自筆で書く遺言(自筆証書遺言)は手軽に書くことができる反面、保管場所には注意が必要です。

遺言書をどこにしまってあるか家族に伝えておくと相続がスムーズにできますが、内容によっては家族が遺言書を破棄、改ざんする恐れがあります。一方で、遺言書をどこにしまってあるか家族に伝えなければ、家族に遺言書を見つけてもらえない可能性があります。故人の最後の意思表示である遺言は、家族に読んでもらえなければ書いた意味がなくなってしまいます。

このほど相続に関する制度が見直され、自筆証書遺言を法務局で保管する制度ができます。遺言書の紛失、改ざんの恐れがなくなるほか、家族が遺言書の有無を簡単に確認できるようにもなります。また、自筆証書遺言のうち、財産目録に限ってはパソコンで作成しても良いことになります。

この記事では、自筆証書遺言の保管制度と遺言書作成のルール緩和について、現在わかっていることを詳しくお伝えします。

1.自筆証書遺言の短所は家族に見つけてもらえないこと

自筆証書遺言の保管制度
(画像=税理士が教える相続税の知識)

遺言書は自分の死後のために生前の意思を書面に残したものですが、法律上は財産や身分に関する事項を書き残したものをさします。遺言書を法律上有効なものにするためには、民法に定められた形式に従って作成しなければなりません。遺言の主な形式には、自筆で書く自筆証書遺言や公証人に筆記してもらう公正証書遺言などがあります。

自筆証書遺言は自分一人で費用をかけずに書くことができますが、民法に定められた要件を満たさず無効になる例も少なくありません。さらに、保管した場所が家族に伝わらずに、遺言書を見つけてもらえない短所もあります。

遺言書が書斎の机の引き出しにあれば比較的見つけやすいですが、へそくりを隠すように本棚の本の間に入れてあれば見つけにくくなってしまいます。大事な書類だからといって貸金庫に遺言書を入れる人もいますが、貸金庫は契約者が死亡すると相続人が全員同意するまで開けることができなくなります。弁護士や信託銀行などに遺言書を預けることもできますが、費用面から誰もが簡単にできる方法ではありません。

家族に遺言書を見つけてもらえなければ、せっかく書き残した意思が活かされないだけでなく、家族は一から遺産分けの話し合いをしなければなりません。遺言で意思を伝えて相続をスムーズに進めるためには、遺言書の保管場所や保管方法に配慮が必要です。

公正証書遺言は確実だが手間と費用がかかる

自筆証書遺言と並んで代表的な遺言の形式である公正証書遺言は、法律上無効になることがなく、改ざんや紛失の心配がありません。遺言の内容は専門家である公証人が筆記し、原本が公証役場で保管されるからです。

しかし、公正証書遺言を作成するには手間と費用がかかります。事前の打ち合わせを含めて公証人とのやりとりが必要で、証人2名の立ち会いも求められます。遺産の額に応じた手数料も必要になります。

参考のため、自筆証書遺言と公正証書遺言の比較表をご紹介します。

自筆証書遺言の保管制度
(画像=税理士が教える相続税の知識)

2.自筆証書遺言の保管制度ができる

今回の制度改正で自筆証書遺言の保管制度が新設され、自筆証書遺言を法務局で保管できるようになります。この章では、現時点で予定されている自筆証書遺言の保管制度の内容をご紹介します。

2-1.遺言書の原本と画像データが法務局で保管される

自筆証書遺言の保管制度では、法務局で遺言書を保管するほか、遺言を書いた人が死亡した後であれば全国の法務局で遺言書の有無や遺言書の内容が確認できるようになります。

自筆証書遺言の保管の手続き

自筆証書遺言の保管の手続きは、次の場所を管轄する法務局で行います。

  • 遺言書を書いた人の住所地
  • 遺言書を書いた人の本籍地
  • 遺言書を書いた人が所有している不動産の所在地

手続きには遺言書のほか、遺言を書いた人の本人確認書類など所定の書類が必要です。法務局で中身を確認するため、遺言書の封はしません。

提出された自筆証書遺言は、法律上の要件を形式的に満たしているかの確認が行われ、原本を保管したうえで画像データとして記録されます。

相続開始後の手続き

遺言書を書いた人が死亡して相続が始まった場合は、次のことができます。

  • 誰でもできる事項
     ・自分が相続人になっている遺言書の有無の確認
  • 相続人など関係者ができる事項
     ・遺言書の原本の閲覧
     ・遺言書の画像データの確認

遺言書の有無の確認と画像データの確認は、全国どこの法務局でも申請ができます。遺言書の原本の閲覧は、遺言書が保管されている法務局で申請します。

遺言書の原本の閲覧や画像データの確認の申請が行われると、法務局からすべての相続人に対して遺言書を保管していることが通知されます。

なお、自筆証書遺言は家庭裁判所で検認手続きを行う必要がありますが、法務局で保管した自筆証書遺言は検認手続きが不要になります。

2-2.保管制度を使っても万全ではない

自筆証書遺言の保管制度では遺言書が厳重に保管されるうえ、所在も簡単にわかるようになります。改ざんの恐れもなく、相続がスムーズにできることが期待されます。

しかし、いくら制度が改善されても、家族が遺言書を探すために法務局に問い合わせなければ遺言書は見つかりません。遺言書を法務局で保管する場合は、そのことを家族にも伝えておくようおすすめします。

また、何らかの事情で遺言書を書きなおした場合は、そのつど最新の遺言書を法務局で保管するようにしましょう。すでに保管していた古い遺言書については、保管を撤回することができます。

3.財産目録に限ってパソコン作成が可能に

自筆証書遺言に関してはもう1つ改正事項があり、自筆証書遺言のうち財産目録に限ってはパソコンで作成することが認められるようになります。

自筆証書遺言は全文を自筆で書かなければなりませんが、財産の数が多い場合にそれらのすべてを自筆で書くことは大変な作業です。また、遺言書を書いた後で財産の内容に変更があった場合にそのつど訂正したり、全部書きなおしたりすることも手間がかかります。

そこで、自筆証書遺言の作成のルールが緩和されることになり、遺言書のうち財産の目録については自筆で書かなくても良くなります。財産目録をパソコンで作成するほか、預金通帳などのコピーを添付することもできます。ただし、財産目録の各ページ(両面に記載する場合は両面とも)に署名・押印することが必要です。

自筆証書遺言の保管制度
(画像=税理士が教える相続税の知識)

4.まとめ

ここまで、相続に関する制度の見直しで新設される自筆証書遺言の保管制度と遺言書作成のルール緩和について、現在わかっていることを詳しくお伝えしました。

相続に向けて準備を進める「終活」が注目を集め、遺言書の作成に対する関心も高まっています。これまで遺言書には厳格なルールが適用されてきましたが、利便性を損ねる側面もありました。厳格さを保ちながらルールを緩和する今回の改正で、より利用しやすい制度になることが期待されます。

これらの制度改正の実施日はまだ決まっていませんが、これから遺言書を作成される場合はこの記事の内容を参考に準備するとよいでしょう。より詳しい内容は、相続の専門家に確認することをおすすめします。

(提供:税理士が教える相続税の知識