アメリカの政策シンクタンクから学べること

変える力,政策シンクタンクの役割
(画像=PHP総研 横江公美氏(元ヘリテージ財団上級研究員))

金子:日本の政策シンクタンクが世の中をよくするプレイヤーとして影響力を持つには何が必要でしょうか。アメリカの例に学べるところはありますか。

横江:日本は、シンクタンクだけではなくて、全てにおいて1回きりのイベントが多いんですよ。1回きりのイベントとか、1冊本出してこれで終わりというのが多い。これはアメリカのシンクタンクでは考えられないことです。1つの研究は最低でも1年、ある意味、それを研究する上級研究員が在籍する限り続き、インビテーションオンリーの会議で関係者を呼び議論を重ねていきます。それは、その研究の関係者のコミュニティ作りであり、提言を実現するための環境づくりとも言えるでしょう。また、大口寄付者への特別なイベント、小口寄付者へのイベントなどもあれば、メディア向けのイベントも継続して行われています。外国メディアへのブリーフィングという活動もあります。

日本のシンクタンクも、もう少し長い目で研究プロジェクトを設定し、関係者のコミュニティをつくっていくことが重要ではないかと思っています。

鈴木:今、横江さんがおっしゃったようなこととも関係すると思いますが、日本のシンクタンクは、どちらかというと報告書づくりは好きなんだけれども、その後のパブリシティーとかアウトリーチとか、ディセミネーションが十分ではない。場合によってはアドボカシー的なことをもっとやらないとだめだと思うんです。

逆に言うと、そちらのほうがシンクタンクって重要で、大学の先生は本を出すことがゴールでいいのですが、シンクタンクはそれよりも、研究の成果がどれだけ社会を、100%でなくても、変えられるかが大事なのです。その意味では、研究が終わってからのほうが重要で、その部分をやっているシンクタンクはなかなかないなという気がしますね。

金子:そうですね。我々も十分できているとは言わないですが。

鈴木:かなりやっているほうですよ。

金子:やってみると、意外に政治家も官僚も聞いてくれるんですよね。ですから、別に日本の行政や政治がそういうものに対して門戸を閉ざしているわけではなくて、結局働きかけをしていないのかなという感じがします。

鈴木:アイデア自体は欲しがっているんですよ。

横江:ヘリテージ財団のある階は、全ての部屋がクローズドの会議を行う会議室になっています。そこでは、ランチや軽食、夕食を提供する勉強会がいつも行われています。10部屋ぐらいありますが、いつも埋まっていて予約が取れないくらいです。それで、ケータリングの本が電話帳ぐらいあるんですよ(笑)。ケータリングのよしあしがシンクタンクのよさを決めていると言ってもいいほどです(笑)。

それから、私が日本のシンクタンクにあったらいいと思うのは編集部門ですね。ヘリテージ財団では、一流の編集スタッフがそろっていて、研究員の書いたものは編集者が手を入れます。さらに撮影用のスタジオまであって、私も入った2日後にメディアトレーニングを受けました。しかられたのは、「もうちょっとちゃんとした格好しろ」って(笑)。上級研究員は、事件が起きた時に専門家としてテレビでコメントが求められるから、と。

鈴木:政策における言葉の発し方というのは多分、普通の言葉の発し方と一緒ではないですよね。

どれだけ明確にストーリーが相手に伝わるかとか、できるだけキャッチーな言葉を出せるかとか、あと、言葉の切り方とか、長さとか、そういうものも含めて、発信していかないとだめな部分があります。シンクタンクというのは、そこら辺をある程度は意識していかないといけないと思いますね。

金子:実際、中身的に、世の中をよくするようなすぐれた成果を生み出すにはどうしたらいいかというところはどうですか。

鈴木:一つは、先ほどのアジェンダセッティングと一緒で、世の中のトレンドがどういう状況であるかということをきちんと捉えることがまず必要なのではないでしょうか。

それに即したテーマ設定をやり、あと、どれだけタイミングを失わない形でうまく成果を出して発信していくかという、スケジューリング感が僕は重要だと思いますね。

かといって、政策シンクタンクの場合は、ものすごくオリジナリティーが必要かというと、多分違う。オリジナリティーはそれこそ学者の方がやっている研究があるので、それをうまく活用するのも一つのやり方ではないかと思いますね。

横江:日本とアメリカの大きな違いは、政府が公開する情報です。アメリカはアーカイブとか統計情報が圧倒的に多い状態で、それらがあるかないかで研究の質は全く違ってきます。また、この環境では、そうしたデータをわかりやすく整理する研究も必要になります。政府の情報とか、白書の数字はばらばらの場所に存在していますし、数字がならぶだけでは意味がわからないものもあります。それらを整理してデータベースを作り、わかりやすく見せる役割は非常に大きいと思います。:実際にアメリカでは、オープンシークレットという名前で選挙資金のデータベースが作られたことが、選挙資金に関する法律の改正につながったと言われています。選挙資金の情報自体はもともと政府によって公開されていたものですが、マスコミでもオープンシークレットの数字が多用されました。このように政府の公開情報を使ってオリジナルなデータベースをつくることは、日本でもできるのではないかなと思っています。

金子:データをそのまま置いておくのではなくて、見せ方を工夫して、一般市民とかメディアの人たちとか研究者も使えるようなものを構築するということですね。

鈴木:逆に言うと、日本は、役所も含めてデータとか研究に基づいて政策づくりをあまりにもやってこなかったことが問題だと思いますし、外になかなかシンクタンクが生まれないのもそのせいなのではないかなと思っています。

政策研究というのは、それを受けとめてくれる側に研究が理解できる人がいないといけないわけです。それは役所の中であったり、政治家だったりだと思いますが、まさにそういうリサーチリテラシーを育てるという意味では、僕は役所の中にももっとリサーチが生かされる仕組みができたほうがいいと思いますね。