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(本記事は、酒井威津善氏の著書『儲けのしくみ 50万円からできるビジネスモデル50』自由国民社、2017年4月22日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
一般常識の逆を突く
新しいビジネスモデルを考えるとき、まず「他社とは違うもの」を考えるところからスタートします。いわゆる「差別化」ですね。
このとき、最も大切なポイントをお忘れなく。
そう、「お客さん」です。
単純に他社と違うことをやっても意味はありません。お客さんにとって意味のある「差別化」でなければビジネスとして成立しません。ではどのように差別化すればいいのか。今日ご紹介したいのは、一般常識の逆を突くというものです。
我々は、知らないうちにこれはこういうものだという、目に見えない「常識」や思い込みにとらわれています。
もちろん、こうした常識や思い込み自体が良くないものということではありません。
飛び交う大量の情報をいちいち考えて行動していては身が持たないからです。
しかし、新しいビジネスを考えるときには、この常識や思い込みは「敵」です。発想に制限がかかってしまうから、です。
この一般常識の逆を見事についたビジネスを一つご紹介しましょう。
●ゆっくり走るタクシー
それは、横浜を中心に東京など5拠点でタクシー事業を展開する「三和交通」のタートルタクシーです。
「タートルタクシー」
一見、普通のタクシーですが、このタクシーには他にはない特殊なものが設置されています。それが「ゆっくりボタン」。
「お腹に子どもがいるから、安全で丁寧に走ってほしい」
「体調が悪いから、あまり揺れないようにしてほしい」
必ずしも急いでいるときだけタクシーを利用するとは限りません。バスや電車などの公共交通機関では混んでいて落ち着けない。病院に行きたいが、とても電車に乗り継いでいられない。
こんなときもありますよね。でも、「急いでませんので、ゆっくり走ってほしい」と、運転手さんに伝えづらい。そこで生まれたのがこのボタンです。
「ボタンを押すと、いつもより、ゆっくり丁寧な運転を開始します」と書かれています。
タートル、つまり亀のようにゆっくり走る。
タクシー=急いで目的地に向かうための乗り物というイメージが私たちにはあります。
寝過ごして約束に遅れそう、電車が止まってしまった、救急車を待っている余裕がない。こんなときに呼ぶのがタクシーだとそう思い込んでいるからです。
例えば、美容室。キレイになりたいと思っている人もいれば、とにかく早く済ませてほしいと思っている人もいます。
美容室=オシャレにキレイに髪を整えてくれるところ
というイメージは、提供者側の思い込みにすぎない、ということです。価格もそうです。
●この公式を使って考えられるビジネスモデルの例
タクシー以外に、どんなことが考えられるでしょうか?
例えば、すでにあるものでは、
・シルバー人材→年配者は活用が難しいという常識の逆ですね。
・ノンアルコールビール→ビールにはアルコールが含まれているという常識。
・ショールーミング専門店→その場では売らず、あくまで試着専門のアパレルショップ。
・ゆっくり過ごすファスト・フード→2、3年前から広がり始めた「ちょい飲み」ですね。
などがあります。
まだ存在はしませんが、
・雑誌コーナーがないコンビニ→雑誌コーナーの代わりに、作業スペースがあるなど。
・本を売らない本屋
→ネットカフェの「新刊書店」版です。会員制にして、すべての本が読み放題。
といったことも考えられそうです。
これ以外にも、当たり前と思ってみていることをぜひ探してみてください。
矢面に立たない
東京駅の丸の内北口を出ると、懐かしい光景が目に入ってきます。
「靴磨き」です。
2人の中年の方が、低い椅子に座り、立っているお客さんの靴を念入りに磨いています。靴は生活必需品ですから、「需要」がなくなることはありません。ニュースの映像にもよく出る人通りの多い場所ですから、安定した売り上げが見込めそうです。
ただ、1人でこなすビジネスとしては良いのですが、それ以上の広がりは期待できそうにありません。もっと利益を伸ばすいい方法はないのでしょうか?
「たくさん人を雇ってフランチャイズのように展開すればいいのでは?」
残念ながら、それでは都内のほとんどの駅に店舗を構える「ミスターミニット」と被ります。いまさら競争は難しいでしょう。
実は、このような人手によるサービスの世界で、見事なビジネスモデルを組み上げ、成長している企業があります。
さっそくその企業をご紹介しましょう。
●修理をしない「修理会社」
「iFixit」
iFixit 社は、iPhoneなどアップル製品を対象に「修理用の部品」を販売する企業です。落としたり、壊したりしたiPhoneやiPadを自分で修理したい人や、修理業を行なう業者向けの部品やキットを販売しています。
iPhoneって修理代が高いですよね。例えば、バックカメラの場合、専門の修理業者に出すと安いところでも1万7千円もします。
このiFixit 社はiPhone7?カメラを69・95ドル(1ドル=112円としても、約7千800円)で販売。肝心なマニュアルもWebで無料公開しているほか、ユーザー同士が相談し合うためのフォーラムも無料で運営。
しかし、「修理」は請け負っていません。あくまで、修理用の部品を安く販売しているだけ。
「これだけ安いと、ここで部品を買えば「修理業者」ができるんじゃ……?」
その通りです。この企業にとっての一番の顧客は、ユーザーではなく、「修理業者」なのです。自社で修理を請け負わず、修理業者に「修理部品」を供給する。
iPhone一つとっても、iPhone4、4S、5、5S、6、6plus と次々に新製品が登場。
そのたびに修理部品が必要になる─iPhoneが進化し続ける限り、売上が確保できる見事なビジネスモデルです。
●「クオリティ」がすべて
部品の品質の高さがこのビジネスのカギです。
一時期インターネットで流行った「情報商材」のようなことをしてはいけません。早晩ビジネスが崩壊します。
実際、このiFixit 社は、アップルから新製品が出るたびに、分解した様子をWeb公開し、必要となる部品のクオリティを高めています。
高い品質は、今や当たり前です。さらに何かプラスアルファの付加価値を求められています。品質維持にはコストを投じましょう。
●この公式を使って考えられるビジネスモデルの例
新しいバージョンがよくでてくる商品やサービスが対象として最適です。
・Web制作
→ Web制作そのものを請け負うのではなく、簡単に機能的なWebサイトができるツールを有償で販売する。(ホームページビルダーがありますね)
・車、バイク、自転車の修理キット販売
・自主出版用の製作キット
→すでにあるかもしれません。
・服のお直しキット
このように直接手を下さなくても、一歩下がって、作業する人たちや企業に提供できるサービスや商材がないか、ぜひ御社のビジネスでも探してみてください。たくさんの人手を必要とせず、安定した利益率の高いビジネスが構築できるはずです。
【訂正】本書籍が発売した2017年4月からの状況変化に合わせ、記事タイトル及び記事内容を見直し、適切でないと判断した部分を削除しました