はじめに

トラック運賃,貨物輸送量
(画像=PIXTA)

労働需給が極めて逼迫している中で、物流の現場ではトラックドライバー不足が喫緊の課題となっている。トラック運送業界の労働需給を示す「労働力の不足感の判断指数(1)」は上昇傾向で推移しており、2018年第2四半期(見通し)のDIはプラス100.8と過去最高となり、トラックドライバー不足が深刻である状況が窺える(図表-1)。

トラック運賃,貨物輸送量
(画像=ニッセイ基礎研究所)

深刻なドライバー不足の影響を受けて、トラック輸送費は上昇している。日本銀行「企業向けサービス価格指数」によれば、企業物流の中心である「貸切貨物」と「積合せ(2)貨物」の輸送指数は、2017年後半以降上昇している。直近(2018年4月)の指数は、2010年平均を100として、「貸切貨物」が109.3、「積合せ貨物」が108.1となり、過去最高水準に達した(図表-2)。スポット輸送の運賃を表す「求荷求車情報ネットワーク(WebKIT)成約運賃指数」(公益財団法人日本トラック協会)も、2017年後半以降大きく上昇している(図表-3)。

また、日通総合研究所「企業物流短期動向調査」によれば、輸送運賃・料金の増減を示すDIである「運賃・料金動向指数」(2018年第2四半期・見通し)は、「一般トラック」がプラス32、「特別積合せトラック」がプラス29と過去最高水準付近に達しており、トラック運賃の上昇圧力が一段と高まっている状況が確認できる(図表-4)。

トラック運賃,貨物輸送量
(画像=ニッセイ基礎研究所)

総務省「労働力調査」によれば、道路貨物運送業の就業者(トラックドライバー)において若手の20~30歳代の占める割合は減少傾向にあり、2017年時点では約3割に留まっている。今後は高齢ドライバーの退職等が加わり、トラックドライバーの不足はさらに深刻化・長期化する可能性が高い。そのため、トラック運賃が下がりにくい状況は今後も継続する(3)と見込まれる。

そこで、本稿では、貨物輸送量(トラック貨物輸送量)の決定要因に関する計量分析に基づき、トラック運賃の上昇が貨物輸送量に及ぼす影響について考察したい。

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(1)指標は、回答結果に対し、「労働力不足」+2、「やや労働力不足」+1、「横ばい」0、「やや労働力過剰」-1、「労働力過剰」+2の点数を与え、算出。
(2)一台の車両に複数の荷主の貨物を積合せて輸送すること。
(3)吉田資『人手不足に起因する物流コスト上昇が喚起する物流施設への需要(1)』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2018年3月2日

トラック運賃の上昇が貨物輸送量に与える影響

●分析対象

本章では、貨物輸送量の決定要因に関する計量分析を行い、トラック運賃の上昇が貨物輸送量に与える影響を明らかにする。

「貨物輸送量」のデータとして、国土交通省「全国貨物純流動調査[調査時点2015年](以下、「物流センサス」)」の「貨物流動量(4)」(営業用トラックによる貨物輸送)を採用する。また、貨物輸送量の動向は、貨物の種類(例;工業製品と日用品)により異なる。そこで、「総量」のほかに、「化学工業品(5)」、「金属機械工業品(6)」、「軽工業品(7)」に限定した貨物流動量も分析対象とする。

2015年の貨物流動量(総量)は、1,303万トンであった(図表5)。その内、「化学工業品」は総量の30%(393万トン)、「金属機械工業品」は総量の21%(278万トン)、「軽工業品」は総量の14%(182万トン)を占めている。

図表6は、貨物流動量の推移を示したものである。「総量」は、2010年まで同水準で推移していたが、直近の2015年には約9%(対2010年比)減少した。品類別にみても、「金属機械工業品」は約14%減少、「化学工業品」は約2%減少、「軽工業品」は約9%減少している。

トラック運賃,貨物輸送量
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、貨物流動量の都道府県別構成比を図表7(出発貨物量)と図表8(到着貨物量)に示した。「総量」および「化学工業品」、「金属機械工業品」は、出発貨物量、到着貨物量ともに、愛知県の占める割合が最も大きい。「軽工業品」は、出発貨物量では静岡県、到着貨物量では東京都の占める割合が最も大きい。

