事業承継では自社株式を後継者に確実に取得させ、経営権を後継者に集中させることが重要となります。そのための手法の一つに種類株式や信託の活用が挙げられます。これらは上手に活用すれば事業承継における有効なツールとなります。以下では種類株式および信託についての、それぞれの概要と活用方法を紹介します。

事業承継の要は経営権の集中とリスクヘッジ

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(写真=gopixa/Shutterstock.com)

事業承継では贈与税や相続税などの税金対策も重要ですが、同時に会社の経営権を後継者に集中させ、安定した会社運営を行えるようにしておくことも忘れてはなりません。

仮に自社株式のすべてを後継者候補である子どもに相続させたとしても、他の相続人から遺留分を主張されたり、納税資金が調達できないために自社株式を譲渡したりすることで株式が分散してしまうおそれがあります。

このような事態を未然に防ぐには、例えば生命保険の活用や持株会社の設立など、いくつかの方法があります。種類株式や信託の活用もその一つです。

種類株式で経営権を後継者に集中させる方法

種類株式というのは会社の定款で普通株式とは異なる内容を定めた株式です。例えば、普通株式より優先して配当を受けられる「優先株式」、株主が会社に対して株式の買い取りを請求できる「取得請求権付種類株式」などさまざまな種類の株式を発行することができます(会社法108条)。

事業承継において経営権を後継者に集中させるために活用する種類株式としては「議決権制限株式」、「譲渡制限株式」、「取得条項付種類株式」が挙げられます。

・ 議決権制限株式
議決権制限株式は株主総会における議決権が制限されている株式です。後継者には普通株式を、他の相続人には議決権制限株式を相続させることで、後継者が株主総会を支配することができるようになり、経営を安定させることができます。他の相続人も財産的価値のある株式を相続しているため、遺留分減殺請求などのリスクを排除できます。

・ 譲渡制限株式
譲渡制限株式は、株式譲渡の際に会社からの承認を必要とする株式です。中小企業では定款に譲渡制限規定を置いているケースが一般的です。この譲渡制限により、経営者にとって好ましくない者に株式が譲渡されることを取締役会などで否決できるようになります。この結果、株式の分散防止に一定の効果があります。

・ 取得条項付種類株式
取得条項付種類株式とは、一定の条件が整った場合に会社が株式を取得できる株式を指します。例えば、先代経営者である株主が死亡した場合、会社が株式を取得できるという条項があるとします。この場合、株主死亡後、株式が相続によって複数人の手に渡ったとしても、会社が取得請求をすることで株式の分散防止ができます。

信託を活用して先代経営者の意向を確実に実現する方法

信託とは委託者が受託者に一定の事項を託す契約のことです。受託者は受益者のために委託された事項を行う契約上の義務を負います。事業承継では特に「遺言代用信託」の活用が考えられます。

遺言代用信託とは、経営者が生前に自社株式を対象として信託契約を締結することをいいます。具体的には、経営者が存命中は、経営者が委託者かつ当初の受益者であり、経営者が死亡した後には後継者が受益者となるものです。

遺言代用信託では、経営者の判断能力がしっかりしている間に、信頼できる人に議決権行使を委託しておきます。また、経営者が死亡した後は、後継者が議決権行使の指図権を出せるようにしておきます。これにより、後継者は経営権を確実に承継できるほか、判断能力の衰えた先代経営者が誤って第三者に自社株式を譲渡してしまうリスクも防ぐことができます。

まとめ

以上のように、種類株式や信託は設計の仕方次第で先代経営者の意思をうまく実現することができる手段となります。ただし、いずれの手法も法律上の判断や税務上の影響が絡んできますので、事前に十分な検討をしておく必要があります。専門家のアドバイスも受けながら活用を検討してみてはいかがでしょうか。(提供:みらい経営者 ONLINE


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