米中貿易戦争が小康状態となる中、ウォール街の市場関係者からは「次の標的は日本ではないのか?」と警戒する声が浮上している。かつて、1980年代の日米貿易摩擦の真っ只中でプラザ合意がなされたように、今回も「トランプ版プラザ合意」が打ち出されるのではないかとの憶測を呼んでいる。
1980年代と酷似する「金融経済環境」
1985年9月、G5(先進5カ国)財務相・中央銀行総裁会議で通貨政策が合意された。この合意は会場となったニューヨークのプラザホテルにちなんで「プラザ合意」と呼ばれている。当時の米国はインフレ抑制のための高金利政策がドル高を招き、貿易赤字の拡大に悩まされていた。そのような状況下、米貿易赤字の縮小を目指して各国がドル安誘導のための協調介入を実施したことから、ドル円は急速な円高に向かったのである。
筆者が取材するウォール街の市場関係者からは、最近「トランプ版プラザ合意」を警戒する声が聞かれ始めている。といっても主要国が再びプラザホテルに集まって協調介入を実施することを想定しているわけではない。そうではなくて「貿易赤字の縮小を為替レートの調整で実現しようとする試み」が当時と似ているということだ。
そもそも標準的なマクロ経済学では貿易赤字そのものが問題視されることはなく、失業の原因とも見なされない。貿易収支は貯蓄と投資の差額であり、それ以上でもそれ以下でもないからだ。米国が貿易赤字なのは、投資需要を国内の貯蓄で賄いきれないからであり、それ自体は良いことでも悪いことでもないと考えられている。
ただし、トランプ大統領はそう考えていないようだ。トランプ大統領に言わせると、貿易赤字は失業の原因であり、解消させるべきものとなる。この主張がプラザ合意を想起させる一因となっている。また、拡張的な財政政策によってインフレ圧力が強まる中、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げがドル高を招いているという「構図」も当時と似通っている。