中国の経済成長率は2015年4-6月期に7%を切って以来、狭いレンジでの底這い状態が続いている。詳しくみると、2016年1-3月期、4-6月期、7-9月期がいずれも6.7%で、リーマンショック直後の2009年1-3月期以来、最も低い水準である。その後少し持ち直し、2017年1-3月期、4-6月期は6.9%となったが、7-9月期、10-12月期、2018年1-3月期は6.8%で推移している。

今後、中国の成長率が上昇することはあるのだろうか?それを予想するには投資が伸びる余地があるのかどうかが重要なポイントとなるだろう。

インフラ投資にも減速懸念あり

中国経済
(画像=PIXTA)

月次でみても全国固定資産投資の伸び率は鈍化している。4月累計の伸び率は7.0%で、3月累計と比べ0.5ポイントも低い。手元にある統計では2005年以来の伸び率を確認することができるが、その範囲では最も低い水準となっている。

統計の発表形式は、累計ベースであり、月次の状況は公表されていない。ただし、累計の伸び率とともに実績額が公表されているので、各月におけるそれらのデータを使えば、当月、前月の実績額を計算することができ、そこから月次ベースの伸び率を計算することができる。そうして推計したデータでみると、2018年4月は6.1%増に過ぎなかったことがわかる。同じようにして過去の月次伸び率を計算すると、2016年7月や、昨年の8月、9月、10月は直近の4月よりも低くなっている。月次の細かいデータをみる限りでは、2016年に入り、固定資産投資の底這い、低迷傾向が続いている。

2017年の全国固定資産投資の内訳をみると、製造業による投資が30.7%、インフラ設備が22.2%、不動産開発が17.4%で、流通やサービスなどその他が29.7%となっている。

まず製造業の状況をみると、4月累計は3月累計と比べれば1.0ポイント改善しているものの、4.8%増にとどまっている。2015年前半に、この伸び率が10%を割り始めて以来、低迷が続いている。供給側改革、環境対策の成果が出ているということなのであろうが、鉄鋼、石炭、セメント、アルミ、非鉄金属、製紙などの設備投資が厳しく抑えられている。

中国では重厚長大産業のキャッチアップ投資が終わっている。そうした産業はより発展段階の低い国に移転している。研究開発や新産業における投資は今後増えるだろうが、短期間で急増したりするものではない。そう考えると、製造業の投資が2015年前半までのように10%を超える伸び率に戻るとは考えにくい。

次に、インフラ投資を見ると、4月累計は12.4%増で、3月累計と比べると、0.6ポイント低下している。鉄道輸送が8.9%減、水利管理が5.8%増、公共施設管理が10.8%増となる中、道路輸送が18.2%増となるなど、項目によって伸び率の差が激しい。

2015年11月末、第一回目のPPP(公民連携)プロジェクト、1043件が認可されて以来、PPPの導入が積極的に進められてきたものの、質の悪い案件、詐欺まがいの案件、効率の悪い案件など、ずさんなものが目立つようになり、一部で社会問題化している。当局は個別プロジェクトの審査を厳しくしている。こうした現状を考えると、しばらくの間、インフラ投資の増勢にも限界があるだろう。

また、全国不動産開発投資を見ると、4月累計は10.3%増であった。不動産コントロール政策が強化されたことで2015年3月から2018年2月までの間、一けた台の伸びであったが、直近では2か月連続で10%を超えてきた。農村から都市への人口流入については既にピークを過ぎた感があるが、それでも都市機能の拡充、都市インフラの整備はまだ必要で、オフィスビル、住宅に対する需要も高水準が続くであろう。ただ、依然として当局の不動産バブルに対する警戒感は強い。このまま伸び率の増勢が続く可能性は低いだろう。

金融行政の重点はリスク防止

投資に大きな影響を与える金融政策をみると、景気への配慮よりも、リスク防止に重点が置かれている。金行政機関の組織改革の影響を受けて、発表が延びている「“十三五”現代金融体系規則」だが、複数のマスコミ報道によれば、間もなく発表される見通しだ。

2016年から2020年までの5年間における金融行政の大方針が示されるわけだが、(1)銀行の不良債権を減らし、債券デフォルトリスクの処置を行う、(2)シャドーバンキングを処理する、(3)金利操作の作用を強化し、金融政策の予見性を高める、(4)レバレッジを縮小し、資本市場の作用を発揮させる、(5)リスクを予防し、全体をまんべんなく一貫して監督管理するなどがその主な内容となるようだ。

いかにして大量の資金を市場に供給し、経済を発展させるのかではなく、いかにして金融リスクを縮小させ、資金効率を高めるかが主要な目標となっている。表現を変えれば、景気が落ち込むことではなく、加熱することにより注意が払われていると言えよう。こうした状況で資金が潤沢に供給され、設備投資が活発になる可能性は低い。

全人代では今年の成長率目標を6.5%程度としている。成長率の鈍化は政府コントロールの結果でもある。海外の市場関係者は成長率鈍化に対して敏感になりすぎている。

田代尚機(たしろ・なおき)TS・チャイナ・リサーチ株式会社 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP:http://china-research.co.jp/