地方創生の波は、行政だけではなく民間企業でも意識されています。特に地域に密着している地方銀行の取り組みには目を見張るものがあります。今回は東北地方の福島にある福島銀行の取り組みについてお話をお聞きしました。福島銀行の「ふくぎん10大イベント」には同行地域貢献室の皆さまの地域に対する大きな愛情や想いがありました。今回は、室長の井上さんと芦澤さんにお話をお聞きしました。

福島銀行は地域密着だからこそ分かる、つなげられる

福島銀行地域貢献室 井上さん(右) 芦澤さん(左)(画像=JIMOTOZINE編集部)
福島銀行地域貢献室 井上さん(右) 芦澤さん(左)(画像=JIMOTOZINE編集部)

--まず、福島における地方銀行の皆さまの役割についてお聞きしたいと思っております。

井上さん:福島には東邦銀行さま、第2地銀として大東銀行さまと当行がございます。当行は大東銀行さまと同じくらいの規模です。大東銀行さまは郡山に本店を構えていらっしゃるので郡山の出店比率が高く、当行は福島に本店があるため福島の比率が高いなどの違いがあります。そんな中、私たちは銀行として何ができるかと考え、それぞれ日々切磋琢磨しています。

次に、当行での私たちの役割とは何かといえば、私たちは地域貢献室という立場で、福島を元気にする取り組みを行い、それが最終的には福島銀行の発展に役立てると考えています。他にも、当行では各部署で事業承継や創業支援などの事業支援を通じて、福島を少しでも活気のある元気な県に戻そうと動いています。

福島銀行
(写真=JIMOTOZINE編集部)

--メガバンクをはじめ、たくさんの金融機関がありますが、地域密着型の貴行の良さをご教示ください。

井上さん:福島は東北地方の中でも関東圏に一番近い県でもあり、都市銀行も進出しています。その中で勝ち残るためには地元の強みを最大限に発揮することが大切だと考えています。たとえば、信用金庫さまはFace to Faceとおっしゃることが多いのですが、地方銀行も同じだと思います。お客さまのもとに足を運び、世代に応じたさまざまなお悩みをお聞きし、当行でできることは当行で、サポート相手が必要だと思う場合はサポート先とお客さまをつなげるのも私たちの大切な役割です。

--地域密着型だからこそできるビジネスマッチングやサポートですね。それでは、皆さまの部署で行われているサポートはございますか。

福島銀行地域貢献室 井上さん(写真=JIMOTOZINE編集部)
福島銀行地域貢献室 井上さん(写真=JIMOTOZINE編集部)

井上さん:これからお話する10大イベントや助成事業があげられます。高齢者や子どものための支援をしているNPO団体のうち、応募いただいた先に助成金の支給を行っています。それ以外には自然保護の啓蒙活動を行っている団体への補助を行うのも私たちの取り組みです。

芦澤さん:他には、ボランティア活動もあります。社会福祉協議会さまから情報をいただいて、近隣の支店に声をかけて地域のボランティア活動を行い、地域の活性化を図ろうとしています。

--地方創生や地域に密着した取り組みについて、行政と銀行との違いはどのようなことですか?

井上さん:行政は取り組み状況を発信してもなかなか届かないのかなと思っています。それに対して私たちの場合は、営業担当者がお客さまに直接お話ができるので、取り組みが届きやすいのがメリットです。他に、自分たちの銀行の補助金だけではなく、県や市の補助金など、支援の紹介をすることができるのも強みです。これが行政との違いなのではないかと思っています。

--地域を盛り立てるために、貴室はどのような思いをお持ちですか。

井上さん:県内に根ざす中小企業や個人事業主の皆さまを元気にするのが大きな役割だと思っています。それぞれが課題をお持ちです。その課題に対して向き合い、ひとつひとつを丁寧に考え、銀行でできるもの、できないものは他の力を借りてお手伝いをすることに尽きると考えています。それが最終的にそこで働く人たちを明るく元気にすることにもつながるのではないでしょうか。

県内インバウンド「ふくぎん10大イベント」をきっかけに地元の人が明るく元気になってほしい

福島銀行地域貢献室 井上さん(右) 芦澤さん(左)(写真=JIMOTOZINE編集部)
福島銀行地域貢献室 井上さん(右) 芦澤さん(左)(写真=JIMOTOZINE編集部)

--それでは地域貢献の取り組みである、「10大イベント」についてお聞きしたいと思います。はじめるきっかけをご教示ください。

芦澤さん:はい。これは、福島を明るく元気にしたいという思いから始まりました。震災以降、県外からお越しになるお客さまが少なくなりました。そこで、私たちはどうしたら福島を明るく元気にできるかと考えたのです。

そして、私たちは県内に住む人同士の交流人口を増やそうと考えました。私たちは「県内インバウンド」といっているのですが、たとえば、会津にお住まいの人がいわきに、いわきにお住まいの人が会津や福島に行くなどの、県内の人同士の交流があります。

私たちがイベントを通じて「福島にはこんないいところがある!」と発信することで、参加くださった方に「いいところがあるよ」と思っていただく。そして、それが口コミでどんどん広がり、県外の人にも届けば福島へお越しになる方が増えていくのではないかと考えています。

