国家統計局は7月16日、2018年4-6月期の実質経済成長率は6.7%と発表した。2018年1-3月期と比べ0.1ポイント低下したものの、市場コンセンサスとは一致した。

成長率は高ければ高いほど良いというわけではない。成長率が高すぎれば、人手不足、インフレとなり、それが止まらなくなる。成長率が低すぎると、失業者があふれ、デフレとなり、それが止まらなくなる。6.7%といった成長率はこうした観点から見て望ましい成長率なのだろうか?

物価、雇用、成長加速の必要なし

中国, 経済, 失速
(画像=PIXTA)

物価について4月から6月までの月次の統計をみると、CPI上昇率は1.8%、1.8%、1.9%と安定している。今年の全人代で決められた上限目標は3%前後である。足元では、総需要、総供給は安定した均衡を保っているといえよう。

同じくPPI上昇率は3.4%、4.1%、4.7%である。昨年の同じ時期が6.4%、5.5%、5.5%であったことと比べるとまだ低い。供給側改革が加速していることが要因であり、需要が急速に高まっているわけではない。川上での物価上昇が川下へと伝播しない限り、心配することはないだろう。

今後の見通しについて、米中貿易摩擦の影響が懸念される。アメリカからの輸入関税を25%に引き上げた大豆や大豆を原料とした製品の価格は上昇するだろうが、これらの製品がCPIに与える影響は小さい。

大豆かすは養豚や、養鶏のコストに影響を与えるが、豚肉、卵、鶏肉の価格はコストではなく需給で決まるため、大きな影響は出ないとみられる。大豆由来の食用油も同様である。

ちなみに、上半期の豚肉価格は12.5%下落しており、食用油は1%下落している。卵価格は上昇しているが全体に与える影響は小さい。大豆については、他国からの代替輸入や国内生産の拡大を進めていることもあり、関税上昇分の多くを供給側が吸収し、大した上昇率とはならないだろう。

雇用について全国都市部失業率はこの3か月間、5%を下回っており、5・6月は4.8%で、全国労働力月度調査制度が始まって以来の最低水準を記録している。2017年における16~59歳の労働人口は9億199万人で前年と比べ548万人減少しており、労働人口の減少は2012年以来6年連続となっている。

就業圧力が減少していることは、潜在成長率が低下していることを意味すると同時に、政策当局にとって、必要な成長圧力が減っていることを意味する。現状の労働状況を考えれば、無理に供給増を目指す必要がない、すなわち、景気を引き上げる必要がないといえよう。

保守的な観点から見て、経済成長速度をこれ以上引き上げる必要はないようだ。経済構造を改善・レベルアップするといった点からはどうだろうか?

現在の株価下落と景気は無関係

2000年代後半は、過度に投資に依存した成長であるといった指摘があったが、それも過去の話となりつつある。今年上半期における第三次産業のGDP比率をみると54.3%で、前年同期と比べ0.3ポイント上昇している。

サービス業による経済成長の寄与率をみると60.5%で、前年同期と比べ1.4ポイント上昇している。需要面からみると、消費の寄与率は78.5%で、前年同期と比べ14.2ポイント高まっている。

インフラ投資の減少、製造業の設備投資の伸び悩みを心配する声もあるが、裏側から見れば、経済のサービス化が進み、脱工業化の水準が上がっているということだ。

また、経済成長エンジンの転換といった観点からみると、イノベーションの進展が明らかである。工業領域では、上半期におけるハイテク産業、装備製造業、戦略的新興産業の生産額がそれぞれ11.6%、9.2%、8.7%増加しており、全体の伸び率である6.7%を上回っている。

消費では、サービス消費の伸びが高く、旅行や健康(薬品、医療など)、老人ケア、教育、文化関連の消費が大きく伸びており、実物消費ではスマート家電、ロボットなどの伸びが高い。

中国はエネルギー多消費型成長であるといった指摘があるが、クリーンエネルギーの比率が前年同期と比べ1.5ポイント高まったことで、上半期のGDPに対するエネルギー消費は3.2%減少した。これは全人代で定めた目標である3.0%減を上回っている。

市場ではインフラ投資の減速に注目が集まっている。上半期のインフラ投資は7.3%増に留まっており、2017年の19.0%増と比べ、大幅に鈍化している。これには、長年、インフラ投資は20%を超す成長を続けており、かつてほど強烈な需要があるわけではないという事情がある。

一度、いろいろな角度からその内容を再点検する必要があった。さらに、中央政府は重大なリスクを防ぎ解消するといった角度から、PPPプロジェクトを中心に、各プロジェクトの合法性、合理性について、社会公益、経済効率などを含め総合的に評価し直した。

下半期についてはそうした再評価がひと段落することから、インフラ投資は安定成長となるだろうと指摘している。

投資では上半期の不動産投資が9.7%増となり、2月累計の10.4%増から緩やかに鈍化している。しかし、土地購入面積は加速し、上半期は7.2%増となっている。商品不動産の販売面積も4月を底に回復基調にある。これらの先行指標が上向いていることから、下期の不動産投資は持ち直すと予想される。

足元で上海総合指数が下落基調となっていることから、景気の減速を懸念する声も聞かれるが、株式市場の動きと景気とは短期的には関連が薄く、流動性、投資家心理、政策見通しあるいは期待などとの関係が強い。

現在の本土市場は流動性の不足、米中貿易紛争の激化による投資家心理の悪化、景気対策への失望などが重なり下げているとみている。少なくとも、「本土の株価が下がっているから、中国経済は今後、大きく悪化する。だから、日本株も売るべきだ」などと考えない方が良いだろう。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ株式会社 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。
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