シンカー: グローバルな景気見通しは上下の圧力が拮抗している。下には、企業の利益率のピークアウト、金融引き締めへの動き、そして政治不安がある。上には、財政政策の緩和的な動き、企業の設備投資の回復、そして抑制されたインフレ率の下での良好な雇用環境がある。しばらくはどちらかが圧倒することはなく、グローバルな景気回復の針路はそのまま、堅調な成長率を維持できると考えられる。しかし、1年後には労働生産性がグローバルに向上しているかどうかが、針路の方向性を決めるであろう。向上していればそのまま、向上していなければインフレ圧力の高まりと経済政策の引き締めにより成長率が著しく鈍化するリスクとなろう。まだ前者の可能性が高く、インフレ率と金利上昇、そして金融引き締めの動きは緩やかであると考える。6月14日のECB理事会では、自信を持ちながらも慎重なトーンで、インフレに対する上方・下方リスクの両方に注目するだろう。「量的緩和(QE)を月額150億ユーロで3カ月延長することが、(場合によっては12月終了の意向も合わせて)7月に発表される」とみられる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

世界経済(6/11):世界経済見通し:針路はそのまま

今回の世界経済見通しでは、景気サイクル上の位置を次のように判断して、上記のタイトル(「針路はそのまま」)を付けた。世界経済は総じて堅調とみられ、通年のGDP成長率も依然として(世界経済が大不況からの回復途上だった)2011年以降で最高の水準になると見込まれる。さらに、景気拡大は通常みられないほど広範囲に広がっている。

だが各四半期のGDP成長率は(前期比にせよ前年同期比にせよ)、主要国ではピークに達したと弊社はみている(米国、中国、ユーロ圏、日本、韓国など)~インド、ブラジル、インドネシア、豪州など一部の例外はあるが。

このため、景気拡大モメンタムは多少失われており、世界経済の成長率はおそらくピークを過ぎたとみられる。しかし、成長率が大幅に低下する可能性は低いと弊社はみている。先進国の金融状況は依然として極端に緩和的で、財政政策も多くの国で(特に米国)景気刺激色が強くなると見込まれるためだ。これが、世界の他地域に大きな波及効果をもたらすと考えられる。「針路はそのまま」が適切な表現になるとみられる。

アンカーテーマ #1 一休みか景気拡大の終わりか

2018年に入ってからの数カ月、株式市場は調整、米国などから保護主義的な動きが出て原油価格も上昇するという中で、リスクと不確実性が高くなってきた。こうした背景の下で、景気減速の兆しが見えることにより、世界同時拡大の持続性に疑問が持たれるようになった。ただ弊社の見たところ、2018年第1四半期にGDP成長率が大きく後退した国・地域(ユーロ圏、日本)は、主に短期的・一時的要因(平年と異なる天候、ストライキなど)に左右された結果である。また、景気減速は世界の至る所で発生しているわけではなく、世界景気指標も今後の減速は示していない。さらに(既に述べたように)、大半の国・地域の経済政策は景気拡大を支援する色合いが強くなっている。

とはいえ弊社のGDP成長率予測は、自身の米国景気見通しを主因に、2019年、2020年とも、大半がコンセンサスを下回っている。弊社は、米国経済が2019年末か2020年早くに緩やかなリセッション入りして、波及効果が現実的には世界全地域に及ぶ、という見方を変えていない。

アンカーテーマ #2 低インフレは持続する

世界経済、より正確には先進国は、超低インフレ期からは脱出しており、インフレ率が1%未満に戻ることは無いとみている(もちろん日本は除く)。原油価格は超低インフレの主な背景だったが、現在は総合インフレ率の短期的なさらなる上昇を示唆している。とはいえ弊社も、先進国のインフレ率が弊社予測の対象期間(2022年まで)に、2%を大きく上回るとは考えていない。(一部は今回述べている)重要な構造要因が、近い将来に消滅することは無いとみられる。ただ、弊社は賃金上昇が加速するという見方は変えていないが、投資が力強さを増すことで、労働生産性がさらに上昇するにつれ単位労働コスト増加が抑制されると見込まれる。

