累計部数100万部突破の大人気金融漫画『インベスターZ』。2018年7月からはテレビ東京 ドラマ25「インベスターZ」としてドラマ化されている。そんな『インベスターZ』の生みの親、三田紀房氏は、どのように時間をコントロールし、ヒット作を生み続けているのだろうか。今後の目標と合わせて聞いた。(聞き手:ZUU online編集部 菅野陽平)※インタビューは8月7日に実施

三田紀房,インベスターZ,漫画
(画像=髙橋明宏)

——『インベスターZ』が生まれた背景は何だったのでしょうか。

直接のきっかけは「学費がゼロ」「無料の学校」ってどうやったらできるのかな、という発想から始まりました。創設者がお金を出して、それを運用して、その利回りで学校経営すればいいんじゃないかと。さらに、金融の専門家や大人の先生が運用するよりも、学校の生徒、子どもたちが運用したら面白いんじゃないかということから『インベスターZ』が生まれました。

実は、とある高校野球の強豪校へ取材に行ったら「野球の話よりも学校の経営が厳しい」「生徒を集めるのが大変だ」という話をたくさん聞いて、帰りの新幹線で学校経営を安定させるにはどうしたらいいのだろうとぼんやり考えていました。投資そのものを描くというよりは、私立学校をどうやって経営するかという話をスタート地点として生まれた作品なんですよね。

だいたい投資の話を描くとなると、非常に生臭い話から始まるんですよね。人生一発逆転を賭けてマネーゲームに参加して、そこで勝ち上がっていくみたいな。でも「儲けること」を目的化すると、それに対して読者の感情が動かないんですよね。投資とか株のマンガで成功例が少ないのは、そこに原因があるんじゃないかなと思うんです。

——今回『インベスターZ』がテレビ東京にてドラマ化したことに対しては、どのように感じていますか?

この世界において、ドラマ化って構想されては消え、検討されては消え、という風になかなか実現までいかないのが通例なんですけど、今回テレ東さんが非常に粘り強く実現に向けて努力して下さいました。まずはそこに感謝と敬意を申し上げたいですね。

内容に関しては、素材をお渡しした以上、こちらから要求したことはほとんどないです。あとはテレ東さんが素材を使って、ともかく面白く楽しく作っていただければ、それで十分ということなんです。ナベさんが女性として登場しますと聞いたときも「ありがとうございます!」という感じでしたね(笑)

──三田先生は既に最終回までご覧になっているのですか?

いや、見てないです。皆さんと同じくリアルタイムで見てますね(笑)

── 道塾が男子校なのは何か理由があったのでしょうか?

あれはですね、要するに伝統校というか、創立者が明治時代の人で、だいたい130年くらい続いている学校という設定なので、歴史に合わせるとだいたい男子校っていう形は必然かなと。

── 東京では、美雪ちゃんたちが通う女子校が登場しますね。

いわゆる女子御三家をイメージした部分はあります。道塾が非常に優秀という設定ですから、対比として、やっぱり女子の学校も非常に優秀じゃないと釣り合いが取れないと思いました。

── ドラマに関しては、実業界から非常に豪華な方々がご出演されています。

驚きましたよ。よくまあ、こういう思い切ったことをやるなと思って。でも出演して下さった経営者の方も非常に懐が深いというか。面白がってもらっている感じがすごくあって、みんな楽しそうでいいですよね。

実際にトークショーのシーンを見学させてもらったことがあるんですけど、見学だと思っていたら、なぜかエキストラ出演するという展開になってしまいまして…第5話にほんの数秒間映るはずですので探してみて下さい(笑)
※編集部注:第5話は2018年8月10日に放送されました

──いま注目されている企業家、もしくは続編があった際にご出演頂きたい経営者の方はいらっしゃるいますか?

