要旨

中国経済見通し,米中覇権争い
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  • 中国国家統計局が公表した18年4-6月期の国内総生産(GDP)は、第2次産業の減速を主因に1-3月期の同6.8%増を0.1ポイント下回り、経済成長率は実質で前年比6.7%増となった。また、消費者物価は前年比1.8%上昇と1-3月期の同2.1%上昇を0.3ポイント下回った(左下図)。なお、景気動向を敏感に反映するPMIは製造業・非製造業ともにも陰りを見せ始めている。

  • 個人消費は、調査失業率(31大都市)が14ヶ月ぶりに5%台へと上昇し、消費者信頼感指数がピークアウトするなど不安材料が浮上している。しかし、中間所得層の増加がサービス消費を拡大し、ネット販売化が新たな消費需要を喚起する流れは続いており、また住宅販売にも底打ちの兆しがでてきたことから、個人消費は底堅い伸びを維持できると見ている。

  • 投資は、インフラ投資の伸び鈍化を主因に減速傾向を強めている。今後も過剰設備・過剰債務の整理が足かせで、金融リスクの確実な防止・解消もマイナス要因となるが、「中国製造2025」や「インターネット+」に関連する領域では積極的な投資が期待できるのに加えて、中国政府がインフラ投資の下支えに動き始めたことから、低位ながらも底堅く推移すると見ている。

  • 輸出は、世界経済の持続的拡大や一帯一路沿線地域への影響力拡大を背景に好調を維持すると見られるものの、製造コスト上昇で後発新興国への製造拠点流出の動きがあるのに加えて、米中貿易摩擦の深刻化がそれを加速させる“トランプシフト”が起きる可能性もあるため、輸出の伸びは小幅に鈍化するだろう。一方、輸入は中国政府の輸入拡大方針などを背景に輸出以上に高い伸びを示すだろう。そして、経済成長率への純輸出のプラス寄与は減少すると見ている。

  • 18年の成長率は前年比6.5%増へ、19年は同6.3%増へと減速を予想している。18年上期の成長率は前年比6.8%増だったので18年下期は同6.3%前後に減速することになる。また、18年の消費者物価は前年比1.9%上昇、19年は同2.2%上昇と予想している(右下図)。なお、経済見通しのリスク要因としては落としどころの見えない米中貿易摩擦が挙げられる。

中国経済見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

中国経済の概況

中国国家統計局が7月16日に公表した18年4-6月期の国内総生産(GDP)は22兆178億元となり、経済成長率は実質で前年比6.7%増と1-3月期の同6.8%増を0.1ポイント下回った。また、消費者物価は前年比1.8%上昇と1-3月期の同2.1%上昇を0.3ポイント下回った(図表-1)。GDPを産業別に見ると、第1次産業は同3.2%増と前四半期(同3.2%増)と同じ伸び率となり、第3次産業は同7.8%増と前四半期(同7.5%増)を上回ったものの、第2次産業が同6.0%増と前四半期(同6.3%増)を下回ったことから、全体ではやや減速することとなった(図表-2)。

中国経済見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

他方、製造業PMIを見ると、5月の51.9%を直近ピークに6月は51.5%、7月は51.2%と2ヵ月連続で低下した。同予想指数も5月の58.7%を直近ピークに6月は57.9%、7月は56.6%と低下してきており、製造業には陰りが見られる。非製造業PMI(商務活動指数)も7月は54.0%と6月の55.0%を1.0ポイント下回り、同予想指数も4月の61.5%を直近ピークに3ヵ月連続で低下して7月は60.2%となっており、非製造業の絶好調にも陰りが見え始めている(図表-3)。

一方、痛みを伴う経済構造の改革は静かに進んでいる。18年1-7月期の工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)を見ると、過剰設備・過剰債務問題を抱える産業では、鉱業(石炭など)が前年比1.6%増、鉄精錬加工も同5.2%増と全体の伸び(同6.6%増)を下回った。一方、新たな牽引役として期待される産業では、コンピュータ・通信・その他電子設備が同12.6%増、電気機械・器材も同7.3%増と全体の伸びを上回り、経済成長の下支え役を果たしている(図表-4)。

