(本記事は、酒井威津善氏の著書『儲けのしくみ 50万円からできるビジネスモデル50』自由国民社、2017年4月22日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
ビジネスモデルを生み出す6つの切り口
特殊な発明や製品の開発を除いて、特にサービス業の場合、ほとんどのビジネスモデルはこの6つのどこかをチェンジしたものです。
すなわち、あなたのビジネスでも6つのどれかを変えることで、大きな成果を出せるチャンスがあることを示しています。
順にご紹介していきましょう。
1.顧客を変える
ターゲットにしている顧客を変えるだけで新しいビジネスが生まれます。
顧客をどう変えるのか。例えば、次の3つの方法が考えられます。
(1)買わない客をターゲットにする
あなたの商品やサービスを何らかの理由で買ってくれない人です。
(2)利用者ではない人をターゲットにする
世の中の商品やサービスには、利用者と購入者が違うものがあります。
例えば子供向け商品。購入者は親や祖父母ですが、実際、使うのは子どもですね。同じように自分が使うわけではないが、誰かのために利用してもらうことを考えてみる。
(3)層を変える
ターゲットの層です。年齢、国籍、性別などを層に分けて考えることができます。20代、30代、60代、日本人、台湾人、中国人、アメリカ人、男性、女性などです。
(1)は、格安メガネチェーンの事例が有名ですね。Zoff やJINS が代表例です。これらの会社は、従来メガネを掛けなかった人たちに「ファッション」として、低価格でメガネを提供するコンセプトで成功しました。
(2)は、介護事業がわかりやすいでしょう。介護施設の利用者は、要介護の年配の方々です。もちろん、本人が決める場合もありますが、本人にその判断力がなければ、施設利用を決めるのは家族になります。
多くのサービスでは、利用者の利便性を最優先で考えますが、この場合、決済者である家族が利用しやすいというビジネスモデルも考えられます。
子ども向けの商品も同様ですね。利用者は子どもですが、購入者は親や祖父母。
(3)は従来の利用者層とは別の層に提供することです。例えば、介護施設向けのレクリエーション。ゲームやおもちゃ=子どものものという発想を変えて成功しています。
ここまでが、顧客を変えてみるという視点です。
2.商品・サービスを変える
顧客の次は、「商品・サービス」です。
顧客など他の要素はそのままで、商品やサービスを変えてみるという視点です。
チェンジするポイントは少なくとも次の4つが考えられます。
(1)簡略化
(2)無料化または低価格化
(3)イージーオーダー
(4)コンセプト・チェンジ(別の付加価値を付ける)
(1)簡略化
既存のビジネスにある手続きや、手順を減らすことです。
この事例で最も有名なのが「QBハウス」でしょう。従来の理容室の流れを6分割し、普通60分はかかる散髪を「カット」だけに絞り込み、必要な時間を10分にして価格を1千円に均一化。大成功しました。
あまり言われていないことですが、実はここにちょっとしたトリックが隠れています。
10分で1千円。1時間に直す(6倍する)と、そう、6千円ですよね。ここで気づかれた方もいるかもしれません。
そうです。1時間で6千円はもはや一般的な美容室並の価格なのです。
10分1千円=ああ、安いなと思いがちです。利益も薄いのかなと。しかし、こうして逆算してみると、実は意外と十分な利益が確保できていることがわかります。
簡略化を進めるときには、こうしたトリックも欠かせません。
(2)無料化または低価格化
従来費用のかかっていたものを無料化、または低価格化することです。一時流行った、フリーミアム戦略がまさにこれですね。
この方法を取るときに注意したいのが、「無料化」した分の収益をどこでカバーするか、です。売上を伸ばしたいからといって、安易に無料化したり価格を下げるのではなく、その分をどこかで補う必要があるのです。
例えば、好事例として、就活生と企業の採用担当者が出会う
「知るカフェ」
があります。
なんと大学生はタダ。運営費は、優秀な新卒を探しているスポンサー企業が出しているのです。無料にすることで間違いなく、大学生が集まります。そしてその分の費用を別で賄う。簡略化と同様、こうした仕掛けが欠かせません。
(3)イージーオーダー
ファストファッションのユニクロが今、積極的にイージーオーダーの展開をしています。もはや「安い」「品質が良い」だけでは顧客が満足しなくなったためです。
フルオーダーでやっていては採算が合いません。仮にできたとしても、売れるような価格では提供できないでしょう。そこで使えるのがイージーオーダーなのです。
基本的な「パターン」を用意しておき、その中から選んでもらう。
最近はなかなか見なくなりましたが、古い定食屋にあった「小鉢」と同じ考え方です。
ある程度パターン化しておくことでコスト管理がしやすく、従業員への教育も属人的なスキルに頼るリスクも減らすこともできるのです。
(4)コンセプト・チェンジ
あらゆる業界が成熟期もしくは衰退期にある今、必要になるのがこの考えです。
商品やサービスを新たに生み出すのではなく、商品やサービスが持つ「意味」を捉え直す。これがコンセプト・チェンジです。コンセプトを変えることで、そう簡単にはマネできない「差別化」が実現します。
わかりやすい事例では、テーマパークがあります。
次に上げるテーマパークはすべて「コンセプト」が異なります。
・東京ディズニーランド
・ユニバーサル・スタジオ・ジャパン
・よみうりランド
・ナガシマスパーランド
・富士急ハイランド
TDLはいわずと知れた、「魔法の国」ですね。
USJは、映画の中の世界が体験できること、よみうりランドは企業とのコラボ、富士急ハイランドは、最恐とも言われるお化け屋敷やジェットコースターなど突出した「驚き」がコンセプトです。同じテーマパークといってもこのようにまったく異なるコンセプトを持っているのです。
