8月下旬、セブンイレブン(北京)は「美団点評」と提携する、と発表した。美団はオンライン生活サービスの大手で、共同購入、フードデリバリーサービス、シェアサイクル、配車アプリなどを幅広く展開している。中国ユニコーン企業の雄として、存在感は大きい。

この提携に対し「今日頭条」「36Kr」などのネットメディアが、さまざまな角度から分析記事を載せている。高い関心の裏返しに違いない。中国小売業界における最新の流れとともに、提携の意味について分析してみよう。

提携は美団の勝利?

セブンイレブン, O2O, 中国
(画像=StreetVJ / Shutterstock.com)

セブンイレブンの中国展開は、2004年の北京から始まった。その後、2009年に上海と天津、 2011年に四川省・成都、2012年に山東省・青島、2013年に重慶市へと出店エリアを広げた。さらに2017年には浙江省に、2018年には江蘇省に進出する。2018年6月末の時点で、2706店を展開している。

しかし出店エリア以外の地域では、あまり知られていない。つまり日本のように、影響力の大きい小売業の雄ではない。しかしローカルコンビニチェーンというわけでもない。イートインスペースを持ち込むなど、先進的な取組みや日本での評判により、非常に目を引く存在だ。

かつて中国には、2種類のコンビニエンスストアがあるといわれていた。1つはセブンイレブンである。2つめはセブンイレブン以外である。システムの運用には大差があった。セブンイレブンの某地区責任者は、囲碁に例え、いかにネット通販が増加しようと、我々に不利な局面は現れないだろう、と豪語していた。

しかし様相はすっかり変わってしまった。成都、重慶、天津などのセブンイレブン店舗は、すでに商品の宅配に乗り出している。そしてセブンイレブン北京は、美団のプラットフォームを利用することを発表した。口の悪い業界通は、「美団の勝ち」「世界標準のコンビニを、中国の不精な若者たちが打ち負かした」などと述べている。

提携は必然か?

セブンイレブン北京によると、8月下旬以降、北京地区の251店舗を順次、美団外売(フードデリバリー)のシステムに取り込む。スマホで注文を受け、食品温めなどのリクエストに答えた上で、美団のドライバーが宅配する。

オフライン店舗の商品をオンラインで販売するには、食品安全、各商品の粗利益、実際の店舗オペレーションなど、各種の問題を解決しなければならない。中には時間を要する問題もある。

しかし、セブンイレブン北京は、短期間のテストをしただけで、全店への導入を決定した。そうするよりなかったのだ。

そもそも中国のセブンイレブンは、どのように利用されていたのだろうか。「セブンイレブンの一万字解析」という資料によれば、利用客の57.9%は、店内滞留時間0~5分、28.9%は6~10分であった。

次に利用客の65%は、仕事の合間に来店していた。帰宅の途中15.4%、ショッピング目的12.1%、特にはっきりした目的はない7.6%だった。

つまりセブンイレブンは、“即時性”を評価されているのである。顧客の目的商品トップ3は、①店内調理商品。②牛乳とヨーグルト。③その他飲料。となっている。いずれも即時に消費される商品ばかりだ。

即時性の否定

しかし、そうしたコンビニの即時性も、ここへきて大きく揺らいでいる。一つはフードデリバリーの急発展、二つめは、O2O融合の新小売業の台頭である。

フードデリバリーサービスは、アリババ系の「餓了蘑」と「美団外売」の2トップに収れんされつつある。各種レストランの人気メニューを、“即時に”家庭で味わうことが可能になった。

O2O小売融合とは、ネットで注文した商品を最寄りの実体店で受け取る。実体店の商品をネットで注文し宅配してもらう、などの業態を超え複合化したパターンである。

これらの動きを主導しているのは、ネット通販首位のアリババ、第二位の京東(JD)である。アリババはO2Oに特化した新業態店「盒馬鮮生」の出店を進めるとともに、出資した「大潤発」「聯華超市」などのチェーンストアでも宅配機能を強化している。そのため物流子会社「菜鳥物流」という物流子会社には、莫大な資金を投じた。「餓了蘑」も買収した。

京東は「京東到家」という物流システムを推進している。これは自社だけでなく、物流会社として他社の宅配を請け負うものだ。実際にウォルマート、イオン、カルフールなどの外資系有名スーパーと提携し、相乗効果を上げている。

そしてフードデリバリーと、O2O物流のイメージは、交錯を始めた。配送の実働部隊を持つ強みが際立ってきたのである

物流会社による囲い込み

例えばメンズショップ大手「海欄之家」は、美団と提携している。6元(約100円)の配送費でオンライン購入した服を配達する。またスターバックスはアリババと“全方位”提携を行い、飢了蘑を利用した配送が始まる。

日系コンビ二チェーン「全家(ファミリーマート)」は、京東到家と提携した。またセブンイレブン成都も、まず15店舗を手始めに、京東到家と提携した。

つまり宅配業者とフードデリバリーの垣根は消滅し、物流側からの実店舗企業囲い込みが白熱化している。ほとんどの小売チャンネルが、宅配を目指すようになっているのだ。

セブンイレブン北京と美団の提携も、こうした流れの中に位置付けられる。コンビニの“即時性”は、今後宅配業者が保証する。配送時間は一般に30分から2時間以内である。どうやら「美団の勝ち」は否定できそうにない。

「オンラインとオフラインの融合は、掛け声ではなく必然なのだ」とはアリババ創業者・馬雲(ジャック・マー)の言葉である。確かに中国のO2O小売融合は着々と実現しつつある。これに対し、日本市場はまるで静止画のように見えてしまう。新しいビジョンは、どこかに眠っているのだろうか。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)