--県内インバウンドとは面白い取り組みですね。福島の方々にとっても地元の魅力を再発見する機会にもなりますね。

福島銀行地域貢献室 芦澤さん
福島銀行地域貢献室 芦澤さん(写真=JIMOTOZINE編集部)

芦澤さん:そうですね。旅行代理店さまにお願いすればいいことなのかもしれませんが、普通の日帰り旅行とは違う特色を出すために、私たちは地元の方に直接お話をお聞きできるように自分たちでアテンドしています。話を一緒に聞くことによってもっと地区や文化遺産のこと、工場見学を通じて会社さまの製品のことを深く知ることができるのです。これが普通の日帰り旅行とは違った特色であり、付加価値だと思っています。

取り組んでみて分かることもたくさん 福島の奥深さを知る

--それぞれのイベントによって特色が違いますね。

井上さん:基本的には同じ内容を2回はしないというスタンスのイベントなんです。定例的なイベントもありますが、それ以外は毎回別の内容にすると決めています。たとえば、村や町にターゲットをしぼって、そこからクローズアップするなどしています。

--地方公共団体の方々が民間企業に働きかけるケースは少ないかもしれないですね。皆さまの場合はオファーを快く引き受けていただけますか?

井上さん:皆さま、同じ課題認識をお持ちです。「よいものは持っているのに発信しきれていない」とお考えなので、快く引き受けてくださいます。これは、私たちだけではなく、各支店の人たちもお客さまへ訪問時にこのイベントを話題の一つとして取り上げてくれています。銀行といえば融資とお考えの企業さまも多いのですが、当行のこういった取り組みを切り口にお話をしますと、お客さまのお考えが変わる場合もありますので、何かのきっかけ作りにもなっています。

ちなみに、このイベントは春夏秋冬、季節ごとに10回、夏は10大+2で12回ですから、合計42回開催しています。芦澤は添乗員としてほぼすべてに同行しているんですよ。

芦澤さん:そうですね(笑)。

--実際に取り組みをして、手応えはありますか。最初と違いますか?

芦澤さん:最初は何してよいのか分かりませんでした。自分も福島のことを全然知らなかったので、お客さまの興味関心も分からなかったのですが、やっていくうちにいろいろと分かるようになったものがありました。

戊辰戦争から150周年という特別なイベント以外にも、ひまわりを見に行くなどの季節モノのイベントは「お客さまも興味を持たれるんだな」などが分かるようになってきました。実際に取り組んでみて、改めて福島のよさに気づきます。もちろん、素晴らしいと思うからこそこういう風に企画にするのですが、実際に行ってお話を聞いて改めて素晴らしさを実感することも多々あります。

イベント
(提供=福島銀行)
2017夏の10大イベント
タイトル:『地上の太陽、この世の絶景 三ノ倉高原のひまわりと竹を使った世界に一つだけのMY籠作り』

内容:東北最大級の広さを誇る三ノ倉高原のひまわり畑見学。地元の方から、竹細工の竹籠作りの体験を行う。

--募集人数はどうでしょうか?

井上さん:集客についてはさまざまです。観光系や旅行系のイベントと工場見学や社会科見学のイベントは平日昼間に行うので高齢者の方々が多いですね。それ以外には親子で参加できる体験型イベントもあります。

芦澤さん:たとえば、夏休みの自由研究に合わせるようなものもあります。

井上さん:幅広い世代の方々にお越しいただけるようにイベントを考えながら、季節ごとに10個作っています。

--参加されるお客さまの中には何度もご参加くださるリピーターの方もいらっしゃいますか。

井上さん:そうですね。チラシをHPや地方紙に出すと、「今回は何番と何番のイベントに行きたい」という常連さまもいらっしゃるんですよ。銀行と取引がないお客さまもご参加いただけるのですが、これまで当行と取引のないお客さまもいらっしゃれば、初めてこのイベントにご参加くださるお客さまもいらっしゃいます。毎回3割ほどは初めてご参加のお客さまですが、継続することで認知度もあがってくると実感しています。

イベント
(提供=福島銀行)
2017夏の10大イベント
タイトル:『地元クローズアップシリーズ第3弾~会津美里町~ 高田梅と座禅café、会津最古級の寺院からあやめ苑までぐるっと巡ります!』

内容:会津美里町の商工観光課から紹介していただいた場所を巡るツアー。会津の最古級の寺院や日本一大きい『高田梅』の梅漬けについて地元の方から教えていただいたり、見ごろであるあやめ苑までを見てまわったりするもの。

--今は県内の人たちを中心に案内されているのですか。

井上さん:基本的にはそうです。ただ、HPにもアップしているので、県外の方でもこのイベントに参加したいとお申し込みをいただく場合もあります。

芦澤さん:実際にこのわらじまつりは、隣県、たとえば宮城の方も、毎年参加してくださいますね。

わらじまつり
(提供=福島銀行)