コンセプト・チェンジの優れた点は2つ。
1つは「お客さんがそのように認識してくれる」こと。恐怖体験をしたい人がTDLを選ぶことはありません。
そしてもう1つは、競合がマネしづらいこと。
コンセプトを似通わせるということは、そのまま本来自社が持っているコンセプトを丸々捨てることに他ならないからです。また、マネをすることで利益は間違いなく「食い合い」を起こします。
商品の機能や個別のサービス内容に手をいれる前に、ぜひ、コンセプトの見直しを図ってみてください。
3.価格軸を変える
顧客、商品・サービスと来れば、そうです。次は「価格」ですね。
価格を変えるだけで、お客さんが雪崩を打ってやってくる可能性が出てきます。
有名な事例では、LCC(ローコスト・キャリア)。いわゆる格安航空です。今や、すっかり当たり前になりました。
意外と知られていませんが、LCCの競合は既存の航空会社ではありません。
一見すると、飛行機代が高いから安いものを出したと考えたくなりますが、それでは航空会社同士でカニバリゼーション(共食い)を起こしてしまいます。
LCCがターゲットとしたのは、「高速バス」なのです。遠距離の移動を値段の安いバスで移動する人たちを取り込むために、あのような安い価格を設定し、成果を上げているのです。
単純に値段を上げる、下げるだけではなくどこを狙って上げ下げするのか、こうした視点も持ちながら考えてみてください。
4.場所を変える
売る場所を変えてみる方法です。
この発想で、見事な成果を出したのがiPadで魚を売るというやり方。インターネット経由で、iPadの画面から、直接遠方にある港へ注文するという見事なビジネスモデルです。魚を売る場所を「スーパー」「魚屋」→iPadに変えて成功したわけです。
売る場所は、2つに大別できます。
「アナログ」と「デジタル」です。
アナログでは、自社の店舗、他社の店舗の2つに分別できます。
デジタルも同様。自社サイト、他社のサイトに分かれます。
例えば、美容室のスペース貸しなど、自力で場所や店舗を構える必要はありません。扱う商品やサービスの性質に応じて、どう変化させることができるか、ここがポイントです。
冒頭の魚屋さんのように、従来の売り場とは違う場所で売る方法も考えられます。
例えば、少し前にブームとなった「付録つき雑誌」。バックや化粧品、ダイエットツールなどが本に挟まれ、書店やコンビニに置かれる。まさに商品を売る場所を変えた事例の一つです。
従来からの場所ではないところで、売ることはできないだろうか。ぜひ、こうした視点で考えてみてください。
5.時間帯を変える
時間帯を変えるだけで顧客が流れ込んでくることをご存知でしょうか。
今やすっかり生活の一部となったコンビニエンスストア。扱っている商品は、極端な言い方かもしれませんが、普通のスーパーとさほど変わりません。むしろ、扱う量では少ないぐらいです。商品点数が少ないと利便性が下がるのではと言われていましたが、見事に巨大な業界を生み出すまでになっています。商品数よりも営業時間のほうがお客さんにメリットがあったというわけです。
提供時間には工夫を凝らす余地があります。例えば、
・週のうち何回かだけ
・週末だけ
・深夜、早朝だけ
などです。
実際、週末しかオープンしない「スーパー」があります。営業は金・土・日の3日間だけ。月?木はお休みです。半分以上休んでも大丈夫なのかと思われるかもしれませんが、1週間まるまる開店しているときとほぼ変わらない売上があるそうです。週の半分を休みにすることで「人件費」や「家賃」などの固定費を大幅に減らせ、むしろ利益は大幅に増えたそうです。時間の概念を変えてみることで、思わぬ利益が生まれる可能性がある見事な好例です。
6.プロセスを変える
最後は商品やサービスを提供するための「プロセス」です。
さきほどご紹介したiPadで魚を売る例も、場所を変えただけでなく、魚を提供するプロセスを変えています。
従来なら、港→卸→小売→消費者となるところを、港→小売(しかもiPad)→消費者としたわけです。
この他にも有名なケースでは、古くはDELL、近年ではユニクロやニトリのSPA(speciality store retailer of private label apparel=製造小売)、ヤマト運輸の配送基地など。さきほど簡略化で取り上げたQBハウスも同様です。
SPAは、製造から小売までその企業ですべて行なうプロセスです。小売だけにとどまらず、製造から自社で行なうことで原価を押さえ、安く製品を提供する仕組みを完結させています。
プロセスは、差別化を図る上でもっとも重要な要素です。
なぜなら、一度構築してしまえば、他社がマネしづらいからです。
他社が新たにそのプロセスを模倣するためには、新たな費用がかかるほか、独自色の強いプロセスを作り上げると、他社がやっても二番煎じになるだけでさほどのメリットが得られないからです。
・複数の要素を変えるのもアリ
ご紹介した6つの要素は、いずれか1つだけではなく、2つもしくは3つチェンジさせることもアリです。どれか1つを変えた結果、別の要素が変わることもあります。
さきほど挙げたQBハウスも、プロセスを変えた結果、価格が変わり、提供場所も客足の多いエキナカや駅前へと変わっています。
なお、6つすべてを変えてしまうと意味がありませんのでご注意を。
6つすべてが違うと「既存ビジネス」とはもはや別ビジネスになってしまい、結果、お客さんが認識しづらくなる怖れが出てくるからです。
人は100%知らないものと、100%知っているものについては興味が湧きません。
この点に留意して、6つのうちのいずれかをチェンジさせてみてください。
きっと今までにはない斬新なモデルが生まれるはずです。