社会的事業は、政治も、社会も、一人ひとりの生き方も変えていく
伊藤 いま、お二人の話を聞いただけで、いろんな感動が湧き上がってきます。これだけ高い志と情熱を持って、そして、それぞれの社会的な課題の本質を捕まえて、それを解決するソリューションの方向性を打ち出して、なおかつ、自立的なビジネスモデルを確立しているわけです。その中に新しい価値観があって、さらには社会を変えようという、そういうアイデアも込められています。それを現場で、政府からの補助金に依存せず、全くゼロからスタートしてやっている人がこんなにいるんだということに、議員たちは感動しました。そうした深い感動が提言につながっています。
ですから、この提言は、いま、自民党の中ですごい化学反応を起こしています。先輩議員たちにも強く響いているんです。私自身、提言を出した当初は、党内で強い抵抗が出てくると心配していたのですが、「もっと取り上げよう」とか「もっと具体的な政策の提言をつくり上げてくれ」と、積極的な反応ばかりでした。また、こういう化学反応に応えていかなければいけないと思っています。
私自身の思いとして申し上げれば、先ほど、松下幸之助さんのお話が出ましたが、私は、かつて、松下政経塾において、幸之助さんに89歳から亡くなる94歳まで直接ご指導を受けるという非常に恵まれた経験をしているだけに、彼はこういう人材を育てたかったんだなという思いもするんです。そして、また、彼が言った、来るべき社会とは、こういう方たちが縦横無尽に活躍する社会だと思うのです。現代は閉塞感に満ちていると言われますが、それを打ち破ることができる若い人材を育てていきたいと思います。
大きな社会というと、英国のキャメロン政権の焼き直しのように見えますが、私はそこに多くの意味を込めたいと思っています。一人ひとりのつながり、支え合い、頼り合いでできた偉大な社会、お互いに信頼に満ちた持続可能な社会、課題解決に誰もが当事者として向き合い、誰かの役に立っていることを実感できる社会、そうした「大きな社会」を、こうださん、加戸さんのような方々と一緒に作っていきたいと考えています。
加戸 やはり、自分の足で立つ、自立できる地域社会をまず作っていきたいと思っています。それができれば、税は本当に必要な人に集中して分配することができますからね。 加えて、将来のことを申し上げれば、私たちがやっているこのモデル、地域商社のモデルには、世界に売ることができる価値があると思っています。社会課題先進国の日本の地方で得たノウハウは世界が求めているはずなんです。そこに至るには、自分でなければできないという属人性も外していかねばなりません。そこまで展望しながら、これからも頑張っていきたいと思います。
こうだ これから目指したいのは、社会的事業における資金調達の多様化です。私たちの創業からの資金は、自己資金100%でした。それは、ミッションを見失いたくなかったからです。借りたお金を返すために事業を進めるのが私たちの仕事ではないですからね。
ただ、私たちはそれでここまで来られましたが、社会課題や事業によっては、それではできないこともあると思うのです。やはり、社会的事業でも、資金調達ができる環境を整えていかねばなりません。例えば、ヨーロッパやアメリカには、社会性と事業性を両立させた企業に対する日本とは比較にならない規模の資金提供の実績が多くあるのです。
最近、日本ベンチャーフィランソロピー基金から、私たちも資金を受けながら、経営的支援も受けていますが、それは単なるお金だけの関係ではなく、経営にとっても、経営者である自分自身にとっても、メンターとなるような人たちから厳しく、建設的なご意見をいただきながら、経営をすすめるようになりました。 フラッグシップとして見ていただき、いろいろな支えがあります。だからこそ、そうした期待に応える仕事をしていきたい、次に続く人たちに道が遺せる仕事をしたいと考えています。
亀井 今日は、未来の希望につながるお話でした。伊藤さん、こうださん、加戸さん、ありがとうございました。
(『政策シンクタンクPHP総研』より転載:2017年11月02日公開)