新しい地方のカタチをつくる人材の登用と育成が不可欠

変える力,大きな社会
(画像=PHP総研)

亀井 社会的事業の場合、経済性が重要になってきますが、そこはどうされていますか。

加戸 私の場合は、元々あった組織も含めて、すべて整理していきました。古くからある組織は、いつの間にか、収入に見合わない支出が増えがちです。時代に合わなくなっても残っていたものを見直し、効率化を徹底し、組織を筋肉質にしていきました。

例えば、私たちの商店街では、それぞれの店から賦課金を集めていて、アーケードや構造物、電気代や補修代等を負担しています。補助金のような行政からのランニングのお金は入っていません。ただ、自立している一方、よく見てみると、時代の変化に応じて、いらなくなっている経費も多いんです。

無駄な経費を切るといえば簡単ですが、当初はそれなりの目的もあったわけで、整理にはそれなりの覚悟とプロセスが必要です。「これ何でやってるんだっけ?」、「今も必要なんだっけ?」と、一つ一つ、全員に聞いて回り、合意形成を図っていきました。

下がったコストは利益になりますが、私は、その利益で新しい人を雇うことにしました。そうすれば、既存の事業を広げることも、新しいサービスを始めることもできます。

これからの地方がやらなければならないことには、大きく分けて三つのテーマがあります。①外貨の獲得、②地域内資金循環の促進、③省エネ都市構造の確立です。

それぞれに様々なアプローチがありますが、もっとも大切なのは担い手人材です。人材を登用し、育成しなければ、どれもできません。地方の人材不足はきわめて深刻です。既存のガラケー社会に適応した人は残っていますが、新しい、やらねばならないことにチャレンジする人は地方から出て行ってしまっているのが現状です。

これを変えるには、まず、人とお金の流れを変えなければなりません。いまの三つの課題を踏まえ、チャンレンジのおもしろさ、やりがい、考えられる方法論、そして、報酬まで具体的に示したうえで、地域にいるみんなが、新しい人材を心から歓迎する、そうした人材が集まってくる流れを作っていかねばなりません。

だから、私たちの会社の理念は、様々な深い意図を込めて「みんなでつくろう松山のまち」なんです。全員がプレーヤーです。それは若い世代だけでなく、おじいちゃんやおばあちゃんも同じです。50歳の離れた人と一緒にやれるから、いろんなことができるし、おもしろいんです。

「みんなでつくろう」には「自分事化」という意味も込めています。組織が成長していく上で最も大切なことは、目の前に起こっていることに自分の手をぱっと貸せるかどうかです。こういったことが有機的に行われて、自然に行われている社会というのは非常にエコなんです。

シェアリングエコノミーとか言いますが、その前提なんです。余っているからみんなで使おうというレベルではありません。自分事化できれば、支え合う力も強くなるし、視野は広がり、新しいアイデアも出て来て、互いにそれを磨き合うこともできます。「まち」は「思い出づくりの場」です。思い出をつくる、思い出があるから動ける、というように向かわせる流れをつくらないといけません。だから、きっかけが必要なんです。誰もがそういう思いは持てるわけですからね。

例えば、ゴミ拾いがひとつのきっかけです。あのとき、誰かと一緒にキレイにしたまちはどうなっただろうと思い出が一つできます。自分事化されると、また来たくなりますよね。そこに経済が絡めば、外貨も獲得できるし、全てがつながっていきます。

一つのきっかけで目覚める人は結構多いのです。これが人材になっていきます。ところが、日本の社会は、こうした人材をつぶしてしまうことが多いように感じています。最初はちやほやして持ち上げますが、どこかで落とすんです。地域にとって大切な人材が孤立化し、追い詰められてしまいます。

それをなくすために、私たちは円卓でやります。フラットな関係性を強く意識して進めています。地域にありがちなタテの関係ではなく、フラットなヨコの関係性を構築していかねばなりません。大切なことは、円卓に座るテーマというか、求心力のようなものを意識し続けることです。黒子の仕事ですが、それも自分の役割だと思っています。