米国・英国に存在する、金利のみを支払う住宅ローン「interest-only mortgage」に警鐘が鳴り響いている。

英国では今後15年にわたり返済のピークに何回か突入すると予想されているが、金融行動監視機構(FCA)は「多くの借入者に元本を返済する経済力がない」との懸念を示している。前の金融危機以降、米国では借入れの審査基準や返済期間が厳しくなっているが、リスクの高い融資であることは変わりない。

金利しか払わない「interest-only mortgage」とは?

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(画像=Jirsak/Shutterstock.com)

米国や一部の欧州諸国で利用されているinterest-only mortgageは、25~35年契約で借入後、長期間にわたり金利のみを支払うため、一般的な住宅ローンよりも月々の返済額が非常に低く抑えられるというメリットがある(Wich.co.uk2018年2月10日付記事)。

しかし金利しか払っていない=元本は一切返済しておらず、定年退職間際、あるいは退職後にようやく元本の返済を始める利用者もいるという。例えば35歳の時に30年契約で借入れしていた場合、働き盛りを過ぎてから返済することになる。

また月々の返済額が少ないので、通常の住宅ローンで購入するよりも高価格な家が購入できる点が裏目にでて、借入者の返済能力を超えた融資が行われているケースが多い。

「完済に一体何十年かかるのか」という以前に、果たして完済は可能なだろうか。金利のみの支払いと元本の返済では、毎月の支払額もまったく違う。借入者の年齢を考慮すると、元本の返済期間は金利の支払い期間よりはるかに短くなる。規制当局が警告を発するのも無理はない。

欧米諸国でこれほどリスクの高い住宅ローンが導入された当初の目的は、住宅市場を含む投資市場の活性化だった。前金融危機以前は住宅ブームに乗って、借り手の経済力を無視した融資が頻繁に行われていたが、あまりにも多くの借入者が負債の増える可能性を理解しないまま、高リスクの融資を受けていたという。

米国では2008年の金融危機以降規制が強化され、2013年に消費者金融保護局がinterest-only mortgageを含む「無責任な住宅ローンの融資」から消費者を保護するためのガイドラインを定めた。

金融危機以降は高所得層がターゲット?

ところがCNN2015年7月20日付けの報道によると、ウェルズ・ファーゴを含む米金融機関は数年もたたないうちに、interest-only mortgageの提供を復活させている。「以前よりはるかに審査基準や融資条件を厳格化している」と銀行や住宅ローン会社は主張しているが、リスクをともなう融資である事実は変わらない。

ウェルズ・ファーゴの住宅ローン部門責任者フランクリン・コーデル氏は2013年、通常の住宅ローンの審査基準を満たしていないが返済能力はあると判断した借り手には、interest-only mortgageのようなローンを提供する意向を示した。

これに対し、消費者保護団体などは近年における住宅価格の急騰を考慮し、interest-only mortgageをリファイナンスの手段として利用する消費者が増える可能性に懸念を示している。

2015年からinterest-only mortgageを提供している米大手住宅ローン会社ユナイテッド・ホールセール・モーゲージは、同社からの借入には20%の頭金が必要になるほか、クレジットスコアの評価が平均以上など、金利の支払い期間終了後も十分な返済能力があることを証明しなければならない、と述べている。つまりサブプライムローンにように返済能力のない消費者への融資を乱発するのではなく、あくまで高所得層をターゲットにした融資商品だと主張している。

金利は5年ごとに見直され、10年後から元本の返済が上乗せされる。例えば4.125%の金利で30万ドル借り入れた場合、最初の10年間は通常の30年固定ローンよりも毎月の返済が420ドル少なくてすむ。

同社のマット・イシュビアCEOは、かつて規制当局が「有毒」と称したinterest-only mortgageの提供を始めたことについて、「責任ある貸し付けを行い、マイホームの購入を希望する消費者が自分に合った返済プランを選べる環境を作りだそうとしている」と述べた。

英国がかかえる住宅ローンの時限爆弾

金融危機後も意図的に住宅価格高騰を維持してきた英国では、金融行動監視機構(FCA)が正式な警告を発する事態に進展している。FCAの調べによると、2018年の時点でinterest-only mortgageの利用者は167万人に達しているが、今後15年にわたり、金利のみの支払いから元本返済期間の移行ピークが何度か訪れる。

金利のみの支払いと元本返済ではどれぐらい差がでるのか?例えば、2.5%の金利で25万ポンドを借り入れしている利用者が5年以内に完済する場合、毎月の支払は540ポンドから4437ポンドと8.5倍以上に跳ね上がる。

FCAいわく、利用者の多くが25年契約の金利支払い期間の満期終了後、元本を返済する準備を整えていない。ローン会社に返済方法の相談をするようこれらの利用者に呼びかけているが、ほとんどが「臭い物に蓋をする」といった様子で問題を放置しているという。

元本返済開始のピークは3度訪れる見込みで、2018年のピークはさほど問題視されていないが、2027~2028年および2032年のピークはかなり深刻なものになりそうだ。

世代による所得格差や住宅価格の高騰で、2018年にピークを迎える利用者が比較的裕福な定年退職者予備軍であるのに対し、2027~2028年と2032年に返済を開始する利用者はそこまで経済的な余裕がない。その上融資審査の所得基準も引き下げられているため、自分の返済能力を超える金額を借りている可能性があり、債務不履行に陥るリスクがより高い。またこれらの層の多くは、返済を補えるだけの資産を保有していない。

「無責任な住宅ローンの融資」の責任を金融機関だけに問うのはどうか。多数の金融機関は再三にわたり、interest-only mortgage顧客に返済方法に関する相談の機会を提供してきたが、あまりにも多くの利用者が警告を無視しているという(This Is Money.com2018年1月30日付記事)。 このまま何の対策も打たず債務不履行に陥れば、いずれ多くの英国人がマイホームを失うとともに、金融市場が混乱に陥る可能性がある。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)