そうですね。今はベンチャーの方が多いんですけど、老舗の大企業の社長とかに出演して頂けると、また違った魅力が生まれると思います。あとはジャパネット創業者の髙田さんとかですかね。若者たちからも非常に親しみがあると思いますので。

三田紀房,インベスターZ,漫画
(画像=髙橋明宏)

意識しているのは「時間の生み出し方」 アップルのように制作をアウトソースする

── 「ZUU online」は金融資本、人的資本、時間資本を有効活用しながら、個人のB/SとP/Lを充実させ、夢へ全力でチャレンジできるようになると考えています。『インベスターZ』では金融資本が中心でしたが、三田先生は「時間」については、どのようなお考えをお持ちですか?

やっぱり時間のコントロールというのは、一番重要だと思うんですよね。特に我々は、締切というものが毎週ありますので、それにきちっと合わせて、原稿というアウトプットをクオリティ高く完成させるか。時間のコントロールというのが、マンガの制作と完全に一体化しています。

意識しているのは「時間の生み出し方」です。『インベスターZ』では、背景をデジタルで制作している会社にアウトソーシングしました。そうすることによって、自分の時間を空けて、よりコアな仕事に時間を集中投下できるようになります。

現在連載している『ドラゴン桜2』は、さらに時間のコントロールを進めて、背景だけではなく人物を描く作業も同じ会社に委託しています。要するに人物と背景の一貫制作ですよね。こうなると、作家が自分の仕事場でアシスタントを雇って作っていたマンガの制作方法が根底から変わります。

いわゆる労働集約的に作っていたものが、外部に生産システムができることによって、それを全部任せることができる。わかりやすく言うと、先日、時価総額1兆ドルを突破したアップルみたいな感じですよね。設計だけやって、生産は台湾の鴻海(ホンハイ)に頼む、みたいな。

僕が知る限り、このような制作体制は史上初だと思いますが、最初のモデルケースを我々が作ろうということでチャレンジしてみたわけです。このやり方が確立してポピュラーになってくると、マンガを作るメディアの可能性というものが、ものすごい広がるんじゃないかと考えています。

──作家さんは、よりクリエイティブ、よりコアな部分にリソースを投下できそうですね。

今まで全部自分で作っていたものを、設計だけやって、生産はアウトソーシングということになると、たとえば設計部門をもっとスケールアップすることも可能なわけですよね。生産をさらに2倍、3倍にするということが物理的には可能になると思います。

「物理的に可能」ってことが僕は大事だと思っていて、アイディアとか理想はあっても、現実の物理的構成要件が揃わないと、理想とか夢は具体化しないじゃないですか。理想とかロマンを追い求める人が多いんだけど僕は逆ですね。まず、きっちり稼動できる工場を作ることが大事。稼働率が100パーセントの状態になったところでアイディアを考えていかないと。アイディアばっかり考えても、生産現場がないと絶対に具体化しないので。

三田紀房,インベスターZ,漫画
(画像=髙橋明宏)

── 「人的資本」についてはいかがでしょうか?

人脈もひとつの人脈資本とすれば、どういうネットワークを持っているか、またどういうふうに広げていくのかってことだと思うんですよね。誰しも日々の生活のなかで、誰かと会うわけじゃないですか。そこでネットワークをどうやって作っていくか、自分を支えてくれる人たちをどうやって作っていくか。

こればっかりは、運みたいなもんなんですよね。だから自分が日々生活しているなかで、会った人とその場の出会いを大事にしていくということ以外ないんじゃないかなと思います。自分が努力をしていれば、ご褒美じゃないですけど、おのずと誰かと出会っていくものだと思うので。

例えば、もう10年以上お付き合いさせて頂いている男性編集長がいます。出会いは1枚のFAXでした。ある日突然、家のFAXに「〜編集部です。2006年ワールドカップドイツ大会に行きませんか?」と書いてあるんです。なんかの冗談だと思うわけですよ。縁もゆかりもない編集部から、いきなり海外旅行のお誘いですよ(笑)

しかも僕、サッカーのルールも全然分からないんですよ。1回も生で観たことなかったですし。なんで僕なのかと思いながら一度お会いしてみると「観戦記をちょっと書いてくれればいいから」と言うので、1週間くらいドイツ男二人旅に行ってきました(笑)

