要旨

●政府は外国人労働者の新在留資格を創設し、外国人労働者の積極的な受入へ舵を切る方針だ。近年増加している外国人労働者の在留資格は、技能実習、留学と、いずれも「就労目的でない」ものだ。新しい在留資格は就労目的を正式に認めるものになると考えられ、大きな政策転換といえる。対象業種は農業、介護、建設、宿泊、造船と報じられている。ここには、最も外国人労働者の多い製造業が入っていない(造船のみ入っている)。今後の議論で製造業が対象となるかが、キーポイントになるだろう。

●今回の新資格で、実質的に技能実習生の就労長期化が可能になる。都市部で増加している外国人労働者は留学生が中心だが、地方では技能実習生が中心だ。今回の新在留資格創設は、特に地方の企業に恩恵をもたらしそうだ。

●ただ、外国人労働者はいつまでも「呼べば来てくれる」存在でいてくれるわけではない。外国人労働者が日本に来る誘因となっている賃金差は、新興国の経済成長によって縮小していくためだ。企業は外国人労働者の受入を既存ビジネスモデルの延命策とせずに、生産性改善、低い賃金を前提としたビジネスモデルからの脱却を進めていくことが肝要だ。

外国人労働者の受入に向けた政策の転換

 今年の骨太方針の原案には、「新しい外国人材の受入」として新しい在留資格を設け、外国人材の受入を進める旨が明記された。骨太内に記載されている内容と報道情報をもとに、新しい在留資格案の概要を資料1にまとめている。人手不足度合いの強い農業・介護・建設・宿泊・造船の5業種に限定、期間は5年、高い専門性が認められれば別の在留資格への移行も可能とする方針のようだ(受入制度の詳細は今後議論されていくことになり、最終的な制度設計は変わる可能性がある)。

外国人労働者の積極受入へ舵
(画像=第一生命経済研究所)

 今回の方針は、外国人労働者の拡大に向けた大きな政策転換といえるだろう。近年、増加の続いていた外国人労働者は主に留学生や技能実習生である。この両者はいずれも、厳密には日本での「就労目的」での在留資格ではない。しかし、今回の新しい在留資格は明確に就労目的での滞在を認めることになる。

 一方で、現段階では、受入を認めるのは人手不足の著しい5業種に限定される方針のようだ。ここには、最も外国人労働者の多い製造業が入っていない(造船のみ入っている)。今後の議論で対象となる製造業の範囲が広がるかどうかが注目点になるだろう。

外国人労働者の積極受入へ舵
(画像=第一生命経済研究所)
外国人労働者の積極受入へ舵
(画像=第一生命経済研究所)
外国人労働者の積極受入へ舵
(画像=第一生命経済研究所)

特に地方の企業に恩恵

 新しい在留資格の要件のひとつに、技能実習制度の修了がある。新資格によって、これまで最長5年の期間が定められていた技能実習生がより長く国内で働くことが可能になる。この点は、特に地方の企業の人手不足の緩和につながりそうだ。資料5では、都道府県別・在留資格別に外国人労働者数の就業者数全体に占める割合をみている。これをみていくと、東京をはじめとした都市部では特に留学生の外国人労働者が多い一方、地方部で主軸となっているのは技能実習生であることがわかる。実質的な技能実習生の就労期間の延長によって、よりメリットを受けるのは地方の企業であろう。

外国人労働者の積極受入へ舵
(画像=第一生命経済研究所)

「呼べば来てくれる」状況は永遠ではない

 外国人労働者の受入拡大が図られる形となるが、筆者が指摘したいのは長期的に見れば外国人労働者が「呼べば来てくれる」状況がいつまでも続くとは限らないということだ。外国人労働者が日本に来る誘因となっている賃金差は、新興国の経済成長によって縮小していくからである。資料6は「各国通貨建てでみた日本の最低賃金」を「各国の最低賃金」で除したものを「日本への出稼ぎ魅力度指数」として定義し、その推移をみたものだ。指数は「最低賃金を前提とした場合、同じ時間労働した場合に日本で働くことによって自国よりも何倍の賃金が得られるか」を示す。近年労働者が急増している「ベトナム」の値は2016 年時点で 23.5倍に上り、日本で働く大きな動機になっていると考えられる。しかし、この値は趨勢的に低下している。新興国の経済成長に伴って賃金が日本を上回るペースで上昇するためだ。同資料では、IMFの一人当たりGDPの予測をベースに延長推計を行っている。こうした傾向は今後も続くだろう。

 外国人労働者は企業の人手不足を一定程度解消することになるだろう。しかし、その状況がいつまでも続くとは限らない以上、企業は外国人労働者の受入を既存ビジネスモデルの延命策とせずに、生産性改善、低い賃金を前提としたビジネスモデルからの脱却を進めていくことが肝要だ。(提供:第一生命経済研究所

外国人労働者の積極受入へ舵
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 副主任エコノミスト 星野 卓也