要旨
● 気象庁が6月23日に発表した7‐9月の3ヵ月予報によると、太平洋高気圧の張り出しが強く、暖かい空気に覆われやすいため、気温は全国的に平年より高くなる見込みとされている。
● 一般的な猛暑効果としては、飲料関連需要の高まりやビアガーデン等の盛況がある。コンビニをはじめ小売業界の売上高も、猛暑効果で季節商材の動きが活発化することが期待される。外食売上高以外にも、飲料や家電向けを中心にダンボールの販売量も増加が予想され、ドリンク剤やスキンケアの売上好調により製薬関連でも猛暑は追い風となろう。乳製品やアイスクリームの好調推移が期待される乳業関連も猛暑効果は大きく、化粧品関連でも季節商材の好調が目立つ。一方、ガス関連は猛暑で需要が減り、医療用医薬品はお年寄りの通院が遠のくこと等により、猛暑がマイナスに作用する可能性がある。
● 気温も含めた家計消費関数を推計すると、7-9月期の日照時間が+10%増加すると、同時期の家計消費支出が+0.38%程度押し上げられることになる。気温に換算すれば、7-9月期の平均気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約+3,200億円(+0.5%)押し上げることになる。
● 仮に今年7-9月期の日照時間が猛暑となった2010年並となれば、家計消費+5,000億円(+0.9%)押し上げを通じて、同時期の実質GDPが+3,000億円(+0.2%)押し上げられることになる。更に、過去最も日照時間が多かった1994年並となれば、家計消費+6,900億円(+1.2%)押し上げを通じて、同時期の実質GDPを+4,200億円(+0.3%)押し上げると推計される。
● しかし、記録的猛暑となった1994、2010年とも7~9月期は大幅プラス成長を記録した後、翌10~12月期は個人消費主導で大幅マイナス成長に転じていることには注意が必要である。
● 今夏の日照時間が増加して来春の花粉飛散量が増えれば、花粉症患者を中心に外出がしにくくなることからすれば、猛暑は逆に来春の個人消費を押し下げる可能性もある。
(注)本稿はダイヤモンドオンライン(http://diamond.jp/articles/-/134960 )への寄稿を基に作成
今夏は猛暑の見込み
今夏は暑くなることが予想されている。気象庁が6月23日に発表した7‐9月の3ヵ月予報によると、太平洋高気圧の張り出しが強く、暖かい空気に覆われやすいため、気温は全国的に平年より高くなる見込みとされている。
猛暑報道が出ると話題になるのが、猛暑が日本経済に与える影響である。猛暑になると売れるようになる商品・サービスがある一方、売れなくなる商品・サービスもある。そうした効果が経済全体に与える影響は軽視できないからだ。そこで本稿では、過去の事例を参考にしながら、今年の猛暑が経済に与える影響を予測してみよう。
近年では、2010年が観測史上最も暑い夏と呼ばれている。当時の気象庁の発表によると、6~8月の全国の平均気温は平年より1.64℃高くなり、1898年の統計開始以来、最高の暑さとなった。この猛暑効果で、2010年6月、7月のビール系飲料の課税数量は前年比2ヵ月連続プラスとなった。同様に、コンビニ売上高も麺類や飲料など夏の主力商品が好調に推移したことから、既存店前年比で7月以降2ヵ月連続プラスとなった。
また、小売業界全体を見ても猛暑効果は明確に現れた。7月の小売業界の既存店売上高伸び率は猛暑の影響で季節商材の動きが活発化し、百貨店、スーパーとも盛夏商材が伸長したことで回復が進んだ。家電量販店の販売動向もエアコンが牽引し、全体として好調に推移した。 2010年は小売業界以外にも、猛暑の恩恵が及んだ。外食産業市場の全店売上高は7月以降の前年比で2ヵ月連続のプラスとなり、飲料向けを中心にダンボールの販売数量も大幅に増加した。また、ドリンク剤やスキンケアの売上好調により、製薬関連でも猛暑が追い風となった。 さらに、乳製品やアイスクリームが好調に推移した乳業関連も、円高進行による輸入原材料の調達コストの減少も相俟って、好調に推移した。化粧品関連でも、ボディペーパーなど好調な季節商材が目立った。一方、ガス関連は猛暑で需要が減り、医療用医薬品はお年寄りの通院が遠のいたことなどにより、猛暑がマイナスに作用したようだ。 以上の事実を勘案すると、仮に今年の夏も猛暑となれば、幅広い業界に恩恵が及ぶ可能性がある。
想像以上に幅広い猛暑効果
事実、過去の実績によれば、猛暑で業績が左右される代表的な業界としてはエアコン関連や飲料関連がある(資料1参照)。また、目薬や日焼け止め関連のほか、旅行や水不足関連も過去の猛暑では業績が大きく左右された。そのほか、冷菓関連や日傘・虫除け関連といった業界も、猛暑の年には業績が好調になることが多い。
