが懸念される。欧州連合(EU)は、米国のトランプ政権が3月に発動した鉄鋼・アルミニウムの追加関税の「適用除外」の期限は、当初の5月1日から5月末までに延長された。しかし、恒久化の見返りに輸出制限を求める米国にEUは反発を強めている。EU加盟国の間でもトランプ政権の通商政策による影響度合いが異なるために、対応方針では見解がまとまらない。米中間ばかりでなく、米EU間でも制裁と報復の応酬に発展するリスクが燻る。先行きの不透明感の高まりを嫌い、企業が設備投資や採用に慎重になり、内需拡大の勢いを削ぐシナリオが懸念される。
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伊藤さゆり(いとう さゆり)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主席研究員
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