9月上旬、中国人向けの「東京グルメガイド」が発表された。作成したのは、中国最大のオンライン旅行会社、シートリップ(携程)社である。ミシュラン(米其林)と同じよう語感の“美食林”と名乗っていること、星1~3つでランク付けしていることから、中国版ミシュランを目指しているのは明白だ。

中国ではシートリップ社の存在感は抜群。エアチケットやホテル代をチェックする際のスタンダードとなっている。おりしも中国では、好調な第二四半期決算と金融業進出のニュースが伝えられた。同社の分析から、日本と中国の観光業の近未来を探ってみよう。(1元=16.19元)

シートリップ(携程)とは

ミシュラン, グルメ, 東京
(画像=PIXTA)

上海虹橋空港のすぐ近くに、「携程 Ctrip」という文字を掲げたビル群がそびえている。離着陸する飛行機からもよく見える。これを見た人は、感嘆するに違いない。

シートリップは1999年、梁建章ら4人の創業メンバーによって設立された。梁は13歳のころ、すでに“コンピューターの小詩人”の異名をとった。復旦大学を飛び級で卒業、ジョージア工科大学で修士を取得、その後はシリコンバレーで働いていた。

そして帰国後、満を持して起業した。梁のリーダーシップのもと、革新的で高効率の管理手法を採用し、2003年には早くも米国ナスダック市場へ上場する。目覚ましい急成長を遂げ、新時代のオンライン旅行会社を象徴する存在となった。現在は上海本部と17の地域会社をもち、従業員数は3万人に上る。

シートリップとJTB

シートリップ2017年12月期の売上は、268億元(約4340億円)前年比39%増だった。株主利益は40億元(648億円)で前年比2倍増である。売上の内訳は、交通チケット販売122億元、宿泊95億元とこの2つで80%を占める。旅行事業は観光が30億元、ビジネスが7億5300万元、2つ合わせて14%、その他6%である。

日本の王者JTBと比べてみよう。同社の設立は1912年(明治45年)である。2018年3月期の売上(連結)は、1兆3229億9200万円、前年比2.0%増。株主利益は、10億4300万円、前年比80.1%のマイナスだった。

内訳は、国内個人事業6614億円、国内法人事業4153億円で、この2つで81%を占める。その他グローバル事業1695億円、シナジー事業536億円などとなっている。最も稼いでいるのは国内法人事業で、グローバル事業は赤字だ。グループ従業員数は2万9153人である。

シートリップの売上は、JTBの3分の1だが、株主利益は60倍である。従業員数は全く互角だ。JTBのビジネスモデルは明らかに疲弊しているとみてよさそうだ。

2Q決算は好調

そのシートリップは第二四半期決算を発表した。売上は73億元、前年比13%増、株主利益は24億元、前年比564%増だった。利益率は昨年度通年の2.2倍である。売上伸長率そのものは鈍っているが、その原因ははっきりしている

それは交通チケットの販売が1.0%増にとどまったことだ。しかし利益率の高い宿泊は21%増、旅行は観光とビジネス合わせ30%増と大きく伸びた。また商品開発投資には23億元、売上の31%を当てている。

これにより新開発した旅行商品は、利益に大きく貢献している。「東京グルメガイド」もその流れの中に位置付けられるだろう。JTBとは異なり、シートリップのビジネスモデルは、まだ進化しているようだ。

金融子会社を設立

一方、7月には金融子会社、「携程金融科技(上海)有限公司」を15億元の資本金で設立した。業務範囲は、金融科技(Fintech)、金融ソフト、金融サービス、金融情報、金融相談、投資、投資顧問、資産管理などとあり、総合金融会社を目指している。

当初は、これまで手掛けてきた分野、保険、小口金融、資産管理、消費者金融を強化する。

●保険

2011年に保険代理会社を設立。2013年、アリババ、テンセント、平安保険などと初のネット保険会社「衆安保険」の設立に参与。2016年、買収した同業の「去哪児網」とともに保険会社を設立。

●小口金融

2015年、上海携程少額貸款有限公司を資本金8億元で設立。

●資産管理

2013年、上海携程資産管理有限公司を資本金5億6000万元で設立。2014年、携程財富投資管理(北京)有限公司を設立。

●消費者金融

2016年、上海銀行、その他2社とともに、上海尚誠消費金融股份有限公司を設立。

ライバルの「同程旅游」や、中国版Airb&bの「途家」、配車アプリ「滴滴出行」など交通、旅行各社も金融事業に乗り出している。新会社は、競合負けしないように、金融部門のヘッドクォーターを設置した意味だろう。イメージはアリババグループのアント・フィナンシャルだろうか。

とにかく元気の良さは、日本の旅行業界の比ではない。増強する金融力を背景に、シートリップは、その存在感をさらに高めていきそうだ。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)