中国共産党中央委員会と国務院は7月上旬、「関干完善国有金融資本管理的指導意見」(以下意見)を発布し、国有金融企業による非金融企業への金融支配を厳禁とした。同時に、産業と金融の規範、金融業への参入条件を示した。国有金融企業(銀行、保険、証券)の比重について“合理的調整”を行うとともに、国有金融企業の投資へ厳格な制限を加える。
この強い指導意見の意味するところは何なのか?なぜ今なのか?気になるところは多い。ニュースサイト「今日頭条」「鳳凰網」などの記事から本当のところを探ってみよう。
意見の目指すもの
国有金融資本の管理制度を世に問うのは、今回が初めてであるという。産業社会全体に影響を及ぼす金融資本管理の新局面として、その意義は重大だそうである。意見は4つの目標としてまとめられている
(1) 国有金融資本、銀行、保険、証券業の比重を調整して、資本配置を効率化する。
(2) 国有金融資本は国家に属し、即ち全民所有である。国務院、地方政府財政部に対し、国有金融資本出資者としての職責を明確化する。
(3) 国有金融資本の経営予算管理制度を実行し、報酬管理制度を健全化する。
(4) 国有金融資本の本源回帰を推進し、主業に専心する。
これまでこうしたことができていなかったと告白しているに等しい。なぜこんなことになってしまったのだろうか。
3つの分析
記事は3つの分析を挙げている。
(1) 産業資本と金融資本の境界がはっきりしない。
したがって、これを厳格に制限する。金融業の総合発展という状況下、産業資本と金融資本は不断に融合し、非常に多くの“系列”が出来上がった。彼らはさまざまなルートから、産業資本の株主権を行使した。それらは資本市場への介入、売買の相殺など、多くの好ましからざる事態を出来した。
一方産業資本側も多元化をはかり、金融業への進出を加速した。その結果、あちこちに新しい“系列”が出来上がってしまい、金融業の領域を侵食している。その結果、金融の管理監督、金融政策、リスクコントロールなどが難度を増した。
(2) 資本管理の徹底こそ完全なリスク管理となる。
資金の依って立つところを抑えることこそ、最終的な金融リスクの解決となる。金融のトータル管理は、異業種を跨ぐ市場や投資のためにも非常に重要だ。これは民間資本の有効利用、外資の進出、外資に国民待遇を与えるための基礎ともなる。
(3) 中小商業銀行を国有資本から遠ざける。
中南財経政法大学の研究員は、中国の商業銀行は国の持ち株比率が高い。人民の資本、外資などを引き入れ、集体所有制など、混合所有制を採用しなければ、市場競争力を欠き、発展できないと指摘している。現状は、進む、退く、そのどちらでもなく、ただ市場にとどまっているだけの存在である。
こうした問題の解決を目指し、国有金融企業による非金融企業支配を、厳禁にするというのである。しかし、文書で規範を通達しても、解釈はいかようにも可能だろう。
外圧をバックに整理?
中国の企業では、金融機関に限らず経営の上位に党委員会の組織がある。経営目標とは別に、組織の既得権防衛という意思を生じる。国有金融企業や国有大企業を中心として、中小金融機関から、私有企業に至るまで、弊害を及ぼしているように見える。
設備過剰の国有企業をなかなか整理できないのは、地元の雇用不安や反発だけではないのだ。特に金融機関は一筋縄ではいかない。どこからか金をひねり出し、ちゃんと納税しました、などと辻褄を合わせることはお手のものである。
おりしも対米貿易戦争が始まった。国家による特定企業への補助金を批判され、企業ガバナンスの問題となっている。意見には、外資の国民待遇に対する配慮も見える。この際、外圧をバックとして、国有金融機関に巣食う組織図外の“系列”も排除し、きれいに整理してしまおうという意図だろうか。米国へのアピールとしてもうまく使えそうである。
一方、国有金融機関と国有企業は、多くの共産党員にとってもっとも頼りになる太い脛(すね)である。当面、改革派と保守派のせめぎ合いが続くのだろう。中国に闘争はつきものだ。通達を額面通りに受けとるわけにはいかないのである。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)