社会を担う「会社」に対するステレオタイプ的誤解

変える力,大きな社会
(画像=PHP総研)

亀井 社会的事業に取り組むお二人に伺いたいのですが、事業に取り組んでいて感じる壁やハードルのようなものにはどんなものがありますか?

加戸 「会社」に対するステレオタイプ的誤解です。世代によって、社会のあり方に対する認識ギャップがあるのも事実ですが、この勘違いは深刻です。私は、かつて投資銀行にいましたので、会社とはどういうものか、よく理解しているつもりですが、世間は会社について、大きく誤解しています。

会社といえば、利潤を追求するもの、株主のためだけあるものと勘違いしている人が多いのです。

立ち止まって、よく考えてみれば、当然のことですが、いまや、会社は株主だけのものではありません。従業員にとっては働く場、日々の糧を得る場、生きがいを産む場です。技術力を有し、組織力を持ち、様々な他者が協働して、社会課題の解決にあたるのが会社の本分です。

加えて残念なのは、大企業の経営者たちが、その本分を忘れてしまっているのではないかと感じることが多いことです。投資家に利益のことばかり聞かれるからかもしれませんが、彼らが、もっと社会に向き合うことができれば、そのインパクトはきわめて大きいものになるはずなんです。本当にもったいない。

こうだ 世代間の意識ギャップについては、子育てのあり方を巡って、たいへん深刻なものを感じています。子どもを誰かに預けることに対して、厳しい認識を持つ人たちが今もたくさんいます。家計の状況を見れば、共働きが当たり前の時代になりました。それでも、「子どもを犠牲にして」みたいなことを言われてしまいます。

「会社」に対する誤解は、私たちにとっても深刻です。そもそも、NPO法人は、定款に基づいて社会課題に向き合うため、自由度が低く、スピード感がありません。さらには、補助金や助成金を頼り切って活動するのではなく、自立して活動し続けるため、世の中に価値を提供したら、当たり前に対価を得ることで事業規模を拡大したい、そして、サービスを提供する人たちも経済的に潤うことで、また次なる投資ができるという、当たり前の経済循環を持たなければ、本当の意味で社会課題を解決し、サステナブルであり続けることはできないという思いがあって、株式会社を選択しました。

しかし、社会課題解決に携わるということは、当然、非営利活動でも地元に根差して課題に向き合っていらっしゃる団体とうまくやっていかなければなりません。やはり、そこで、加戸さんおっしゃるとおり、「会社」をめぐる誤解とぶつかりました。

株式会社は悪いものだと思っているのです。「あなたは利益追求型でしょ。ここは聖域です。あなたがやっていることのいい/悪いはどうでもいいけれども、私たちには一切関わらないでほしい」、最初はそう言われました。行政でも、公共施設を使う際、NPOであれば無料ですが、株式会社は所定の費用の3倍がかかるところもあります。

社会のためになる何かをするのが会社であって、NPO、社団法人、株式会社といった形態によって、相手の理念や活動を決め付けるのは本当にどうかと思いますが、私は、それも含めて変えていくぐらいの信念を持たねばならないと思っています。

亀井 PHP研究所の創設者である松下幸之助が「会社は社会の公器」であると言ったのは、まさにそういう意味でしょう。社会の課題を解決するための存在としての会社、そして、社会のリソースである人やモノを社会から借りて事業を行っている以上、事業の結果として社会のためになることは当然であり、あらゆる事業プロセスにおいても、社会と共にあることは当然のことです。利益というのは、あくまでも、事業の一つの結果であって、社会の課題を解決し、そのニーズに応えたからこその帰結にすぎません。社会にいろいろな組織がありますが、会社というのは、統治も含めた様々な観点からも、もっとも優れた組織形態の一つです。加えて、最近では、投資家も変わってきています、ESG投資はこれからますます大きな流れとなるでしょう。持続可能な社会に向けて、市場も、会社も変わっていかねばなりません。