中国でもっとも政財界に精鋭を送り出した大学はどこだろうか。またはどの大学が優秀な学生たちに選ばれているのだろうか。艾瑞深中国校友会網という機関が「エリートランキング」や「“財富創造力”ランキング」など、さまざまな角度からの大学ランキングを発表した。その中から面白いデータを紹介していこう。(1元=16.03日本円)
エリートランキングは世評通り
まずエリートランキングから見ていこう。共産党中央委員などの政府要人や市長、中国科学院及び中国工程院院士(科学アカデミー会員に相当)人文社会科学家、資産1億元以上の富豪数をカウントしたものである。
(大学名合計人数/政府要人数/市長数/院士数/科学家数/富豪数)
10位 南開大学 213 /24 /28 /16 /121 /24
9位 北京師範大学 223 /28 /13 /10 /163 /9
8位 武漢大学 282 /16 /34 /35 /164 /33
7位 吉林大学 284 /58 /32 /48 /128 /18
6位 浙江大学 286 /27 /15 /62 /78 /104
5位 南京大学 292 /17 /21 /75 /147 /32
4位 復旦大学 383 /29 /24 /95 /163 /72
3位 中国人民大学 501 /82 /45 /1 /322 /51
2位 清華大学 533 /86 /67 /155 /67 /158
1位 北京大学 835 /83 /68 /170 /354 /160
世評の通り、北京大学と清華大学が人材を輩出していた。両校は億万長者の数も突出している。
“財富創造力”ランキング10~2位
ところが、“財富創造力”ランキングになるとかなり異なる。これはフォーブスの富豪ランキング入りしている卒業生の資産総額を計算したものだ。
(富豪数/資産総額/偏差値ランキング)
10位 ハルビン工業大学 3人 1468億元(約2兆3500億円) 18位
1920年設立、工業和信息部直属。理工系の名門。有名OBは、深セン海王集団(医薬品)董事長、張思民。
9位 清華大学 17人 1784億元(2兆8600億円) 2位
1911年設立、教育部直属。理科系に強い総合大学。OBは習近平、胡錦涛という2人の国家主席を始め、朱鎔基元首相や周小川前人民銀行総裁など、最高指導部では圧倒的な存在感を持つ。文芸界でも有名OB多い。その半面、経済界では突出したOBは不在である。
8位 復旦大学 11人 1892億元(約3兆300億円) 4位
1905年設立、教育部直属。上海を代表する総合大学。人文系の著名OB多い。経済界では、携程(C-Trip)創業者、梁建章。
7位 遼寧大学 1人 1898億元(約3兆400億円) 104位
1948年設立、遼寧省主管。瀋陽市の公立総合大学。遼寧省の官界に人材を供給。有名OBは万達集団(ワンダ・グループ)董事長、王健林。1898億元は彼1人の資産。
6位 武漢科技大学 1人 1917億元(約3兆700億円) 149位
1898年設立。清朝時代の湖北工芸学堂から発展。湖北省主管。有名OBは恒大集団(エバーグランデ・グループ)董事局主席、許家印。1917億元は彼1人の資産。
5位 武漢大学 6人 1955億元(約3兆1300億円) 7位
1893年設立。清朝時代の自強学堂から発展。教育部直属。総合“研究型”大学。有名OBは小米(シャオミ)創業者、董事局主席、CEOの雷軍。
4位 華南理工大学 7人 2145億元(約3兆4400億円) 26位
1934年設立、教育部直属。広州市の理系総合大学。華南地区の理系大学を合併して発展した。有名OBは家電のTCL集団創業者、董事長、CEOの李東生。
3位 杭州師範大学 1人 2468億元(約3兆9600億円) 172位
1908年設立。清朝時代の師範学堂から発展した。浙江省主管の教育大学。有名OBは、アリババ創業者、董事局主席の馬雲(ジャック・マー)2468億元は、彼1人の資産。
2位 北京大学 18人 3031億元(約4兆8600億円) 1位
1898年設立。清朝時代の京師大学堂から発展した、近代中国最初の国立大学。教育部直轄。創立以来最高学府の地位を保つ。有名OBは、李国強首相、百度(バイドゥ)創業者、CEO 李彦宏。
1位は新興の深セン大学
財富創造力1位の座に輝いたのは、少し毛色の違う「深セン大学」だった。
1位 深セン大学 8人 5935億元(約9兆5100億円) 73位
1983年設立。広東省主管。2位以下は、遼寧大学を除けば、いずれも中華人民共和国成立以前からの老舗である。これに対し深セン大学は、深セン市が1979年の経済特区に指定されて以降の設立だ。人口3万人の鄙びた漁村が、常住人口1250万の巨大都市に変貌する奇跡のプロセスとともに成長してきた、深セン市唯一の総合大学である。
当初は、北京大学、清華大学、中国人民大学から援助を受けてスタートした。他大学との違いは、国家重点実験室や国家重点学科など、国家の影が極めて薄いことである。有名OBの欄には、テンセント創業者、董事会主席の馬化騰を始め、同社の創業を担った4人の名がある。
馬化騰らが卒業したのは1993年で、まだ設立から10年も経ていない。そのころ筆者は、貿易の仕事で広州発、香港行きの特急列車に乗る機会があった。街の灯が現れ、もう香港へ着いたのか、やけに早いなと思ったら、そこは深センだった。改革開放からわずか10年で、香港と見紛う街が出現していた。当時、間違いなく世界最速で発展していた街だ。テンセントの若き創業者たちは、その熱気を象徴する存在となったのである。
こうしてみると、富豪になるためには無理に偏差値の高い、北京大学や清華大学を目指す必要はなさそうだ。深セン大学の他には、華南理工大学、ハルビン工業大学あたりがよさそうである。偏差値以外の長所についてじっくり考慮したい。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)