中国の清華大学中国科技政策研究中心は7月中旬、「中国人工智能発展報告2018」を発表した。中国AIの発展“面貌”をよく表ししているという。人材と市場、発展戦略と政策環境まで幅広く紹介し、社会の認知を目指している。「今日頭条」「新浪新聞」などの各ニュースサイトが紹介記事を載せている。これらを基に中国AI界の現状を探ってみよう。

論文数は世界一だが引用数は?

中国経済,AI,論文
(画像=PIXTA)

中国は2006年、AI分野での論文数で米国を追い抜いた。以来20年、世界一の座を保っている。この間のAI論文数は38万1000本に達し、2位米国の32万7000本を大きく上回っている。3位の英国は9万7000本だった。

中でも中国科学院(自然科学の最高学術機構)は、AI論文数では世界最多機構である。この20年に2万6000本を発表している。この他、清華大学とハルビン工業大学などが、全体のトップ20ランキング入りを果たしている。

また企業に絞ったトップ20ランキングでは、国家電網(中央国有企業、エネルギー供給)が、唯一14位に入った。20年間で841本の論文を発表している。

高水準の論文も多い。しかし論文引用数を見ると現状は満足すべき数字とはいえない。中国産AI論文の引用率は、2.01%に過ぎない。オーストラリアは2.66%である。中国とトップ10国家(AI論文数の)との国際共同論文になると53%へ上昇する。しかしオーストラリアとドイツの共同論文になると、80%の高率だ。100本のうち80本は、どこかに引用されている。

つまり中国産の論文の注目度は、あまり高くない。現状は質・量のうち“量”に偏っていると言わざるを得ない。

人材は世界2位

中国におけるAI人材の総数は、1万8232人である。これは世界第2位、米国の65%だ。しかし傑出した人材(基準不明)は977人、世界ランキングは6位に落ちる。傑出した人材の割合は5.4%にとどまっている。日本やイタリアでは、これが20%を超えている。

AI人材の供給源は、やはり大学が最も多い。中でも清華大学は822名を輩出し、世界一である。続いて上海交通大学の590名、北京航空航天大学の525名で、世界2位と4位である。しかし傑出した人材になると、清華大学でも世界15位にすぎない。

企業系のAI人材はやはり米国に集中している。中国企業ではファーウェイが唯一20位にランクインした。

世界のAI人材は、機械学習(Deep Learning)、ビッグデータ解析、識別技術に集中しているが、中国では分散している。

企業数は世界2位

2018年6月、中国本土のAI企業は1011社、世界ランク2位である。しかしこれは1位米国の半分に過ぎない。ただし北京には395社のAI企業が集中し、これは世界最多都市である。

応用技術の企業分布では、中国には、視覚、語音関係が多く、それぞれ34.9%、24.8%を占めている。さらに自然言語処理21.0%、ハード11%と続く。基礎的なハード関連企業は少ないは気がかりである。ただし、ロボット、ドローン、無人運転などの市場規模は広大だ。

さらにスマートスピーカー市場においても、2018年第一四半期には、アリババの「天猫精霊」シャオミ(小米)の「小愛」が、世界シェア3位と4位を占めた。ハードでも追い上げを見せている。

融資額は世界の70%

2017年中国のAI関連投融資総額は、277億1000万ドルにおよんだ。これは全世界の70%に当たる。件数は369件であり、1日1件の投融資案件をこなした計算だ。そして1件当たりの金額は7500万ドルで、これは世界平均の2倍である。

これらの追い風を受けて、2017年のAI市場規模は、237億元に達した。前年比67%のプラスだった。2018年には、さらに75%の伸びを予想している。

清華大学はAI界のトップランナーであり、当事者である分、そのレポートは非常に率直である。妙なアピールは感じさせない。それどころか強み、弱みを、しっかり業界と世間に認識させたいという意図も見える。

中国は、すでに米国に比肩しうるAI大国となった。そしてこの冷静な分析である。かつての大風呂敷が懐かしくさえ感じる。余裕の出てきたのは間違いないだろう。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)

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