新規事業を立ち上げる際、自社で一から事業を立ち上げる方法のほかに、他社の事業を買ってくるという方法も考えられる。事業の売買はもはや大企業だけの専売特許ではない。中小企業や個人事業主であっても小規模な事業を買ってくることにより新規事業開発のスピードを高めることが可能だ。

事業を買うことのメリットとは何か。具体的な手法にはどのようなものがあるのか。今回は事業を買うことの魅力に迫ってみたい。

アンドビズ
(画像=PIXTA)

事業を買うことのメリットとは?

事業を買うことは、事業に含まれる商品や不動産などの有形資産はもちろん、技術、ノウハウ、取引先、顧客基盤、流通網など無形の資産も合わせて取得することを意味する。

新規事業を立ち上げるには、マーケティング、技術開発、従業員の教育などが多くのリソースを必要とする。そこで、経営資源がある程度そろった状態の事業を買うことによりコストや時間を大幅に削減することが可能となる。

また、手法によっては、自社に必要な事業だけを選択して取得できるというメリットが挙げられる。つまり、自社によって不要な事業は引き継がないという取捨選択ができる。会社を新設したり、清算したりすることなく、事業単位で売買することも可能だ。

新規事業は軌道に乗らず失敗に終わることも多い。つまり、一般には既存事業を存続させるよりリスクが高いといえる。しかし、すでに特定の分野で実績を上げている事業を購入すれば、新規事業参入のリスクを軽減できるというメリットがある。

事業を買う際に留意すべき点

事業を買う場合に気をつけなければならない点もある。まず、事業を譲り受けた場合でも、うまくシナジーを生み出せないことがある。事業は物的な資産だけでなく、人材やノウハウなども含むビジネスの総体である。組織風土の違いなどで事業統合がうまくいかないことも想定される。事業統合後に優秀な人材が流出して事業の運営がスムーズにいかなくなるケースもある。

また、後述するようなスキームの選択によって手続が煩雑になる場合もある。たとえば、事業譲受の場合、個別の資産や契約ごとに引き継ぎの手続が必要となる。従業員の雇用契約についても個別の同意を得なければならない。

事業を買う手法にはどのようなものがあるか

事業を買う手法にはいくつかの種類がある。主要なものとしては下記のような手法が考えられる。

・事業譲受
まず、事業譲渡の方法があげられる。これは買い手から見ると事業譲受と呼べるものである。事業譲渡契約にもとづき、会社が保有する特定の事業を譲り受けることである。事業譲渡は、法的には組織法上の行為ではなく取引行為であるといわれる。そのため、上述したように資産や契約につき個別の引き継ぎの手続が必要となってくる。

・吸収分割
次に、吸収分割という方法が考えられる。吸収分割とは会社分割の一種だ。会社分割には、新しく設立した会社に事業を移す新設分割と、すでに存在している会社に事業を移す吸収分割がある。吸収分割によれば、事業譲受と同じく、新たに会社を設立する必要がない。

吸収分割とは、会社を複数の法人格に分割し、その事業を他の会社に包括的に承継させることができる組織再編行為である。引き継ぐ会社は分割を行う会社または株主に株式を割り当てる。

吸収分割は、組織再編行為に該当するため、債権者保護手続こそ必要となるが、事業に関連する資産や負債を包括的に既存の会社へ承継することが可能となり、個々に資産や契約を引き継ぐ手続が必要とならない。

・株式交換
欲しい事業を保有している会社を子会社とすることで、実質的に事業を購入した場合と同等の効果が得られる株式交換という手法も考えられる。株式交換は、ある会社が対象会社を100%子会社にするための企業再編手法である。

具体的には、子会社となる会社の株主が保有している株式を親会社となる株式に交換する。株式交換によると、株式を買い取るための資金を持たなくとも、自社株式を対価に会社を購入することが可能となる。

以上のように、小規模な事業を買うためには様々な方法がある。どのようなスキームが適しているかについては専門家の意見も交えながら、新規事業開発の一手法として活用すると良いだろう。