産みの苦しみがあるから楽しく取り組みたい イベントは地域の人の輪が広がる 

--実際に取り組みをはじめてみて、やりがいなどはいかがでしょうか。

井上さん:2014年夏から取り組みをはじめ、今年の夏で丸4年になります。年間40回を超えるイベントですから、新しく企画を考えるのに毎回アイディアをひねっています。もちろん伝えたいもの・知っていただきたいモノ・コトはたくさんあるのですが、アイディアが実行できない場合もあり、これから改善していきたいところではあります。

芦澤さん:続けていくうちに人脈が増えて、それぞれの各地域の商工観光課さまに連絡して、ざっくばらんに「こういうことはできないでしょうか」と聞くと、「考えてみますから」とおっしゃってくださいました。「こういうのはどうですか?」とアイディアをいただいたり、人やモノ・コトをご紹介してくださったりしています。こういった輪がどんどん広がっているのだと感じます。

井上さん:間違いなく産みの苦労はありますから。せっかくやるなら、楽しくやっていきたいですよね。

福島銀行地域貢献室 井上さん
福島銀行地域貢献室 井上さん(写真=JIMOTOZINE編集部)

芦澤さん:イベントが終わったら次のイベントが1週間後にありますから、本当にずっと走り続けているイメージです。実際に添乗員をして見て思ったのは、福島のことを本当に知らなかったなと思いました。今でこそ地域のことがいろいろ分かるようになってきたものの、最初は何も分からずに下見をして、パンフレットをもらうところからはじめました。今後部署が変わっても、この経験はずっと生きると思います。こうやって1日お客さまと一緒にいて、いろいろなお話を聞く機会はなかなかないと思っています。

井上さん:どんなイベントにしようかと週末に車を走らせていても、アンテナを張り巡らせていますよ。

芦澤さん:そうですね。パンフレットを見て、これは来年使えそうだというものもあります。

--今後、この10大イベントをどのようにしていきたいですか。

井上さん:イベント終了後にお客さまからアンケートをいただくのですが、いろいろなご意見をいただくので、それをイベントにも取り入れていきたいと思っています。集まらないイベントは作りたくないですし、アンケートで指摘を受けるという状況にはなりたくないので、満足度の高いイベント企画をこれからも練っていきたいです。

芦澤さん:これまでやってきたイベントは同じ内容がないからこそ、多くのお客さまにリピートいただいていると考えています。お客さまに大満足、一番の評価をいただけるのが私たちの最終目標です。満場一致で好評いただけるイベントを企画していきたいですね。

福島銀行地域貢献室 芦澤さん
福島銀行地域貢献室 芦澤さん(写真=JIMOTOZINE編集部)

--ここまでお聞きすると、銀行の皆さまも地域の皆さまもとても協力的だと感じます。

井上さん:できるだけ観光客の方々を呼びたいという同じ思いは皆さま同じだということを強く感じます。だから、こういったイベントの企画などにも快くご協力をいただけると感じています。最初は電話でいろいろとやり取りをするのですが、皆さまとても丁寧に教えてくださいます。それから、顔をあわせてお話をお聞きすると、つながりがさらに広がり、徐々に大きな輪になっていると感じます。それが面白いところでもあります。

福島銀行の今後の取り組み イベントから生まれるきっかけを新しい発信につなげたい

--地域貢献取り組みとして、貴行、貴室としての今後の展望や思いをご教示ください。

井上さん:地方創生は地域貢献だけにはとどまらないと思っています。銀行は融資だと思われがちですが、それだけではありません。先程申しましたように、ビジネスマッチング、創業支援、事業承継も含め、部署の垣根を超えて銀行全体で取り組み続けることが大切だと思っています。

福島銀行地域貢献室 井上さん(左) 芦澤さん(右)
福島銀行地域貢献室 井上さん(左) 芦澤さん(右)(写真=JIMOTOZINE編集部)

芦澤さん:まずは、福島のことをもっと上手に発信していきたいです。知事もアプローチをしてくださっていますし、風評被害を払拭できるように銀行としてビジネスマッチングなどを通じて、福島のよいところをどんどん発信できたらと思います。

当行の取引先の中にも各地域の食の魅力発見など、ビジネスマッチング会に出展している会社さまもいらっしゃいます。当行の取引先の中からアンテナショップにもよいものをおくことで福島の魅力を知っていただければ、福島に行けばもっとよいものがあると思っていただけるはずだと考えています。当行には埼玉の大宮に支店もありますし、東京にも事務所がありますから、そういった取り組みもしていけるとよいのではないかと思っています。

井上さん:福島の魅力といっても、全国で上位にある農産物が多いのにもかかわらず知らない人が多いのが現状です。それをどうやって認知していただくかを考えるのかが大事かと思っています。一銀行だけでは認知拡大は難しいかもしれませんが、やり方や方法を考えればもっとよさを分かってもらえるはずなんです。そのためには、当室としては頭をひねって、まだまだ考えることがあると思うのです。もしかしたら、イベントだけで満足してはいけないのかもしれません。
一方で、イベントが新たな種や芽になり、新しい発信ができるきっかけにもなる。そう願って、これからも地域の方々のために考えていきたいと思っています。(提供:JIMOTOZINE)

(このインタビューは2018年6月25日に行われました)