住宅ローン金利の指標はどう決まるのか
固定金利の指標となる長期金利の代表格、10年物国債と、変動金利の指標となる短期金利の代表格、無担保コールレート翌日物はどう決まるのか。その前提として、そもそもの金利の動きがどんな理由で左右されるのかを知る必要がある。
金利は主に信用リスクや返済期間、将来の予測などによって決まる。もしお金を貸しても返済できない可能性が高いなら、そのリスクの分だけ金利の上乗せ分は多く、逆の場合なら少なくなる。返済期間が長い、将来物価の上昇や景気変動が見込まれるなど、不確実性が高いと金利は高くなりやすい。
そしてその金利のなかでも、短期金利と長期金利の決まり方はそれぞれ異なる。まず金融市場は1年未満の資金取引が行われる短期金融市場と1年以上の資金取引が行われる長期金融市場に分かれるが、前者での取引時の金利が短期金利、後者での取引時の金利が長期金利だ。
短期金利は、極めて近い将来に突然予想外の経済情勢の変化や物価変動が起こる可能性は小さいことから、市場での資金需給に強く影響される。そのため日本銀行の金融政策の影響下にあり、同行は無担保コールレート翌日物を誘導して短期金利をコントロールしている。
長期金利は金融政策の影響を受けつつ、将来において見込まれる物価の上昇率や経済成長率、投資のリスクなど様々な要因によって決まる。物価上昇率が高まれば、また経済成長が期待できれば投資を望む人が増えて長期資金の需要は高まり、長期金利は上がる。
このように短期金利は日銀の金融政策の影響を受け、長期金利は金融政策だけでなく多面的な将来予測の影響も受けて決まるのである。
住宅ローン金利が低下傾向にある理由
住宅ローンの金利は、固定金利も変動金利もそれぞれの指標、より掘り下げれば金融政策や将来予測などに左右される。
ここ10年の推移には具体的にどんな背景があったのだろうか。
大きな背景としては、長く続くデフレの影響がある。10年前よりさらに前から、日本では景気が悪化するなか、商品等の価格が下がり販売数も伸びず、企業の売上は減少し、労働者の給料は上がらない、という状況が続いていた。
そこで日本銀行はゼロ金利政策を行って、無担保コールレート翌日物の金利をほぼゼロになるまで下げたのである。金融機関は極めて低い金利で資金を借りられ、企業や個人へも融資しやすくなる。
企業は設備投資などをより容易にできるようになり、個人は例えば短期プライムレートに連動する住宅ローンの金利が下がることで住宅を買おうとするかもしれない。そうしてお金の流れを活発にして景気を刺激しようとする政策だ。
特に2013年からは異次元緩和と呼ばれるほど、多額の資金を市場に投入した。国債を大量に購入するなどして、市場に流通するお金の量を増やしたのである。
しかしそれでも将来も物価は下がり続けるだろうという予測、人々の意識を根底から変えることはできなかった。企業や個人の借り入れはそれほど進まず消費も増えず、結果的にデフレ脱却も進まない。
そのため日本銀行が2016年に断行したのがマイナス金利政策である。これは金融機関が日本銀行にお金を預けた時の金利をマイナスにするという政策だ。
この金利をマイナスにすると金融機関は利息を得られるはずが逆に払わなくてはいけなくなってしまう。であれば金融機関は企業や個人に貸す方向に舵を切る。加えて大量に国債を購入し続けた日本銀行は、長期金利も一定のコントロール下におき、10年物国債の金利を0%程度に誘導する方針を示した。
日銀はこうした世にさらに多くの資金を出回らせて景気を回復しようという取り組みを続けている。短期金利や長期金利は低く抑えられ、その影響もあって、住宅ローンの金利は低下していった。
住宅ローン金利の推移に伴う変化
住宅ローンの金利が下がった影響が顕著に現れたのは、借り替えにおいてである。国土交通省の「2017年度民間住宅ローンの実態に関する調査」では、2016年度における民間金融機関の新規貸出額のうち、借り替えの割合は25.3%となり、2015年の15.2%から約10%増加した。
これはマイナス金利政策前に組んだ住宅ローンを、より金利が低くなったタイミングで借り替えて負担を減らそうとする人が増えたからと考えられる。そして場合によっては、実際に返済負担額の減少も見込める。
例えば現状ローン残高2,000万円、残りの返済期間20年、固定金利2%の住宅ローンを組んでいる人が、マイナス金利政策後、0.825%のローンに借り替えたとする。
その場合、毎月の返済額は10万1,177円から9万426円と、1万751円分低くなる。年間にすれば121万4,124円から108万5,112円で、12万9,012円の負担減だ。総返済額としては2,428万2,480円から2,170万2,240円に下がり、合計で258万240円が借り替えたことによる減少分となる。
つまり、手数料など諸費用で数十万円かかったとしても、支払い額を減らせる見通しは立つ。金融政策ならびに金利の変化は、時に借主にこういった形で波及するのだ。(ZUU online編集部)
【合わせて読みたい「住宅ローン」シリーズ】
・住宅ローン選択のポイント
・住宅ローン減税は住宅ローン残高の1%が戻ってくる
・固定と変動どちらで借り換える?
・住宅ローン借り換えの前にシミュレーション