カナダで開かれたG7・首脳会議は散々な結果となった。

トランプ大統領は開幕日の6月8日、G7へのロシア復帰を提案する一方で、アメリカの貿易相手国を激しく批判した。9日には、首脳宣言が採択され閉幕したが、その後、カナダのトルドー首相による米国の追加関税措置を批判した会見内容にトランプ大統領は激怒。ツイッターを通じ、首脳宣言を承認しないよう指示したことが明らかとなっている。

この件に関して、ドイツのメルケル首相は、「大きな失望を感じている。トランプ大統領の決定が環大西洋貿易投資パートナーシップ関係を終わらせるというわけではないが、我々は、安易にこのパートナーシップ関係に依存し続けるわけにはいかなくなった。もし共同の外交政策がなければ、EUは押しつぶされてしまう。そのことを今回のG7首脳会議は示唆している。G7の枠組みを放棄するわけではないが、ドイツはロシアと対話を求めていかなければならず、日本やカナダ、インドや中国と密接に協力していかなければならない」と述べている(6月11日、新華社)。

トランプ大統領の保護貿易政策は、圧倒的に赤字額の大きい中国だけをターゲットとしているわけではない。赤字削減にはそれほど効果があるとは思えないG7各国に対する強固な対立姿勢は、中国に対する包囲網の形成が目的ではないこと、保護貿易政策を取る理由が貿易赤字の削減以外にもある可能性などを雄弁に物語っている。

一帯一路を推進する上海協力機構

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(画像=zhu difeng/Shutterstock.com)

同じ頃、6月9日、10日の日程で上海協力機構・首脳会議が青島市で開催された。従来のメンバーは中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンの六か国。今回は昨年から新たにメンバーに加わったインド、パキスタンを加えた8か国の首脳が集まり、開催された。

8首相が並ぶ背景に掲げられた横断幕には中国語、ロシア語の表記しか見当たらない。国際会議でありながら、英語の表記がないのは中国であっても珍しい。G7に対する一つの対抗軸としての首脳会議であることが暗示されていると言えよう。

互信(お互いに信じ合う)、互利(お互いに利益を享受し合う)、平等、協商(協議してとり決める)、尊重多様文明(多様な文明を尊重する)、謀求共同発展(共同発展を求める)。これは上海精神と言われるもので、上海協力機構の結束力の源となる考え方である。この上海精神に基づき、習近平国家主席は主席就任直後から、関係国との間で積極的に“一帯一路”戦略の推進に力を入れている。G7がアメリカという中核国に対する不信を強めるのとは対照的に、上海協力機構は中国、ロシアといった中核国を中心に、イデオロギーを超えて、利益で結びつく形で結束力を強めている。

米国の狙いは中国との共存繁栄

アメリカと中国との関係を見ると、緊迫した状態が続いている。

ただし、ZTEへの制裁については7日、和解が成立している。習近平国家主席がトランプ大統領に直接、解除を要求、時間は少しかかったが、トランプ大統領がそれに応じた形となっている。中興通訊は10億ドルの罰金を支払い、さらに4億ドルを第三者機関に供託すること、アメリカは輸出禁止名簿から外すといった内容である。加えて、30日以内に董事会、幹部人事を刷新するよう要求している。

この和解によって、ZTEは倒産を免れることができた。10億ドルの罰金は高額であるとはいえ、2017年12月末現在の株主資本は49億ドル相当(1ドル=6.4元で計算、以下同様)、流動資産は169億ドル相当ある。また、2017年12月期の税前利益は10億ドル強である。同社にとって、1回のちょっとした赤字決算で処理が済みそうな額である。研究開発の面で大きく遅れてしまうとか、5G時代における競争に決定的に不利になるわけではない。

 一方、アメリカ側から見れば、得たものは大きい。今回の処罰は、アメリカ企業に対して、重要な部品、製品、ソフトウエア、技術などの輸出を7年間禁止するといった内容であった。

ZTEはキャリア向けに通信ネットワーク設備、消費者向けにスマホ、政府・企業向けに通信関連のソリューションを提供する企業。通信設備、スマホに関しては、製品の中核部品である半導体、通信関連部品などをクアルコム、インテル、アカシア・コミュニケーションズ(ACIA)などのアメリカ企業に依存している。

これらのアメリカ企業は、制裁によって、大口顧客を失うところであった。売上ダウンは、直接業績に響く。特に、光通信モジュールをZTEに供給するACIAは、売上高の3割をZTEに依存している。アメリカ企業にとっても厳しい政策であったと言えよう。それを、彼らのビジネスを確保した上で、多額の罰金を徴収し、経営陣に監視役を送り込むことに成功したのであって、アメリカ側の得たものは大きい。

トランプ大統領は結果的に、アメリカの単独覇権ではなく、覇権の多元化を推し進めている。対中政策では中国の台頭を抑える意図はなさそうだ。世界で最後に残った朝鮮半島の冷戦構造を劇的に終わらせようとしているが、これは中国の地域覇権を強化する動きに他ならない。

ZTEを最後まで追い込まなかったところを見る限り、中国が「中国製造業2025」に固執せず、ハイテク産業の総取りを目指すのではなく、アメリカのハイテク産業との共存共栄を目指しさえすれば、米中貿易紛争は解消されるはずだ。

田代尚機(たしろ・なおき)TS・チャイナ・リサーチ株式会社 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP:http://china-research.co.jp/