さらに、飲料の販売比率の高いコンビニや猛暑による消費拡大効果で、広告代理店の受注も増加しやすい。缶・ペットボトルやそれらに貼るラベルを製造するメーカー、原材料となるアルミニウム圧延メーカー、それを包装するダンボールメーカーなどへの影響も目立つ。
さらには、ファミレスなどの外食、消費拡大効果で荷動きが活発になる運輸、猛暑で外出しにくくなることにより販売が増える宅配関連なども、猛暑で業績が上がったことがある。一方、食料品関連やガス関連、テーマパーク関連、衣類関連などの業績には、過去に猛暑がマイナスに作用した経験が観測される。
7-9月期の平均気温+1℃上昇で家計消費が+3,200億円
そこで、過去の気象の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのかを見てみよう。内閣府『国民経済計算』を用いて、7‐9月期の実質家計消費の前年比と東京・大阪の平均気温や日照時間の前年差の関係を見た(資料2参照)。すると、両者の関係は驚くほど連動性があり、7-9月期は気温上昇や日照時間が増加したときに、実質家計消費が増加するケースが多いことがわかる。したがって、単純に家計消費と気温や日照時間の関係だけを見れば、猛暑は家計消費全体にとっては押し上げ要因として作用することが示唆される。
ただ、家計消費は所得や過去の消費などの要因にも大きく左右される。そこで、国民経済計算のデータを用いて、気象要因も含んだ7‐9月期の家計消費関数を推計してみた。すると、7‐9月期の日照時間や平均気温が同時期の実質家計消費に統計的に有意な影響を及ぼす関係が認められる(資料3参照)。
そして、過去の関係から読み解くと、7-9月期の日照時間が+10%増加すると、同時期の家計消費支出が+0.38%程度押し上げられることになる。これを気温に換算すれば、7-9月期の平均気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約+3,212億円(+0.5%)押し上げることになる。
したがって、この関係を用いて今年7-9月期の日照時間が1994年および2010年と同程度となった場合の影響を試算すれば、日照時間が平年比でそれぞれ+30.5%、+22.2%増加することにより、今年7‐9月期の家計消費はそれぞれ前年に比べて+6,904億円(+1.2%)、+5,026億円(+0.9%)程度押し上げられることになる。
また、家計消費が増加すると、同時に輸入の増加などももたらす傾向がある(資料4参照)。このため、こうした影響も考慮し、最終的に猛暑が実質GDPに及ぼす影響を試算すれば、94年並となった場合は+4,220億円(+0.3%)、2010年並となった場合は+3,072億円(+0.2%)ほど実質GDPを押し上げることになる(資料5参照)。このように、やはり猛暑の影響は経済全体で見ても無視できないものと言える。
猛暑後の「マイナス成長」ジンクス
しかし、猛暑効果だけを見ても経済全体の正確なトレンドはわからない。猛暑の年は、夏が過ぎた後の10~12 月期に反動が予想されるからだ。過去の例では、記録的猛暑となった1994年、2010 年とも7~9月期は大幅プラス成長を記録した後、翌10~12 月期は個人消費主導でマイナス成長に転じているという事実がある(資料6参照)。
つまり、猛暑特需は一時的に個人消費を実力以上に押し上げるが、むしろその後の反動減を大きくする姿がうかがえる。猛暑効果により売上を伸ばす財・サービスは暑さを凌ぐためにやむなく出費するものが多い。したがって、今年も猛暑効果で夏に過剰な出費がなされれば、秋口以降は家計が節約モードに入ることが予想されるため、秋以降は注意が必要だろう。
年を超えて影響を及ぼす猛暑効果
このように、今後の気象次第では、足もとで緩やかな回復基調にある日本経済に思わぬ影響が及ぶ可能性も否定できない。なお、夏場の日照時間は翌春の花粉の飛散量を通じても経済に影響を及ぼす。前年夏の日照時間が増加して花粉の飛散量が増えれば、花粉症患者を中心に外出がしにくくなることから、今年の猛暑は逆に来春の個人消費を押し下げる可能性があることについても補足しておきたい。
足もとの個人消費に関しては、猛暑も手伝って、夏場にかけて回復すると見られている。しかし、秋口以降の個人消費の動向を見通す上では、猛暑効果の反動といったリスク要因が引き続き潜んでいることには注意が必要であろう。今年度の景気を見る上でも、今後も天候の動向から目が離せない。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