起業したばかりの30代の経営する企業が、実は創業100年だった。近年、長い伝統を持つ老舗企業が後継者不足のために廃業するというケースが後を絶たない。その一方で、第三者が老舗企業を受け継ぎ、立派に伝統を守ったり、若い感覚で新たな革新を起こしたりするケースも見られる。

同じ法人といえど、立ち上げたばかりの新米企業と老舗企業とでは、その形態や取り扱いが大きく異なる。それでは老舗企業を受け継ぐことにはどのようなメリットがあるのか。また、気をつけるべき点は何か。本稿では老舗企業の買収について紹介したい。

man
(写真=PIXTA)

老舗企業を受け継ぐメリットとは

起業を志した場合、一から自分でビジネスを立ち上げる方が自由度は高いといえる。それでもなお、老舗企業を引き継ぐことには他には変えられないメリットもある。

・信用とブランドを引き継ぐことができる
老舗企業にはその社歴に裏打ちされた信用とブランドがある。これは起業したばかりの経営者が一朝一夕で築けるものではない。こうした信用とブランドを引き継ぐことができるのは大きなメリットといえるだろう。経営にとって有用な目に見えない資産をのれんと呼ぶが、信用とブランドはのれんを構成する重要な要素でもある。

・取引先などのネットワークを活用できる
すでに常連となっている顧客や得意先があれば、新規開拓の場合と比べてマーケティングコストを大幅に下げられる。一般的に事業の立ち上げ時、黒字化に至るまで相当の期間を見込んでおく必要があるが、老舗企業を引き継ぐことで安定経営をそのまま継続できる可能性が高い。

また、品質の高い製品や商品を提供するためには信頼できる仕入先や資材調達先が必要となる。得意先だけでなく、こうした仕入や調達にかかる取引先の関係を活用できることも大きなメリットといえる。

・従業員や組織体制がすでに整っている
起業して売上が順調に上がってきた場合でも、経営者自身が実働に回っている限りは業績も早い段階で頭打ちになる。1人ビジネスから脱却できるかどうかが最初の壁ともいえるが、事業を受け継いだ場合には従業員や組織体制がすでに出来上がっているというメリットがある。能力のある人材を自分で採用して育成してゆくことを考えると、特に熟練したベテラン社員は何物にも代えがたい価値があるといえるだろう。

企業を受け継ぐ際には気をつける点は?

上述のとおり、老舗企業を受け継ぐメリットは十分にあるのだが、当然ながら、気を付けておかなければならない点も存在する。

・事業内容に将来性があるか
特に後継者難となっている老舗企業では、そもそも事業自体に将来性がない場合もある。将来も継続的に需要のある分野かどうか、あるいは自身が経営者となったときに新風を吹き込んで事業を再興できる目算があるのかといった見極めは重要といえる。

・取引先や従業員との関係性
事業を承継した場合、買収した経営者が新参者であることを理由に、既存の取引先が相手にしてくれないというリスクもある。また、社外との関係だけでなく、自分より経験豊富な古参の従業員と意見や仕事のスタイルで相違が生じる可能性もある。先代経営者から十分に引継ぎを受けるとともに、取引先や従業員との良好な関係を築けるよう配慮することが大切になる。

・隠れ負債などがないか
決算書には載っていない簿外負債などに注意する必要もある。事業を引き継いでから、先代経営者との間では曖昧に済まされてきた取引先との債権債務が顕在化したり、社長交代を機に従業員が退職することにより退職金や未払債務が発生したりおそれこともあり得る。

老舗を受け継ぎたい人はどこに相談すればよい?

以上のように、老舗企業を引き継ぐ際には留意点も存在するが、自分でビジネスを立ち上げるよりもリスクを抑えながら起業できるのは大きな魅力といえるだろう。

後継者を探している老舗企業については、自治体がホームページなどで後継者募集の情報を開示していることもある。また、各都道府県に設置された事業引継ぎセンターに相談すれば、老舗企業に限らず、広く企業売却案件の情報に接することができる。もちろん、民間のM&A仲介会社などを活用するのも有効な方法といえる。