生まれた年と家計の関連性を調べたところ、「世界金融危機(2000年代後半)」の影響を最も強く受けているのは、1980年代以降に生まれた若い世代であることが明らかになった。

この世代が世帯主の家庭は、以前の世代のデータに基づいた予想よりも資産額を34%下回っており、金融危機後も家計の状況が悪化している唯一の世代だという。また米世帯の4割以上が生活に十分なお金を稼いでいないことなども分かっている。

1930代生まれの家庭の資産ベンチマークレベルは、予想より17%増

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調査は米セントルイス連邦準備銀行が、世帯主が1930~80年代生まれの4.8万世帯を世代ごとに6つのグループに分け、それぞれの家計を分析したものだ。米消費者金融調査SCFが1989 ~2016年に収集したデータに基づき、各世代のインフレ調整後の富の中央値と予測されていた富を比較し、世界経済危機の影響を探った。

その結果、全ての世代が世界金融危機が原因で実質上資産を失った。しかし、1960年代以降 の世代は2016年になっても後遺症から回復してない。特に、世帯主が1980年代生まれの家庭の資産の中央値は、2016年の時点でセントルイス連邦準備銀行の予測を34%も下回っている。1970年代生まれは18%減、1960代生まれは11%減と、世代を遡るほど予想と現実の差が縮まる。

この予想は、それ以前の世代が同じ年代の頃に保有していた資産に基づいたものであることから、若い世代ほど資産が増えていないことが分かる。1930代生まれの家庭の資産ベンチマークレベルは17%、1940、50年代生まれはそれぞれ4%予想を上回っている。

負債や住宅が資産格差の原因?

世代の資産格差の原因は所得ではなく、負債や家の所有権 だと推測されている。世帯主が1960~70年代生まれの家庭は家の所有率が高く、不動産価格の上昇とともに資産を増やしやすい条件下にある。

しかし、1980年代生まれの家庭は、金融危機以前に家を購入するには若すぎたことから、2016年の時点でも家の所有率は45%に満たない。

ニューヨーク連邦準備銀行でも同様の調査結果 が報告されている。これは2006~2017年にかけての米世帯の住宅資産を分析したもので、金融危機以前の2006年、60歳以上と45歳以下が住宅を所有している割合は、全年齢のうちでそれぞれ4分の1と均等だった。しかし、2017年には41%と14%大きく差が開いている。

高齢化社会の影響もあるだろうが、学資ローンの値上がり、住宅ローン審査が厳しくなったことなども大きいという。米国で深刻化する学資ローンやクレカといった負債はあくまで借金であり、住宅ローンのような資産評価はない。

セントルイス連邦準備銀行は、資産評価のサイクルが近い将来、かつてのように早まる可能性が低く、若い世代が富を築くチャンスを逃していることが原因だと結論付けている。また、このままでは若い世代は、住宅購入はおろか、子どもの教育費や自分の老後のために貯蓄することができないのではないか、との懸念を示している。

米世帯の4割強が十分な生活費を稼いでいない

確かに長期間にわたる手ごわい挑戦ではあるものの、セントルイス連邦準備銀行 は希望を持てる要素を2つ挙げている。高齢層よりも富を築く時間が残されていること、最も教養のある世代であることだ。時間と教養を最大限に活用し、自分たちの富を築くチャンスはあるというのだ。

しかし負債の返済や毎日の生活に追われる暮らしでは、何十年働き続けても財は築けない。教養があっても高所得が約束されているわけでもない。若い世代は希望とともに、「失われた世代」となる大きなリスクを背負っている。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)