トラック運賃,貨物輸送量
(画像=ニッセイ基礎研究所)
トラック運賃,貨物輸送量
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(4)3日間調査(2015年10月20日~22日)に基づく都道府県間の貨物流動量
(5)化学薬品、化学肥料、石油製品、石炭製品、ガラス製品、セメント、等
(6)自動車、自動車部品、金属製品、鉄鋼、産業機械、電気機械、等
(7)食料工業品、飲料、紙・パルプ、糸・織物、等

●分析方法

本稿の分析では、地域間の交易量や旅客量などの分析で多く用いられているグラビティモデルを採用する。グラビティモデルは、地域間の交易量や旅客量を、各地域の産業・経済規模や輸送抵抗(輸送費用、等)で説明するものである(下式参照)。

トラック運賃,貨物輸送量
(画像=ニッセイ基礎研究所)

本稿では、産業規模を表す指標として「県内生産額」(品類別)[内閣府「県民経済計算」]、輸送抵抗を表す指標として「物流センサス」で調査された「都道府県間輸送単価」(品類別)を採用した。また、輸送に係る費用とともに、輸送に係る時間も貨物輸送量に大きな影響を及ぼしていると考えられる。そこで、輸送抵抗を表す指標として、「物流センサス」で調査された「都道府県間輸送時間」を採用した分析も併せて行う。

「貨物輸送量」に対して「出発地および到着地の県内生産額」はプラスの影響、「輸送単価(費用)」と「輸送時間」はマイナスの影響を及ぼすと想定される。

●分析結果

グラビティモデルによる推定結果を図表9(輸送抵抗を「輸送費用」とした分析)と図表10(輸送抵抗を「輸送時間」とした分析)に示した。

図表9(輸送抵抗を「輸送費用」とした分析)に関して、輸送費用と産業規模(「出発地・県内生産額」と「到着地・県内生産額」)は「貨物輸送量」に対して統計的に有意な影響を与えている。推定結果から、輸送費用が1%上昇すると、「貨物総量」は0.51%減少、「化学工業品」は0.47%減少、「金属機械工業品」は0.95%減少、「軽工業品」は0.50%減少することが分かった。

また、「出発地・県内生産額」と「到着地・県内生産額」のパラメーターを比較すると、「総量」と「軽工業品」では「到着地・県内生産額」の方が大きく、「化学工業品」と「金属機械工業品」では「出発地・県内生産額」の方が大きい。これは、「総量」と「軽工業品」では、出発地よりも到着地の生産額増加(産業規模拡大)が大きな影響を及ぼしている一方で、「化学工業品」と「金属機械工業品」では、到着地よりも出発地の生産額増加が大きな影響を及ぼしていることを示している。

トラック運賃,貨物輸送量
(画像=ニッセイ基礎研究所)

図表10(輸送抵抗を「輸送時間」とした分析)に関して、推定結果から、輸送時間が1%増加すると、「総貨物量」は2.62%減少、「化学工業品」は2.70%減少、「金属機械工業品」は2.34%減少、「軽工業品」は2.48%減少することが分かった。貨物輸送量に与える影響度(1%増加あたりの変化率)は、「輸送費」よりも「輸送時間」が大きい。

トラック運賃,貨物輸送量
(画像=ニッセイ基礎研究所)

図表11に「輸送費用」と「輸送時間」の影響度の関係を示した。「化学工業品」の貨物輸送量は、相対的に輸送時間増加の影響を大きく受ける一方で、輸送費用増加の影響は小さい。一方で、「金属機械工業品」の貨物輸送量は、相対的に輸送費用増加の影響を大きく受ける一方で、輸送時間増加の影響は小さいといえる。

トラック運賃,貨物輸送量
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トラック運賃の上昇局面における国内貨物輸送の行方

本章では、前章での分析結果を踏まえ、トラック運賃が上昇した場合に国内貨物輸送に起こりえる変化に関して、「モーダルシフト」と「物流費上昇に伴う価格改定」について考察する。

●モーダルシフト

トラック運賃の上昇に対する対応策として、トラック輸送から鉄道輸送や海運などに輸送手段を変更するモーダルシフトが挙げられる。大量の貨物を一度に輸送できる鉄道輸送や海運は、ドライバー不足が深刻な長距離輸送において輸送費用の面で優れている。

直近では、トラック輸送から鉄道輸送へのモーダルシフトが特に進んでいる。JR貨物の輸送実績(2017年度・速報値)は、モーダルシフトによるコンテナ貨物の増加に伴い、前年比2.3%増加した。