アンカーテーマ #3 貿易戦争リスクは低下、ただ小競合いは続く

弊社は4月のグローバルテーマレポートで、世界的な貿易戦争が発生する可能性は低いと主張した。特に、米国と中国は最終的に妥協して、両者がちらつかせていた報復関税は実行されないと論じていた。こうした弊社の見方の背景は、両国の最近の交渉で(決定的とは言えないが)重要な妥協が成立したため、現在は信頼感が強まっていることだ。だが弊社は、他の国・地域での摩擦が深刻化すると警戒してもいる(特に米国とEUの間)。米国の自動車輸入や安全保障の面が調査されているという直近のニュースは、世界最大の経済大国である米国もその一員として満足できるような世界貿易システムを見つけ出すためには、多くの仕事が残っていることを示している。NAFTA交渉も終わりには程遠い。

アンカーテーマ #4 中央銀行の政策不一致が一段と鮮明に

弊社は中央銀行の政策予測を、過去3カ月で多数変更したが、上振れ・下振れは総じて均衡している。このこと自体が非常に特筆される。過去の例では、中央銀行にとって経済面の背景が(特に先進国と新興国を分けた場合は)似たものとなる傾向があり、彼ら(各中央銀行)は多かれ少なかれ総じて足並みが揃っていた。弊社はFFレートパスの見通しを引上げる一方、例えば豪州、韓国、メキシコ、チェコの金利見通しは引下げた。また新興国経済への風向きが変わっているため、インドとインドネシアの政策金利見通しを引上げた。

欧州経済(6/13):ECBプレビュー:視野に入るQE終了を、原油価格が遅らせる

6月14日のECB理事会では、自信を持ちながらも慎重なトーンで、インフレに対する上方・下方リスクの両方に注目するだろう。新しいECBスタッフ経済見通しが出てくるが、出口戦略の概略を明らかにしたり、9月以降の追加資産買入れ必要額を示す根拠になるまで、それが改善しているとは考え難い。ECBは現在、イタリアや米国通商政策に起因するリスクよりも、原油価格主導の総合インフレ率上昇に注目しようとしているようだ。弊社は、「量的緩和(QE)を月額150億ユーロで3カ月延長することが、(場合によっては12月終了の意向も合わせて)7月に発表される」という見方を維持する。最近のECBのシグナルからは、第4四半期の月額縮小とともに、QE終了日が明確に発表される可能性もあると考えられる。だが、政治的な不確実性により景気見通しが後に不透明となることを懸念して、QEの終了日発表を早めたとしても、ECBの信頼性はほとんど高まらないとみられる。余りにも早く行動を約束する、かつ原油価格の動きに過度に反応するというリスクを、再度冒すことになるからだ。また、あらゆる選択肢の可能性を残すことは合理的だが、債券ユニバース縮小で理事会の選択肢が影響される(狭められる)ことも確かだ。どんな出口戦略を採るにしても、QEは今年末に終了するとみられる。

外国債券(6/13):2018年下半期見通し:出口への綱渡り

米連邦準備制度理事会(FRB)が追加利上げに向かう一方、欧州中央銀行(ECB)はおそらく年内には量的緩和政策から脱却するだろう。このように、中央銀行の金融緩和策の巻き戻しはおおむね秩序を保ちながら急速に進んでいる。FRBの利上げ懸念は新興国経済に確実に打撃を与えている。つい最近では、イタリア国債の利回りも新興国売りに追随している。今後さらなる打撃は避けられないが、我々は引き続き一部のソブリン・スプレッドのロング・ポジションを選好していく。イタリアがユーロ圏から離脱する可能性は排除するものの、緊張がくすぶり続けることへの不安はぬぐい切れない。

幸いにも、世界全体のインフレ期待は依然として抑制されているようだ。グローバル経済は良好な状態を維持しており、世界の国内総生産(GDP)成長率は2018年に3.4%に達する見通しである。

最近の欧州景気減速は一時的なもので終わるという弊社エコノミストの見方が正しければ、ユーロ圏の債券利回りは一段と上昇する可能性がある。財政政策は多くの国々でより拡張的になるだろう。イタリアも「呼び水政策」の陣営に加わろうとしており、2019年に向けて経済成長率は底上げされる見通しだ。2018年12月にドイツの10年国債利回りは0.85%に、米国の10年国債利回りは3.00%に達すると予想している。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司