大多数の経営者にとって、自分の会社を売るということは、一生のうちに一度経験するかどうかの稀有なイベントといえる。どのように売却を進めるのかという手続面もさることながら、順調に売却できた場合にどのような税金がかかるのか気になるという経営者の方も多いだろう。以下では、会社の保有形態や売却先に応じて異なる課税関係を整理してみたい。
会社を売却するとどのような税金が関係するのか
会社を売却するということは、オーナー社長が保有している株式を譲渡することと言い換えることができる。株式はオーナー社長が個人で保有している場合もあるし、オーナー社長が設立した別法人などを通じて保有している場合もある。また、売却の相手先も個人である場合と法人である場合の双方が考えられる。
・個人が保有する株式の譲渡には所得税などが課される
オーナー社長個人が保有する株式を譲渡した場合、譲渡所得に対して所得税や住民税が課される。所得税というと、最高税率45%となる超過累進税率を思い浮かべる人がいるかもしれない。しかし、非上場株式を売却した場合の譲渡所得は、他の所得と合算して超過累進税率を乗じるような「総合課税」の対象とはならない。この場合の譲渡所得は、他の所得とは通算せず、所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%を合わせた一律20.315%の税率を乗じる「分離課税」の対象となる。つまり、譲渡所得に対しておおよそ20%の税金が課されることになる。
・法人が保有する株式の譲渡には法人税などが課される
オーナー社長が設立した別法人などが保有する株式を売却する場合、株式の売却益は法人の他の益金や損金と合算され、最終的な所得に対して法人税などの税金が課される。法人の所得に対して課される税金には法人税、住民税、事業税があり、これらを総合した実質的な負担率を意味する法定実効税率は30%前後となる。
基本的な課税関係は上記のとおりだが、個人株主、法人株主のそれぞれにおいて気を付けておかなければならない点もある。以下では場合分けしながら留意点を確認してみよう。
個人株主が株式を売却する場合には「みなし譲渡課税」などに注意
・低額譲渡の場合
個人株主が別の個人に対して適正な時価より低い価額で株式を売却した場合、売り手から買い手に対して贈与を行ったものとして買い手側で贈与税が課されてしまう可能性がある。また、買い手が法人の場合には、売り手が株式を時価で売却したものとみなされ、売り手側で「みなし譲渡課税」がなされる可能性がある。
・高額譲渡の場合
逆に、適正な時価より高い価額で株式を売却した場合、買い手が個人だと、時価より高い部分については買い手から売り手に対して贈与を行ったものとして売り手側に贈与税が課されてしまう可能性がある。また、買い手が法人の場合、時価より高い部分については売り手にとっての「一時所得」として課税されるおそれがある。
法人株主が株式を売却する場合には「寄付金課税」などに注意
・低額譲渡の場合
法人株主が適正な時価より低い価額で株式を売却した場合、買い手が個人でも法人でも、時価に満たない額が相手方への寄付金と認定される可能性がある。寄付金は一部しか法人の損金にならないので、残りの部分については法人税などが課されることになる。なお、買い手の個人が、売り手企業の役員である場合には、寄附金ではなく、役員賞与として、やはり法人の損金に算入できないことが想定される。
・高額譲渡の場合
逆に、適正な時価より高い価額で株式を売却した場合、買い手が個人でも法人でも、時価より高い部分については買い手から売り手に対して供与された経済的な利益と考えられる。そのため、法人では「受贈益」を計上することになり、その部分について法人税などが課される。
税務上の評価額はどのように算定されるのか
それでは、上述の各ケースに登場する「適正な時価」とはどのようなものだろうか。これは税務上の評価額を意味する。所得税などの課税が問題となっているケースでは所得税法上の評価額が、法人税などの課税が問題となっているケースでは法人税法上の評価額が「適正な時価」となる。
ただし、所得税法上の評価額も法人税法上の評価額もベースとなるのは相続税法上の評価額である。そのため、具体的には、財産評価基本通達などに従って株価を評価することになる。
このような税務上の株式評価を行うためには専門的な知識が不可欠である。そのため、将来、会社を売却する予定のあるオーナー経営者にとっては税務専門家のアドバイスを仰ぐことが現実的な方法となる。なるべく早めに相談することで税務対策の選択肢も広がるといえよう。