シンカー: 米連邦準備制度理事会(FRB)のタカ派的な政策スタンスとリスク・イベントの綱引きが続いているため、債券利回りは一進一退の動きとなっている。これにイタリアの財政や来年度予算をめぐる不透明感と、英国の欧州連合(EU)離脱交渉に対する懸念が加わり、投資家を安全性の高い債券市場に向かわせる要因として作用している。リスク・イベントの債券利回りの下押し圧力があるため、堅調な経済ファンダメンタルズを反映する米国の長期金利の水準は現在よりも高いと考えられる。この現状より高い長期金利の水準を織り込みながら、株価は調整を続けているとみられる。裏を返せば、リスク・イベントへの警戒が一服する時に、長期金利は上昇するとみられるが、既にその水準を織り込んだ調整が起こってきたとすれば、株価は堅調な経済ファンダメンタルズを反映して持ち直すとみられる。ただ、米国の欧州と米国の政治問題、貿易紛争の中の中国経済の不安定化、そして新興国からの資本逃避など、しばらくはリスク・イベントが残るとみられる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

●米国経済(10/22):中間選挙の最新見通し要約

米国の中間選挙まで2週間あまりとなった。弊社は選挙結果が政策や経済、金融市場に及ぼすインプリケーションを以前に分析したが、(状況は大きく変わっていないとみており)その要約を再度示したい。米国では、政治に対する注目が強まり、景気が力強いにもかかわらず有権者がトランプ大統領に満足していない、という状況で11月6日の中間選挙を迎える。弊社は8月に示した中間選挙見通しで、政治的な状況を考慮して、選挙結果の潜在的な影響を検討した。ブレット・カバノー氏の最高裁判事就任を巡り厳しい聴取は行われたが、その時から状況は大きく変化していない。実際にも世論調査は、「下院では民主党が主導権を得るが、上院は共和党が小差で過半数を維持する」可能性が大きく高まったと示している(もちろん、世論調査の正確性が問題となるが)。

●欧州経済(10/23):イタリアと欧州委員会の綱引きは始まったばかりだ

先週、欧州委員会はイタリア政府に断固とした通達を送ったが、イタリア政府からの返事が説得力に欠けるものだったことから、委員会は予算案の再提出を要求する可能性が高い。この要求は木曜日まで、もしかすると明日にでも送られるかもしれない。イタリア政府は11月の中旬に返答をするまで3週間ほどの猶予があるが、方法としては大きく変更を加えた予算案を送る、同一かほとんど変えていないものを再び提出する、さらには送りさえしないということが考えられる。

弊社のベースシナリオは、短期的にはイタリア政府が後に引くことはないだろうとみている。そうなると委員会には、1) 過剰赤字是正手続き(EDP:EXCESSIVE DEFICIT PROCEDURE)と制裁を同時に発動、2) EDPを発動するが、制裁については後の段階で課すと警告するにとどまる、3) EDPを発動するための準備は始めるが、今後数ヵ月は実行に移さない、という3つの選択肢がある。弊社の見解では、イタリア政府が軌道修正しない限り、1番目か2番目のケースになる可能性が高い。よって、EDPが発動されるとすれば1月中旬までになるだろうが、年内の可能性は低いだろう。しかし、政府が予算案採択までに、たとえ部分的にでも委員会に屈服することがあれば、連立政権内の政治的な緊張をさらに高めることになるだろう。そうなると、予算案が採択されないリスク、政権崩壊のリスクが高まる可能性がある。

●欧州経済(10/18):ECBプレビュー:来年は目標を絞った策が必要になるか

来週(25日)のECB理事会では、金融政策、フォワードガイダンス、再投資方針に関する大きなニュースは出ないと弊社は見込んでいる。景気見通しに対するリスクが再度主な論点となる可能性はあるが、リスクは総じてバランスしているという評価は変わらず、量的緩和は12月に終了すると弊社ではみている。不確実性が高い中、政策ガイダンス(来年には精巧になる見込み)の必要性は依然として高い。景気見通しが悪化すれば、前倒しで利上げが実施されるという 弊社の見方(来年に40BP利上げが実施され、その後は2021年中頃まで利上げは控えられる)に反論することになる。だがECBは、金利パスの推移から追加の景気刺激策まで、あらゆる可能性を考慮することが必要になるだろう。