そこからすっかり親しくなって、今度はWBCを観に行かないかと。それからWBCは毎回その方と生観戦しています。出版界でも、プライベートで2人旅行する人ってその方ぐらいなんですよね。

何を言いたいかというと、自分にとって、そのとき価値があるかないかなんてどうでもよくて、とりあえず、まず乗っかることが大事だと僕は思っています。まず話を聞くなり、会うなり、とりあえず繋がりを持つということが大事なんじゃないかなと。お付き合いが続くかどうかは、そのとき考えるものではなくて、まず会うことが大事と思っているんですよね。

三田紀房,インベスターZ,漫画
(画像=髙橋明宏)

我々の目標ははっきりしてるんですよ。ずばり「ヒットさせること」です

──今後は作品を通じてどういったことを伝えていきたいと考えていますか?

こういったものを伝えたい!というのはないんですよね。どっちかというと、僕は、あんまり先のことは考えないタイプなので、せいぜい2週先、3週先くらいまで考えて、そこでまた次のインスピレーションなり感じたものを、その都度描いていったほう面白いだろうというスタイルです。

ただ、我々の目標ははっきりしてるんですよ。ずばり「ヒットさせること」ですよね。ヒットしなければ我々の作品は価値がないと言えるくらい、そこははっきりしてるんですよね。やっぱり僕の作品に関わる人を、より多く増やしたいという想いがあるので。そのネットワークが大きくなると利益が生まれます。

その利益をみんなで分けられれば、すごくハッピーな状態だと思うので、その状況を作りたいです。作品の構想を考えるとき、何よりも優先するのは「どうやって当てるか」ということ。それに費やすエネルギー配分は全体の9割くらいです。

── 最後にZUU online読者へメッセージをお願い致します。

ZUU online読者のボリュームゾーンは30〜40代と聞いています。今の30~40代の人って、おそらく情報量がすごくたくさんあって、欲しい情報はほぼ瞬時に手に入る状態になっていますよね。だからこそ、情報と自分の実体験がセットになっている人が、その先の人生をすごく豊かにできると思うんですよね。情報はたくさんあるから、実体験の部分を増やしたほうがいいと思います。

情報って、とらえ方によっては経験すらもしたような錯覚を起こさせる作用があるんです。しかし、しょせん情報って人が作ったものなので、それが自分の深いところに入って財産になるかというと、意外とならないと僕は思うんですよね。

だから、情報で全てが解決したとは決して思わずに、経験を積むということを怠らないようにしたいと思っています。ニューヨークの情報をたくさん集めて、ニューヨークってこういう街だなって理解したつもりかもしれないけど、やっぱり行ってみないと分からないと思うんですね。やっぱり行って空気に触れる、音を聞く、ものを食べる、人と触れ合う。そこがないと、本当にニューヨークを理解したことにならないんですよね。

三田紀房,インベスターZ,漫画
(画像=髙橋明宏)

それにはお金も時間もかかるんだけど、そっちを選択するかしないかで10年後、20年後が相当違うと思うんですよね。損して得取れじゃないですけど、その手間を惜しまないでもらいたいなと。分からないんですよね、若いときってどうしても。僕自身もそうでしたし。でもね、年をとってみると分かるんですよ。ああ、やっといてよかったな、行っといてよかったなと。

やっぱり昨今のライフスタイルからすると40〜50代から急激にお金がかかると思います。ある程度の年収を得ないと、本当に苦労をするので、その年代はお金を持ってないとだめなんです。健康問題を除くと、だいたい不幸の95パーセントくらいはお金の苦労なんですよ。

お金があるかないかで、その後の人生がまったく変わるから40〜50代にどうやって高い年収を得る準備をできるか。20〜30代の経験を惜しむ人と惜しまなかった人の差が、人生後半に現れ始めると思います。

インベスターZ
三田紀房(みた・のりふさ)
1958年生まれ、岩手県北上市出身。明治大学政治経済学部卒業。代表作に『ドラゴン桜』『インベスターZ』『エンゼルバンク』『クロカン』『砂の栄冠』など。『ドラゴン桜』で2005年第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。現在、「ヤングマガジン」にて『アルキメデスの大戦』を連載中。