中国煙草総公司とアリババ、アント・フィナンシャル(螞蟻金服)の3者が6月下旬、戦略提携備忘録に署名した。国有中央企業の象徴ともいうべき中国煙草総公司、中国最大の小売企業で、IT界をもリードするアリババと、そのグループ金融を担当するアント・フィナンシャル。20世紀型の古い大企業と、最新鋭の花形企業という異色の組み合わせである。この提携は、何ををもたらすのだろうか。「東方煙草報」「捜狐」などのネットメディアが伝えている(1元=16.65日本円)。

煙草総公司は国防予算を負担?

中国経済,たばこ産業,企業連携
(画像=PIXTA)

中国煙草総公司は、改革・開放政策に伴い1982年に誕生した。国家煙草専売局とは表裏の関係にある。それぞれ生産と管理を担当している。従来の酒・煙草専売機構から、煙草だけを切り離したものだ。組織は改組されても依然として専売であり、その利益は莫大だ。

2017年放送の財富中国(東方衛視のテレビ番組)によると、2016年における煙草総公司の利潤は、1兆795億元(18兆円!)だった。2位以下には国有四大銀行が並ぶ。工商銀行2782億元、建設銀行2314億元、農業銀行1839億元、中国銀行1645億元である。つまり煙草総公司の利潤は、四大銀行の合計より大きい。

2015年の利潤はさらに大きく、利潤総額1兆1436億元、納税額1兆950億元という“ダブル1兆”を達成していたのである。

2017年、中国の財政総収入は17兆元であった。相変わらず納税に占める煙草総公司の地位は群を抜いている。まだ禁煙の奨励されていない1990年代には、1社で10%以上の税負担をしていた。現在では順次下降しているが、それでもまだ7%前後を負担している。年間の国防予算と大差ない額である。

男性喫煙者は52%の高率

この“納税マシン”煙草総公司を取り巻く環境をみてみよう。専売のため、民衆は高価格の煙草を買わざるを得ず、暴利をむさぼっているという批判はある。これに対しては、欧米諸国よりは安い、青少年が初の喫煙をする際の有効な障壁となっている、という答えを用意しているようだ。そして利益を極大化させる煙草総公司の“経営努力”もあり、中国ではまだ男性の52%、女性の27%の喫煙者が存在している。ちなみに日本は、男性29.7%、女性9.7%(2016年5月)である。

喫煙は発がんリスクを伴う。がんにかかってしまった場合の経済的負荷は非常に大きい。このリスクを考慮しない、というのはもはやあり得ない。がんによる思いがけない早逝は社会の損失でもある。今後、中国煙草の高い価格設定と社会の潮流は、喫煙者を禁煙に追い込んでいくだろう。

喫煙者比率が日本並みに下がったらどうするのか。政府は煙草総公司の利益(納税額)低下を容認できるのだろうか。

馬雲の“世界的眼光”に期待

アリババとの提携は、いわばそうした状況に備えるいわば危機管理である。一体何を目指すのだろうか。今回の提携は、煙草産業の発展と変革の新しいエネルギーという位置付けだ。調印式にはアリババグループ創業者、董事会主席・馬雲(ジャック・マー)、国家煙草専売局長、中国煙草総公司社長と3トップがそろい踏みした。

総公司社長は、アリババとはその本拠地・浙江省をモデルケースとして“インターネット+煙草”の取り組みを行っている。ここ2年の間に、“専売管理”のイノベーションが進み、偽煙草や、買占めなど不正行為の察知に効果をもたらした。新ブランドの営業や、在庫管理改革にも効果があった。この経験を全国に押し広げたい。馬雲主席の“世界的眼光”にはさらに期待している、と述べた。

馬雲は、煙草産業の国家財政への責任の重大性は認識している。煙草産業のデジタル化を推進し、新しい理念を注入したい、と語った。

ネット通販で煙草を売るつもりか、などと世間には違和感を与えた異種提携だが、すでに効果は上がっているようだ。アリババと馬雲は“納税マシン”中国煙草総公司の救いの神となるのだろうか。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)