オーナー会社の社長にとって自社株式の価値が高くなることは喜ばしいが、事業承継に関してはそうとは限らない。株価対策をしないと、莫大な税金が生じたり承継者が資金に窮したりするためだ。本稿では、事業承継を控えているオーナー社長がどのような株価対策をすべきかについて紹介したい。

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(写真=PIXTA)

株価対策が必要な理由は?

事業承継を行うには後継者に自社株を移転させる必要がある。たとえば、オーナー社長が保有する会社の株式を、将来の後継者となる長男に移転したい場合、そのまま長男に贈与すれば多額の贈与税が発生する恐れがある。また移転が終わらず、自社株を保有したままのオーナー社長が亡くなると、長男は株式を遺産として相続することになり、相続税の負担が問題となる。

これら税金の問題とは別に、適正価格で後継者に売却する場合でも、株価が高すぎると今度は購入資金の調達に苦労するかもしれない。後継者に限らず、たとえば役員や従業員が会社を買収する手法(MBO・EBO)を行おうとしても、資金調達がネックになることが多い。

事業承継を控えたオーナー社長にとっては、自社株の評価が高いことは決して諸手を挙げて喜べるものではないのだ。

株価はどのように算定されるのか

株価の算定方法は、贈与税や相続税の金額を計算する場合、親族に株式譲渡する場合、第三者からM&Aの提案を受けた場合など、それぞれの目的やシチュエーションによって異なる。

たとえば贈与税や相続税を算定する場合、株価は国税庁が公表している財産評価基本通達というルールに従うのが通例だ。本稿ではそれぞれの算定方法には立ち入らないものの、基本的な考え方は共通している。

株価を下げるためには、会社において費用を計上して利益を抑えたり純資産額を低くしたりすることである。以下で紹介する株価対策も、利益を抑えるもの、純資産額を低くするものを中心とした。

事業承継を想定した株価対策あれこれ

事業承継を想定した株価対策には以下のようなものが挙げられる。

・役員退職金の支給
役員に退職金を支給することで会社の利益や純資産額を下げる方法である。役員にとっても、退職金は所得税法上、退職所得として扱われ、税金が優遇されるというメリットがある。

・業績が低迷している時期に自社株贈与
会社の業績には波がある。業績が低迷している時期には利益金額や純資産額もおのずと下がるので、その時期を見計らって生前贈与などを行う方法である。

・生命保険の活用
法人保険あるいは事業保険を活用し、利益を抑えるとともに純資産額を下げられる。たとえば、保険期間の当初に解約返戻金が低いタイプの生命保険であれば、保険料が損金に計上されて利益が抑えられる一方で、資産計上額ひいては会社の純資産額が低くなる。その時期に自社株の贈与を行う方法がある。

・法人で不動産を購入
自社株を評価する過程では会社が保有する個々の資産も評価の対象となる。たとえば、会社が預金を保有していれば額面どおりの評価になるが、これを不動産にしておけば評価を6割から7割まで下げられる。それが賃貸不動産であれば建物は「貸家」、土地は「貸家建付地」として、さらに低い評価額となる。

株価対策には専門家を交えた検討を

以上のように、株価対策にはさまざまな手法があるものの、具体的な効果はオーナー社長や会社の置かれた状況により異なる。

もっとも効果的な対策を取るには、税理士などの専門家を交えて検討することだ。会社を買収したいと考えている人にとっても、オーナーの視点に立って考えてみることは有用といえる。