日本経済の基軸である小規模企業のM&Aによる売買が活発化している。その背景には経営者の高齢化や少子化による後継者不足、働くスタイルの変化など、需要と供給が増え表面化してきたことが挙げられる。小規模企業売買の現状と今後の展望を見てみよう。

アンドビズ
(画像=PIXTA)

小規模企業の売買方法に変化の兆し

小規模企業とは、専属従業員数が20人以下の製造業・建設業・運有業、及び従業員数が5人以下の卸売業・サービス業・小売業を指す。中小企業庁の2017年度版白書によると、日本企業の99.7%は小規模企業と中小企業で占められており、日本経済のバックボーンとなっている。

これまでの小規模企業の売買スタイルは、取引先の地銀や会計士による橋渡しなど、内輪のコネクションを利用し締結されることが多く、情報が一般に出回ることも少なかった。

ところが近年、専門の仲介業者などを介してM&Aで小規模企業を売買する方法が、現代の日本経済が抱える諸問題の解決策として注目を集めている。

日本でよく知られるM&Aというと、大企業をメインとした数億~数十億単位の大掛かりなスケールのものが多かった。そこに新たなセグメントとして加わったのが小規模企業のM&Aだ。明確には定められていないが、年商1億円未満の小規模企業を対象として「スモールM&A」とも呼ばれ、売買代金が500万円未満の際にはさらに「マイクロM&A」と言われることもある。

小規模企業の売買が活発化している背景

小規模企業の売買が活発化してきた背景には、後継者問題や働き方の変化がある。

・社長の高齢化と後継者不足

帝国データバンクがおこなった『2017年社長分析』によると、日本の社長の高齢化は年々進んでおり、特に年商1億円未満の企業では70代率が高い。一方で後継者不足も顕著に表れ、年商1億円未満の小規模事業では78%、年商1億円~10億円の中小企業では68.6%が後継者不在だという。

経済産業省の試算によると、後継者不足での廃業に歯止めがかからない場合、2025年頃までに失われるGDPは約22兆円、そして約650万人の雇用が危機に瀕するとされている。

後継者探しを支援するため、各自治体に「事業引継ぎセンター」が設置された他、スモールM&Aのマッチングサービスを提供する民間の仲介業者も増えてきている。

・働き方の社会的変化

近年推進されている「働き方改革」では、労働力不足解消のため、労働生産性の向上や高齢者の就労促進などの対策が取られている。その流れでセカンドキャリアとして起業するケースや、兼業・起業が増えている。そこで注目を集めているのが、すでに立ち上がっている事業を引き継ぐ起業方法であり、後継者不在の小規模事業を買い取りたい起業希望者数が伸びている。

このように事業を残したいが後継者がいない小規模企業からの供給と、兼業や起業を考え事業を買い取りたい希望者の需要が増えていることから、かつて伝手やコネクションを中心に行われていた小規模企業の売買が、M&Aという形で表面化し活発化してきたのである。

情報の整備によるスモールM&Aの更なる後押し

今後増えていくことが予想される小規模企業の売買において、情報の整備は重要である。両サイドが売買情報を閲覧できるオープンデータソース、大多数にとって未知であるスモールM&Aに関するプロセスや費用のマニュアル的情報、明確な判断基準のない市場公正価格やデューデリジェンスを含む価値診断方法など、小規模企業や個人が安心してM&Aに踏み出せる十分な情報が公的に提供されることが必須である。

中小企業庁は2017年に「事業承継5か年計画」を立ち上げ、中小規模事業が次世代に引き継がれやすく、後継者がチャレンジしやすい環境を整備することを発表している。特に小規模企業の売買に関しては、市場育成のために民間企業と協力してデータベースを強化し、売り手と買い手のマッチング機会の向上を図る。

情報整備によって健全なスモールM&Aマーケットを形成し、事業の引継ぎを促進できる環境を整える必要があるだろう。