中国経済見通し
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消費の動向

消費の伸びはやや減速した。消費の代表指標である小売売上高を見ると、18年1-7月期は前年比9.3%増と17年通期の同10.2%増を0.9ポイント下回った。内訳を見ると、住宅バブル抑制策による住宅販売低迷を背景に家具類が同10.3%増、家電類が同9.0%増と17年通期の伸び率を下回った。また、自動車も15年夏の株価急落時に導入された小型車(排気量1.6L以下)減税が撤廃された影響で同2.0%増と低い伸びに留まった。一方、電子商取引(EC)はBAT(百度、阿里巴巴、騰訊)を代表とするプラットフォーム企業が新たな消費需要を生み出す流れが続き同29.3%増と極めて高い伸びを維持、小売売上高に占めるシェアは2割前後に達した(図表-5)。

中国経済見通し
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今後の消費動向を考えると、調査失業率(31大都市)が14ヶ月ぶりに5%台へと上昇し、消費者信頼感指数がピークアウトするなど不安材料が浮上している(図表-6)。しかし、中間所得層の増加がサービス消費を拡大し、ネット販売化が新たな消費需要を喚起する流れは健在であり、住宅バブル抑制策で低迷していた分譲住宅販売面積が7月に前年比11.0%増と18年1-6月期の同3.2%増を上回るなど底打ちの兆しもある。また、乗用車保有状況を見ると、都市部でも100戸当たり35.5台とまだ普及の途上にあるため、小型車減税撤廃の悪影響は早期に薄れると見ている。従って、消費には先行き不安が残るものの、底堅い伸びを維持すると予想している(図表-7)。

中国経済見通し
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投資の動向

投資の伸びは減速した。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、18年1-7月期は前年比5.5%増と17年通期の同7.2%増を1.7ポイント下回った。内訳を見ると、交通運輸倉庫等や水利環境等といったインフラ関連の伸びが低位に留まったのに加えて、過剰設備・過剰債務を抱える構造不況業種では採掘業が前年比3.7%増と低位に留まり、投資減速の主因となった。一方、構造不況業種でも鉄精錬加工が前年比10.0%増と高い伸びを示したのに加えて、「中国製造2025」や「インターネット+」に関連する新興産業ではコンピュータ・通信機器等(製造業)が同17.0%増と引き続き高い伸びを示したほか、消費サービス関連でも文化・体育・娯楽が同17.6%増と高い伸びを維持して投資を下支えした(図表-8)。

中国経済見通し
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今後の投資動向を考えると、低位ながらも底堅い伸びを維持すると予想している。構造不況業種では引き続き過剰設備・過剰債務の整理が進むため投資の伸びは低位に留まる可能性が高い。一方、「中国製造2025」や「インターネット+」に関連する領域では、中国政府による手厚い政策支援を背景に積極的な投資が続くと見られる。また、18年1-7月期にはインフラ投資がマクロプルーデンス政策による「金融リスクの確実な防止・解消」に伴って落ち込んだが、中国政府は7月に「財政政策をさらに積極化させる」として研究開発費に対する減税を拡大、8月には地方政府にレベニュー債の前倒し発行を指示しており、インフラ投資の底打ちは近いと見られる。

なお、米中貿易摩擦に伴う先行き不透明感から民間投資が落ち込めば、官民連携(PPP)プロジェクトを推進し失速を回避するだろう。中国では、大気汚染対策、水質汚染対策、土壌汚染対策、ごみ処理能力増強など環境関連や、中国共産党・政府が2014年3月に発表した「新型都市化計画(2014~2020年)(1)」に伴う交通物流関連の需要が大きく、17.8兆元(約300兆円)とされるPPPの前倒しが可能だ(図表-9)。

中国経済見通し
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(1)新型都市化が生み出す投資需要は巨大で2020年までの累計で42兆元に達すると試算されている(中国財政部)。スケジュールとしては2017年までが試行地域における先行実施期間となり、その成果を踏まえて2018-20年には全国展開される予定。なおこれに関連して、2016年5月11日には投資総額4.7兆元に及ぶ交通インフラ整備3ヵ年計画(2016-18年)が発表された。

輸出の動向

輸出は堅調に推移している。18年1-7月期の輸出額(ドルベース)は前年比12.6%増と、17年通期の同7.9%増から伸びが加速した。世界経済の拡大が続く中で、欧米先進国向け輸出が高い伸びを示したほか、一帯一路沿線地域など新興国向けも好調だった。その他製品(衣類、バッグ類、履物類など)は低い伸びに留まったが、化学品や機械・輸送機器が高い伸びを示した。一方、輸入額(ドルベース)も前年比21.0%増と17年通期の同16.0%増から伸びが加速した。地域別ではASEAN、韓国、台湾などアジアからの輸入が高い伸びを示し、品目別では鉱物性燃料と機械・輸送機器が高い伸びを示した。その結果、貿易黒字(モノ)は1661億ドルと前年比25.5%減となった(図表-10)。