弊社は引続き、2019年のGDP成長率見通しには(域内要因を主因に)比較的自信を持っている。だが、ECBのインフレ・投資に対する楽観的な見通しは共有できない。景気モメンタムがさらに弱まるなら、ECBは不確実性に対抗すべく新たにTLTRO3を実施して、銀行の貸出能力を高める可能性がある(特に、2020年は5,000億ユーロ前後のTLTRO2が満期となる)。弊社はまた、マイナスの中銀預金金利を解消に向かわせることで、(民間の)信頼感が高まって、望ましい資金調達条件を積極的に活用するインセンティブが強まる可能性があるとみている。これにより銀行の収益性が強化され、合理化や不良債権処理を早める可能性も高くなるだろう(これらはECBとしても望ましい)。ユーロ高と域内の過度な信用拡大が短期的なリスク要因となることは考えられる。だが米国の追加利上げが見込まれ、ユーロ圏全域での資産バブルも発生していないため、(発生しても)こうしたリスクには対処可能とみられる。

●欧州経済(10/17):EUの側から見たブレグジット

10月17日(水曜日)から始まる欧州首脳会議では、ブレグジットに関して議論が行われる。弊社の英国担当チーフエコノミストBRIAN HILLARDが示した通り、また最近のニュースフローが入り混じっているにもかかわらず弊社は、EU条約第50条に基づく合意(離脱協定)の可能性が最も高い、という見方を変えていない。ただその実現は、11月中旬の臨時首脳会議か12月の定例首脳会議となる可能性が高い。合意には、アイルランドとのハードボーダー(厳格な国境管理)は避けられるという、英国の保証が必要になるだろう。EUは、法的強制力のあるバックストップ(安全装置)を要求しており、これが現時点では最も難しい部分になっている。合意には2020年末までの移行期間(あるいは別の期限)が含まれ、必要ならば延期される。移行期間中は英国全体が単一市場および関税同盟に留まり、移行期間終了までは、準備なしに英国がEUを離脱する「クリフ・エッジ型離脱」のリスクは先送りされる。

将来の関係に関して、「譲れないライン」はEU、英国ともに変わっていない。とはいえ下記の通り、EUは二者択一の結果を「譲れないライン」と考えている。①英国が(ノルウェーのように)EEA(欧州経済領域)に留まる(名前だけのブレグジット)か、②英国とEUが従来型の対外貿易協定を結ぶ(いわゆる「カナダ+++」)、のいずれかの形をとることだ。だが英国は、グレーな(白黒をつけない)多くの可能性を視野に入れている。弊社の見たところ、離脱協定には、将来の関係についての拘束力のある誓約が含まれる可能性が非常に高い(EU、英国とも欧州議会選挙を前に政治的資本が限られており、承認プロセスも面倒になる可能性が高い)。弊社は、曖昧で拘束力が無い政治宣言に留まると見込んでいる。もう少し詳しく言えば、将来の貿易関係についての要望を示し、同時に、英国が単一市場から外れたことを認識しながらも英国とEUの密接な統合を公約する、という形になるとみている。

短期的には、離脱協定が英国議会を通過する必要があることが、最大の政治リスクである(失敗した場合英国は、合意が成立しないまま2019年3月29日に「クリフ・エッジ型」でのEU離脱になる)。長期的には、EUが考える「譲れないライン」とEUの27カ国での(各国議会での票決を含む)困難な承認プロセスが、最大のハードルとなる可能性がある。

●中国経済(10/23):景気減速を確認、緩和策は依然及び腰

中国の2018年第3四半期(Q3)実質GDP成長率は、Q2を0.2PP下回る6.5%だった。名目GDP成長率は、(デフレータは2.9%で変わっておらず)Q2の9.8%から9.6%への減速に留まった。支出では、米国の受注前倒し効果で純輸出が多少改善したが、内需減速(特にインフラ、消費、企業セクターの投資)は相殺できなかった。

