中国ではこのところ毎年のように就職難が問題となっている。教育部(文部科学省に相当)発表のデータによると、今年の大学卒業生は820万人である。毎年増加し続け、最多記録を更新している。そして8割以上の学生は「厳しい就職戦線である」と回答している。合同就職説明会なども盛り上がりを欠いていたという。ニュースサイト「新浪」「捜狐」などが伝えている。820万人の進路はどうなるのだろうか。

820万人の就職圧力

中国経済,就職氷河期
(画像=PIXTA)

最近の大学卒業者数は以下のように推移している。

2013年……699万人、14年……727万人、15年……749万人、16年……765万人、17年……795万人。そして今年初めて800万人を突破した。

さらにさかのぼれば、100万人を突破したのは2001年、21世紀の開幕と同時であった。ちなみに日本では1996年に50万人を超え、そのままずっと50万人台で安定的に推移している。

これら膨大な大学卒業生数は、社会にプレッシャーを与えているという。あるメディアは、まるで中高年の血圧のようだ、と表現している。重大なリスク要因であり、下手をすれば社会にダメージを与えかねないといった意味である。

大学生の意識と現実

大学卒業生は、就職にあたって何を重視しているのだろうか。(複数回答)

個人の発展と前途……83%
給与と待遇……75%
労働環境……69%
企業文化……64%
仕事内容……49%
企業知名度……41%
仲間の存在……40%
仕事量……31%

個人の生きがいと報酬の他に、企業文化と仕事の環境を非常に重視している。残業の有無などはあまり考慮していない。

彼ら820万人のうち34.6%は、形勢は非常に厳しく希望に沿う就職は難しいと考えている。また48.2%は、就業は難しいが、その状況を受け入れるしかない、と思っている。普通と答えたのは、11.7%、どちらともいえない4.6%、うまくいって満足という答えは、0.9%に過ぎなかった。

調査は全国34の省市、9万168人の卒業生を対象としている。60.8%は三線級以下の都市、68.9%は4年制大学の本年度卒業生である。

拡大するアンマッチ

スターバックス中国の採用部門幹部は「現在の大学生は、着実に専門知識を身に着けていく。ただし実際の応用には疑問が残る」「彼らは職業人としての人間関係を確立し、そのうえで知識と応用の実際を学ぶべきだ」と発言している。

ここには自己主張や交渉など、対人関係に極めて強靭だった、前世代の中国人イメージはない。採用担当者の面前には、頭でっかちで頼りなく、面倒くさい若者、という現実が拡がっているのだ。

求職サイト・智聯招聘の調査によれば、大学の専攻と職業のアンマッチは年々拡大している。今年の卒業生は39.2%が、そのように考えている。これは学科の定員と市場で必要とされる技能とのギャップでもある。

こうした現実から、満足のいく就職だったと答えたものは1%に満たなかったのである。あらゆる方面でアンマッチが拡大した結果とみるべきだろう。

職業体験の試み

こうした四方八方から噴出する不満を軽減すべく“体験式就業”の試みが進んでいる。やはり智聯招聘の調査によると、「内定を得た最大の要素は何だと思うか?」という問いに対し、43.9%が「実習経験」と答えた。大きな成果をあげつつあるのだ。

共産主義青年団とLinkedIn中国は、協力して組織的な“企業開放日活動”を行った。人気の先端企業において職業体験をしてもらう試みである。300人の募集に対し1万5000人の申し込みが殺到した。

同済大学(上海)の徐さんは、ほとんどの学生は、求職の目標が不明確で、どのような仕事を探しているのかさえはっきりしない。何を重視して企業を比較すべきかもわかっていなかった。と体験に参加した感想を述べている。

一方企業側の視線もはっきりしない。ヒューマン・リソースを見抜く力を欠き、いきなり即戦力を求める傾向は依然として強い。職業体験は、どちらにとっても有用だ。

中国の就職戦線は、ギクシャクしてかみ合っていない。新卒採用に関するマニュアルを整備しないままに、卒業者数は、みるみる増えてしまった。

夢と現実のギャップは大きく、これを放置したままでは、確かに社会不安を招きかねない。しかしこれは外国企業にとって、優秀な人材を採用する大きなチャンスがありそうにも見える。考慮してみるべきではないだろうか。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)