本土市場は5月に入って、弱いながら回復基調にある。

4月27日と5月15日の終値を比べると、上海市場全体の値動きを表す上海総合指数は3.6%上昇、深セン市場全体の値動きを表す深セン総合指数も3.6%上昇している。それに対して、上海、深セン市場において時価総額、流動性の大きな300銘柄で構成される上海深セン300指数は4.5%上昇している。

本土市場全体の動きについて、上海総合指数をみると、米中貿易紛争の激化で3月下旬から4月にかけて売られ、底這い状態が続いたものの、過度な悲観が後退したことで、リバウンドしている。とはいえ、トランプ大統領のツイッター上での発言やアメリカ商務省の決定に振り回され、中国側が受け身となっている状況で、貿易紛争の落としどころが見えてこない。

習近平国家主席の特使として、米中全面経済対話の責任者である劉鶴副首相が5月15日から19日の日程で訪米したが、その結果次第で状況は大きく変わりそうだ。こうした外部環境の中で、多くの投資家は様子見の姿勢を崩していない。

6月1日A株がMSCI指数に採用

中国, 株式, 国際化
(画像=PIXTA)

ただ、冒頭で示したように、大型株に対しては、相対的に資金が流入しているようだ。その背景にあるのが、A株のMSCI新興市場指数への組み入れである。

6月1日より、A株がMSCI新興市場指数の採用銘柄になった。さらに、234銘柄がMSCI指数体系に算入され、算入の際の流通時価総額に対する掛け目は2.5%、8月には5%とすることが発表された。

どの程度の資金が本土市場に流入するのだろうか?

MSCIによれば、MSCI新興市場指数、グローバル市場指数をベンチマークにする基金は多く、その資金量は順に1兆6000億ドル、3兆2000億ドルである。グローバル市場指数をベンチマークとする基金では、時価総額ベースで12%ほどが新興市場指数部分に相当する。

指数の計算に当たっては、各採用銘柄について流通時価総額で加重平均を行い算出するというのが基本的な考え方であるが、組み入れ当初は、できる限り指数の連続性を確保しなければならない。そこで、最初から100%を反映させるのではなく、一定の掛け目をかけて、影響を軽減する措置が取られている。

1996年4月に台湾の株式がMSCI指数に組み込まれた時は、この比率が50%から始まっており、100%組み込まれるようになるまでには9年かかった。1992年に韓国の株式が組み込まれた時は20%から始まっており、100%になるまでに6年かかっている。

世界第2位の経済大国である中国は株式市場の規模も大きく、もし、そのまま算入してしまえば新興国の中では大きなウエイトを占めることになる。そうした配慮もあり、2.5%(6月)、5%(8月)といった随分と低い掛け目からスタートするようだ。

今回のA株組み入れを契機に、アクティブに運用している基金はA株を買い増す可能性がある。QFII(適格海外機関投資家)、QDII(適格国内機関投資家)、RQFII(人民元適格海外投資家)などによる買い増しも期待できる。相場付きによって大きく変化するこの部分の買いが、どの程度出てくるかといった点の方が重要だろう。

A株市場、長期的に資金が流入?

短期的な影響はそれほど大きくないかもしれないが、長期的には株式市場の自由化、国際化に大きな効果があるはずだ。現在の本土市場は零細投資家主導のバリュエーションの不安定な市場であるが、海外の機関投資家の売買、保有ウエイトが高まるにつれて、株価決定メカニズムはファンダメンタルズをより重視する国際市場に徐々に同化していくはずである。

中国の長期的な成長性は評価しているが、株式市場が未熟であるため積極的な投資をためらってきた保守的な機関投資家も少なくない。こうした機関投資家が積極的に買い始める可能性がある。

田代尚機(たしろ・なおき)TS・チャイナ・リサーチ株式会社 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP:http://china-research.co.jp/