8月上旬、華為(ファーウェイ)中国軟件(ソフトウェア)行業協会、信息(情報)技術工科産学研連盟の3者は共同で、初めてとなる「中国ITC人材生態白皮書」を発表した。(以下白書)
「白書」によれば、中国のICT人材は2017年の段階で765万人も不足している。「中国経済網」「今日頭条」などのメディアが、ICT業界の人材問題を取り上げた。中国のICT業界は、どこへ向かおうとしているのだろうか。詳しくみていこう。
第二四半期の人材需給は“大戦”に突入
その前にまず「2018第二四半期人材大数据報告」という別のレポートから、直近の全体状況を俯瞰してみたい。これは全国50都市4300万人の“エリート人材”の動向を分析したものである。それによると高レベル人材の労働市場は“搶人(人を奪い取る)大戦”となっている。業種間、都市間における大戦が勃発しているというのだ。
2018年第二四半期、最も厳しい状況にあったのは、インターネット業界だった。同業界の求人は、全体の27.1%を占めていたが、供給は17.1%にとどまっている。明らかに“品薄”だ。2位以下は、不動産業、金融業、機械製造業、消費品と続く。
ネット業界は、巨大な人材の吸引空間を持つ。また不断に変化し、新しい業態が勃興してくる。時代の変化を先取りする若者たちはよろこんで身を投じるだろう。
しかし、彼らが実際に最も多くの履歴書を送付したのは、3位の金融業界だった。これは年俸や勤務地の安定に依っている。ICT業界は、都市間競争も激烈だ。北京、上海、深セン、広州の一線級都市や、アリババ本拠地の杭州市を別にすれば、ICT人材の確保は、実際には非常に難しい。
ICT人材不足は年間大卒者数に近い765万人
「白書」にも似たような記述が見える。ICT業界の特徴として、人材需要が大きいこと、人材と職位のアンマッチが多いこと、の2つを挙げている。
1つめの人材不足は、765万人に及ぶ。2018年中国の大学卒業者数は820万人であり、ICT業界人材不足の深刻さを表している。
765万人のうち70%は、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、IoT、AIといった新興領域である。
2つめのアンマッチについては、さまざまな解決法を探ることが重要としている。能力を補完し合い、人的資源をシェアし合う。それらの機能を内包する、新時代の人材交流プラットフォームの構築が必要だ。それこそ今回の「白書」のテーマである。
ファーウェイの取組み
「白書」は、こうしたICT業界人材の“生態”を初めて可視化した。キーワードは、新動能(運動エネルギー)、新生態、新人材、の3つである。以下、それを踏まえたファーウェイの取組みをみていこう。
同社の企業ビジネスグループ(EBG)中国地区副総裁は、次のように述べている。「B2B市場においては、各業界との緊密な連携が欠かせない。顧客に対し、関連業界を包括した解決案を提示しなければならないからだ。これは投融資を募ったり、新商品設計や情報提供をしたりするときも全く同じである。また企業と大学の産学連携もイノベーションの必要な段階にきている。各企業がどのような人材を必要としているのか、総括プラットフォームに仕上げて、整理をしなければならない」
ファーウェイは、過去30年にわたり人材育成投資を続けてきた。そして2018年3月末には、世界のICT人材問題を解決するため「華為生態大学」を設立した。学長は先のEBG中国地区副総裁である。設立大会には、教育部(文部科学省に相当)の産学連携協同育成事業の専門家チーム長も参加した。
「生態大学」はこれまでのファーウェイICT学院を発展させたものだ。ICT学院は、提携を結んだ各教育機関にICT教育コースを提供していた。生態大学はその進化型である。新たに数学学院を創設し、応用技術学院、パートナー学院の3つを中心に、ICT人材の育成を強化する。学生の教育だけでなく、ICT人材の生涯教育も支援し、人材の流動性を確保する。新プラットフォームの第一歩だ。
官民がともに持つ危機感
中国軟件(ソフトウェア)行業協会の副理事長は次のように総括した。「我々の人材難は破局的な事態に立ち至っている。ICT人材の育成は新時代を迎え、養成モデル、供給モデル、発展モデルともに根本的に変化した。今後は大学、企業、職業訓練機構等におけるICT基礎教育を連携させ、共通プラットフォームとしなければならない。これこそ安定した人材供給の確保と、職位のアンマッチを防ぐ基本である」
中国の各地方政府は、新興企業の支援政策を競うように行っている。それに並行して、こうした業界基盤の強化を行っているのだ。中国のICT業界では、各企業が自前主義を取っていては、とても発展に追いつけない。したがってこのような共通認識は形成されやすい。
日本で言う、官民協力、産学連携とは、意味は異なるようだ。また、中国と比べると日本はあまりに危機感が薄いのではないだろうか。かつての機敏さを取り戻したいところである。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)