今後は、GDP拡大の抑制圧力が強まると弊社も見込んでいる。依然底固い住宅投資も、住宅販売の低調さに最終的には屈するだろう。製造業の投資も、景況感悪化にもかかわらず力強いという状況だが、貿易を巡る状況が不確実な中で長続きしない可能性がある。

直近データも中国政府最大の課題を浮き彫りにする形になった。その課題とは、「債務を安定させる改革を続ける中で、短期的な経済成長率を安定させる」である。緩和的なアプローチに本腰が入っていないため、インフラ投資の回復は緩慢で信用状況も依然としてタイトである。確かに、景気がさらに減速すれば緩和策が追加されるだろう。しかし政府のアプローチは「対応的」で(何らかの事態を受けてそれに対応する色合いが強い)、政策実行までのタイムラグが長くなるほか、景気回復前の減速も比較的深刻になるとみられる。

●MUTUAL FUND & ETF WATCH(10/16):倒れたが終わりではない ? 新興市場ファンドのフローに注目

新興市場ファンドへの資金流入-終息ではなく小休止:2018年初にみられた新興市場資産に対する投資家の買い意欲は、その後、厳しい逆風(トランプ大統領による貿易戦争、FRBの利上げ、米債券利回り上昇、ドル高、トルコやアルゼンチンなど国固有の問題)によって損なわれている。それらが引き金となり、新興市場ファンドへの累計資金流入額は突然減少に転じた(下左図)。一方、最新データは資金流出に歯止めがかかっていることを示している(下右図)。本稿のEDITORIALでは、新興市場債(英語レポートの3ページ)と新興市場株(5ページ)への資金フローに着目している。弊社は、米国資産から他に資金を分散化すべき時だと考えており(2018年9月13日付のMULTI ASSET PORTFOLIO参照)、今夏のかなり無差別的(INDISCRIMINATE)な急落を経て新興市場に対する前向きな見方を維持している。

-新興市場への資金流入は再開しよう:トランプ大統領による貿易戦争は明らかに状況を歪めているが、それがなければ、景気サイクル終盤では新興市場が良好なパフォーマンスを示すのが普通である(2018年8月7日付のMULTI ASSET SNAPSHOT参照)。今夏の新興市場の混乱にもかかわらず、ほとんどの新興諸国は10年前よりもはるかに健全な状態にあり、中国は依然として比較的安全な国の一つだと思われる(2ページの図参照)。弊社は来年の中国の成長率が6.1%に低下するとのシナリオに基づき、引き続き中国国債は特に魅力的だとみている。中国人民銀行(PBOC)が今週初めに預金準備率(RRR)を引き下げたことは、成長減速が依然として比較的上手くコントロールされているとの見方を裏付けている。

-中国は無視するには大き過ぎる:2019年4月からBLOOMBERG-BARCLAYSが遂に中国をグローバル債券指数に組み入れる。同様に、MSCIは中国株の指数組み入れ比率をさらに引き上げると示唆している。いずれの措置も、中国資産を投資家のポートフォリオに不可欠な構成要素(MUST-HAVE COMPONENT)にする可能性が高い。今夏の人民元の下落(年初来で-6%)と資産価格の大幅下落(ハンセン指数は年初来で-16%)は、より魅力的なエントリーレベルを提供している。

●債券市場(10/21):一進一退の展開

米連邦準備制度理事会(FRB)のタカ派的な政策スタンスとリスク・イベントの綱引きが続いているため、債券利回りは一進一退の動きとなっている。これにイタリアの財政や来年度予算をめぐる不透明感と、英国の欧州連合(EU)離脱交渉に対する懸念が加わり、投資家を安全性の高い債券市場に向かわせる要因として作用している。弊社は弱気な方向に傾いた相場展開を予想しているが、条件付きでそれに対応するポジショニングを推奨する。

過去の翻訳レポートを弊社のリサーチサイト( https://insight.sgmarkets.com/#/page/japanese )に掲載しています。

また、原文の英語レポートもご覧いただけます。

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ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司