中国経済見通し
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今後の輸出入動向を考えると、世界経済の持続的拡大や一帯一路沿線地域への影響力拡大を背景に輸出は好調を維持すると見られるものの、中国国内の製造コスト上昇で製造拠点を後発新興国へ移す動きがあるのに加えて、米中貿易摩擦の深刻化がそれを加速させる“トランプシフト”が起きる可能性もあることから、輸出の伸びは小幅に鈍化するだろう。一方、輸入に関しては、習近平国家主席が18年4月の博鰲(ボアオ)アジアフォーラムで「輸入を主体的に拡大」する方針を示し、7月には輸入促進のため関税を引き下げたのに加えて、11月には第1回国際輸入博覧会が上海(青浦区)で開催されて、欧米先進国や一帯一路沿線地域から延べ15万人超のバイヤーが集まる見込みでもあることから、輸入は輸出以上に高い伸びを示すだろう。そして、経済成長率への純輸出のプラス寄与は減少すると見ている(図表-11)。

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中国経済の見通し

1|経済見通し

18年の成長率は前年比6.5%増へ、19年は同6.3%増へと減速すると見ている。18年上期の成長率は前年比6.8%増だったので18年下期は同6.3%前後に減速することになる。個人消費は消費者信頼感指数がピークアウトするなど不安材料が浮上してきたものの、中間所得層の増加がサービス消費を拡大し、ネット販売化が新たな消費需要を喚起する流れは続いており、また住宅販売にも底打ちの兆しがでてきたことから、個人消費は底堅い伸びを維持すると見ている。投資は過剰設備・過剰債務の整理が足かせで、金融リスクの確実な防止・解消もマイナス要因となるが、「中国製造2025」や「インターネット+」に関連する領域では積極的な投資が期待できるのに加えて、中国政府がインフラ投資の下支えに動き始めたことから、低位ながらも底堅く推移すると見ている。但し、輸出は世界経済の持続的拡大などを背景に好調を維持するものの、中国政府の輸入拡大方針を背景に輸入はそれ以上に高い伸びを示すことなどから純輸出のプラス寄与は減少すると見ている。なお、18年の消費者物価は前年比1.9%上昇、19年は同2.2%上昇と予想している(図表-12)。

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2|落としどころの見えない米中貿易摩擦が最大のリスク要因

中国経済を見通す上では、落としどころの見えない米中貿易摩擦が最大のリスク要因と考えている。米国は引き続き対中制裁関税を発動する見通しである。トランプ米政権の対中制裁関税は4段階構成となっており、7月6日には第1弾を発動し340億米ドル分の輸入品に25%の追加関税を課し、8月23日には第2弾を発動し160億米ドル分の輸入品に25%の追加関税を課した。そして、9月以降には既に品目リストを公表済みの第3弾の輸入品(2000億米ドル分)に対して追加関税を課し、合計すると2500億米ドルに達する見通しだ。そして、トランプ米大統領は対中輸入(約5000億米ドル)の残り(約2500億米ドル)に対しても追加関税を課す可能性を示唆している(第4弾)。第3弾まで合計2500億米ドルの追加関税に関しては、成長率を0.1~0.3%押し下げる程度に留まり、中国経済への影響は小幅に留まるだろう。第3弾(2000億米ドル)の品目リストを見ても、スマホやパソコン、それに多くの衣類など中国経済の「急所」となる品目が外されたからだ。しかし、米国が第4弾の発動に踏み込むと米中経済への影響は格段に大きくなるだろう。中国を製造拠点としてきた米中企業などが、中国以外へ製造拠点を移す「トランプシフト」が起きて、中国では国内投資が失速する恐れがでてくる一方、中国を製造拠点としていた米国企業(スマホやパソコン等)も中国並みの生産効率で製造できる移転先を直ぐには開拓できないだろう。さらに、中国が対抗措置として航空機に対する追加関税や米国製品の不買運動などに踏み込めば、米国経済への打撃は大きくなる。今後しばらくは米中両政府の動きとそれ対処する民間企業の動向に細心の注意が必要だ。

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三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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