国土交通省が2018年1月に公表した「総合物流施策推進プログラム」では、鉄道によるモーダルシフト貨物の輸送量を197億トンキロ(2016年度)から221億トンキロ(2020年度)まで、海運によるモーダルシフト貨物の輸送量を340億トンキロ(2015年度)から367億トンキロ(2020年度)まで増やす計画を掲げている。今後もトラック運賃上昇が続けば、モーダルシフトはさらに進展するだろう。

前章に示した分析結果から考えると、輸送費用増加の影響が大きい一方で輸送時間増加の影響は小さい傾向にある「金属機械工業品」の貨物輸送で、モーダルシフトが特に進むと考える。実際に、トヨタ自動車が2017年3月から自動車部品(「金属機械工業品」に含まれる)を輸送する専用列車「トヨタ・ロングパス・エクスプレス」を1日1往復から2往復に増便した等、モーダルシフトの動きも確認できる。

●物流費上昇に伴う価格改定

2017年以降、トラック運賃上昇に伴い、価格改定(値上げ)を行う事例が増えている(図表12)。物流費上昇に伴い値上げを行った製品は、素材系の製品(セメントやポリスチレン、アクリル等)が中心となっている。

最終製品を製造するメーカーは、物流費増加に伴い素材価格が一定程度上昇したとしても、上昇分を様々な企業努力を行い吸収しようとする(最終製品価格の値上げを回避)。結果、即座に素材の購入量(≒貨物輸送量)が大幅に減ることはないと思われる。前章で行った分析結果でも、セメントやポリスチレン、アクリル等を含む「化学工業品」の貨物量に対する輸送費用増加の影響は、相対的に小さい。

今の所、一般消費者が購入する生活用品や食品等の値上げは、容器回収の負担が大きい酒類の一部に限られているようである。ただし、今後、トラック運賃が大幅に上昇した場合、その上昇分を最終製品にまで価格転嫁する動きが広がり、消費の減速(それに伴う貨物輸送量の減少)等が起こる可能性もあるだろう。

トラック運賃,貨物輸送量
(画像=ニッセイ基礎研究所)

おわりに

本稿の分析から、トラック運賃(輸送費用)の上昇は、貨物輸送量に対して統計的に有意な影響を及ぼしており、輸送費用が1%上昇すると貨物量は0.5%減少することが分かった。

トラック運賃の上昇が続けば、その対応策として、トラック輸送から鉄道輸送や海運などに輸送手段を変更するモーダルシフトが長距離輸送を中心に進むだろう。ただし、(1)トラック輸送は、国内貨物輸送量の約9割を占めていることや、(2)費期限等の問題から長時間輸送に適していない商品もあること等から、すべての貨物を鉄道輸送や海運に輸送手段を変更できるわけではない。国内貨物輸送においてトラック輸送が担う部分は引き続き大きい。

一方で、貨物輸送量に対して「輸送費用」とともに大きな影響を及ぼしている「輸送時間」に関して、首都圏では環状道路の整備が進み、所要時間が短縮されている。東京外郭環状道路(外環道)は、2018年6月に三郷南IC~高谷JCT間が開通予定だが、この開通によって都心を経由するよりも所要時間が3~5割短くなる(8)と報道されている。また、2018年度予算における重点施策として、貨物輸送量が多い三大都市の環状道路等の整備加速が挙げられており、圏央道や東海環状自動車道等については、財政投融資を活用し重点投資を行うとしている。

本稿の分析によれば、輸送時間が1%短縮した場合、貨物輸送量は2.6%増加すると推定される。人手不足に伴うトラック運賃上昇による貨物量輸送減少を、道路整備に伴う時間短縮による貨物輸送量増加で補うことも十分に可能と思われる。経済活動に大きな影響を及ぼす貨物輸送量の分析・将来見通しをたてる上で、人手不足下におけるトラック運賃の動向と併せて、高速道路整備の進捗も注視すべきだろう。

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(8)日本経済新聞・朝刊「TOKYO大変身(3)「圏央道では遠すぎる」」2018/5/31。三郷南IC~高谷JCT間の開通により、高谷JCTから大泉JCTまでの所要時間が60分から42分に短縮。高谷JCTから川口JCTまでの所要時間も54分から28分に短縮。

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吉田資 (よしだ たすく)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員・総合政策研究部兼任

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