9月14日の日経平均が2月2日以来の2万3000円台を回復した直接的な要因は、前日にトルコ中央銀行が予想以上の大幅な利上げに踏み切り、新興国の通貨安不安が一服したことだ。一方、米トランプ政権は17日に中国に対する制裁関税の第3弾を発動すると発表し、翌18日には中国も報復関税の発動を発表した。その結果、NYダウや日経平均は下落するとも考えられたが、実際のNYダウは18日から21日まで4日続伸し、1月26日に付けた過去最高値を約8カ月ぶりに更新した。また、日経平均は13日から26日まで8日続伸し、2万4000円台を回復した。
トランプ政権が対中追加関税を発表したにも関わらずNYダウや日経平均が上昇した要因としては、(1)中国製品に対する追加関税率が当初予定の25%から年内は10%に引き下げられたこと、(2)トランプ政権が対中追加関税を発表した17日、2016年1月に付けた「人民元ショック」後の安値を更新した上海総合指数が、その後は下げ止まったこと、(3)中国の李克強首相が19日の講演で米中貿易戦争の報復措置として人民元を切り下げる方策は取らない姿勢を示したことなどが挙げられる。
米中関税合戦が日米中の経済に与える影響は?
大和総研は米国が対中追加関税を発表したことを受けて、米中関税合戦が日米中の経済に与える影響を再試算した。それによると、米国の中国製品2000億ドルに対する関税率が25%に引き上げられる場合でも、日本のGDP(国内総生産)に対する下押し効果は▲0.02%に過ぎない。また、米中のGDPに対する下押し効果も、両国のGDP成長率が日本よりも高いことを考慮すれば必ずしも大きくない。大和総研では、これらはあくまでもマクロモデル上の試算値であり、特に日本に対する影響については楽観は禁物とも述べているが、米中関税合戦が日米中の経済に与える影響について過度な懸念は不要かもしれない。
一方、報道によるとIMF(国際通貨基金)は米国発の貿易戦争の影響で米国と中国のGDPが2019年に最大0.9%程度下押しされるとの分析をまとめた。関税の引き上げによる貿易の停滞に加えて、金融市場の混乱や企業収益の悪化による資金調達の上昇が景気に悪影響を及ぼすとみていることには注意が必要だろう。
目先は買い戻し主導で上値を切り上げる可能性も
日経平均が長らく突破できなかった2万3000円の大台を9月14日に回復し、その後も上昇が続いた需給面の要因としては売り方の買い戻しが挙げられる。
東京証券取引所の売買代金に占める空売りの比率は9月12日まで33日連続で40%を上回り、連続記録は2008年の空売り比率公表開始以降で最長になっていたが、13日に7月27日以来の40%割れとなった。先月の日経平均は1月23日に付けた年初来高値2万4124円を更新する場面も見られたが、1月23日時点の空売り比率は34.4%まで低下していた。目先の東京市場で売り方の買い戻しが続けば日経平均はさらに上値を切り上げる可能性もあろう。
企業業績とPERからみると、日経平均の上昇余地は大きい
財務省が発表した4〜6 月期の法人企業統計によると、全産業の設備投資が前年同期比12.8%増と7四半期連続で増加し、伸び率はリーマン・ショック前の2007年1〜3 月期以来、約11年ぶりの高水準となった。自動車関連会社が能力増強に向けた設備投資や研究開発投資を活発にしたほか、化学業界では電気自動車(EV)向け電池素材などの生産能力を増強する動きが出ており、半導体や半導体製造装置の能力増強投資も活発だ。
また、全産業の経常利益は17.9%増と1〜3月期の0.2%増から大幅に加速し、金額では過去最高となった。さらに、日経平均の今期予想PER(日経予想)は9月26日時点で13.85倍であり、逆算される予想EPS は1735円と過去最高水準まで切り上がっている。一方、大和証券エクイティ調査部が発表した企業業績見通しによると、日経平均の今期予想EPSは1ドル=110 円・1ユーロ=130円の場合1843円と予想され、PER=14倍なら日経平均は2万5800円と想定される。企業業績とPERの点からみると、日経平均の上昇余地は大きいと考えられる。
インバウンド関連や工作機械株の冴えない値動きが続く?
日本政府観光局が発表した1〜8月の訪日外国人客数は2130万8900人となり、過去最速で2000万人を突破した。しかし、6月の大阪北部を震源とする地震や7月の西日本豪雨の影響で8月単月の訪日外国人客数の伸び率は前年同月比4.1%増にとどまり、2013年1月の1.9%減以来の低い伸び率となった。さらに、9月は関西国際空港などに大きな被害をもたらした台風21号や北海道で発生した地震の影響を受けることも避けられない。
一方、日本工作機械工業会が発表した8 月の工作機械受注では外需(輸出)額が前年同月比4.6%減と21カ月ぶりに前年割れとなり、外需の約3割を占める中国向けは37.3%減と直近半年間で最大の減少率となった。米中貿易摩擦の影響から中国で投資への様子見姿勢が広がっているという。目先の東京市場ではインバウンド(訪日外国人)関連株や工作機械株の冴えない値動きが続く可能性もあろう。
野間口毅(のまぐち・つよし) 1988年東京大学大学院工学系研究科修了後、大和証券に入社。アナリスト業務を5年間経験した後、株式ストラテジストに転向。大和総研などを経て現在は大和証券投資情報部に所属。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定証券アナリスト。